風評被害による損害賠償請求：企業がとるべき法的手段と対策【完全ガイド】

インターネットやSNSの普及により、情報は瞬時に拡散される時代となりました。この情報化社会において、企業にとって風評被害は深刻な経営リスクとなっています。事実無根の情報や悪意のある噂が広まることで、売上減少、信用失墜、株価下落など、企業活動に甚大な悪影響が生じる可能性があります。

風評被害は、企業が正当な権利を守り、被害回復を図るために、損害賠償請求という法的手段を検討すべき重大な問題です。本記事では、「風評被害 損害賠償」というキーワードに関心を持つ企業の管理部門や決裁者の方々に向けて、風評被害による損害賠償請求の可否、具体的な請求方法、請求における注意点、そして専門家を活用することの重要性について詳しく解説します。

1. 風評被害とは？企業に与える影響とその深刻度

風評被害とは、事実と異なる情報や悪意のある噂が、インターネット上や口コミなどを通じて拡散