障がい者雇用の助成金とは?申請の流れや注意点についても解説

【監修】株式会社ジオコード 管理部長
小島 伸介
株式会社ジオコード入社後、Web広告・制作・SEOなどの事業責任者を歴任。
上場準備から上場まで対応した経験を生かし、サービス品質の改善を統括する品質管理課を立ち上げ。その後、総務人事・経理財務・情報システム部門を管掌する管理部長に就任。
現代の経営環境において、障がい者雇用は単に法定雇用率の達成を目的とするものではなく、企業の社会的信頼やブランド価値を高めるための重要な経営戦略の一つとなっています。少子高齢化や労働人口の減少といった社会背景のなかで、多様な人材を確保し、活用していくことはすべての企業にとって避けられない課題です。
このような状況を踏まえ、国は「障害者雇用促進法」に基づき、障がい者雇用を推進する企業を支援するためのさまざまな助成金・補助金制度を整備しています。これらの制度を活用することで、採用に伴う経済的負担の軽減だけでなく、職場環境の整備や業務効率の向上、さらには組織体制の強化といった幅広い効果が期待できます。
【ポイント】
- 採用活動や定着支援、職場環境の改善などにかかる費用を、助成金によって補填することが可能です。
- 各助成金制度は、厚生労働省および都道府県等が所管しており、制度改正も頻繁に行われるため、最新情報の継続的な確認と社内体制の整備が欠かせません。
- 経営層や人事部門にとっては、経済的支援のみならず、CSRやダイバーシティ推進といった視点からも制度活用の意義は大きく、組織全体の価値向上にも寄与します。
本記事では、企業が活用できる主要な助成金・補助金制度の概要や特徴、申請手続きの流れまでを体系的に解説します。制度ごとの目的や受給要件、支給額、申請方法を理解することで、企業はリスクを最小限に抑えつつ、最大限の支援を受けるための戦略的な活用が可能になります。制度の変更に対応するための継続的な情報収集や、社会保険労務士など専門家との連携を通じて、企業全体の障がい者雇用体制を強化することが期待されます。
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障がい者雇用の助成金・補助金の概要と目的
障害者雇用促進法のもと、企業には法定雇用率の達成が義務づけられており、障がい者の採用が一層求められています。採用時には、バリアフリー化をはじめとする職場環境の整備や、多様な障がい特性に対応した支援体制の構築が不可欠です。こうした取組みを後押しするため、国や自治体では、雇用や設備に関する助成金・補助金制度が多数設けられています。自治体によっては「奨励金」として独自支給を行っているケースもあるため、地域ごとの制度情報も確認しておくとよいでしょう。
障がい者雇用の助成金・補助金の種類と特徴
障がい者雇用に活用できる助成金・補助金制度は、企業の規模や雇用形態、対象となる障がいの内容などによって多岐にわたります。ここでは、企業が押さえておきたい代表的な制度と、その特徴をわかりやすく解説します。
雇入れ段階で活用できる助成金
特定求職者雇用開発助成金
この制度は、就職が困難とされる障がい者をハローワークなどの紹介により雇用した企業に対して、支給が行われるものです。対象には、身体障がい者、知的障がい者、精神障がい者、発達障がい者、難治性疾患を抱える方などが含まれます。支給額は、企業規模や労働時間の長さによって異なります。
トライアル雇用助成金
職業経験が不足している障がい者を試用的に雇用し、一定期間後に本採用へと移行させる仕組みです。試用期間中の賃金の一部が助成されるため、企業にとっては採用リスクを軽減しつつ、適性を見極めることが可能となります。
雇用継続・定着支援を目的とした助成金
障がい者雇用安定助成金
障がい特性に応じた就業管理や勤務体制の見直しなど、障がい者が長く安心して働ける職場づくりを支援する制度です。正社員化への転換支援、職場支援員の配置、ジョブコーチの導入など、複数のコースが用意されており、企業の定着率向上と職場改善に大きく寄与します。
能力開発・職場環境整備に関する助成金
人材開発支援助成金
障がい者のスキルアップや職業能力向上のための研修・訓練に対し、費用の一部を助成する制度です。専門性の高い業務へのチャレンジを促進し、企業全体の生産性向上にもつながります。
■ 障がい者作業施設設置等助成金
バリアフリー対応や作業環境改善を目的とし、設備導入や施設整備を行う際の費用を補助する制度です。車椅子対応の机・通路整備、情報保障ツールの導入など、障がい者が働きやすい職場環境の整備を後押しします。
障がい者雇用の助成金申請の流れ
助成金の効果を最大化するには、制度の正しい理解と、スムーズな申請手続きが不可欠です。ここでは、申請の基本的な流れと、押さえておくべき注意点について段階ごとに解説します。
① 事前準備と内部体制の整備
まず、自社の障がい者雇用に関する現状を把握することが重要です。労働者数や雇用形態、過去の採用実績、雇用保険の適用状況などを整理し、必要書類や手続きフローを明確にしておきます。また、厚生労働省や都道府県労働局のサイトを通じて、各助成金制度の最新情報を把握し、制度改正への対応も視野に入れます。
人事部門だけでなく、経理部門や法務部門との連携を図り、必要書類の管理・保存体制を整えることも成功の鍵となります。
② 書類作成と申請準備
各制度ごとに定められた申請書類を正確に整備する必要があります。たとえば、雇用契約書、労働時間記録、賃金台帳、研修報告書などが求められることがあります。申請書類の記入ミスや漏れを防ぐため、チェックリストを活用し、関係部署との情報共有を行いながら丁寧に仕上げていきましょう。
③ 申請提出と対応
準備が整ったら、各制度の所定の申請窓口(ハローワーク、労働局など)へ提出します。郵送またはオンライン申請が可能な場合もありますが、制度や地域によって異なるため、事前確認が必要です。提出後は審査が行われ、追加書類の提出や問い合わせ対応が求められる場合もあるため、迅速に対応できる体制を整えておくことが重要です。
④ 審査結果と支給決定
審査を経て支給が決定されると、企業口座への入金が行われます。ただし、支給までに一定期間を要するため、資金計画を含めた全体のスケジュール管理が必要です。申請後も、進捗管理やアフターフォローを怠らず、制度活用の成果を社内にしっかりと共有することが求められます。
障がい者雇用の助成金活用における注意点
助成金を活用する際には、以下の点に注意すると良いでしょう。
- 最新情報の継続的な確認
制度は年度ごとに改正されることが多く、古い情報をもとにした申請はトラブルの原因となります。必ず公的機関の最新情報を参照しましょう。 - 期限の厳守
申請書の提出期限を過ぎると、いかなる理由であっても受理されない場合があります。余裕をもったスケジュール設定が重要です。 - 書類の正確性
誤記や記載漏れ、不備のある申請は審査の遅延や不支給の原因となります。内部チェック体制を整え、確実な記載を心がけましょう。 - 併給の制限
同一の費用に対して複数の助成金を重複して受給することは原則として認められていません。制度間の併給条件を事前に確認しておく必要があります。 - 不正受給の防止
意図的でなくとも、誤った情報で申請を行えば不正受給と見なされる可能性があります。透明性のある運用と第三者による確認体制が望まれます。
助成金を有効に活用するには、最新情報の確認、期限厳守、正確な書類作成、併給ルールの把握、不正受給の防止が重要です。丁寧な準備と運用で、安心して制度を活用しましょう。
まとめ
障がい者雇用における助成金制度は、企業の人材戦略やCSR推進において、極めて有効なツールです。採用コストの削減や職場環境の改善に加え、組織文化の向上にもつながる可能性を秘めています。制度を「一時的な支援」と捉えるのではなく、「中長期的な投資」として活用することで、持続可能な雇用体制の構築と企業価値の向上が実現されるでしょう。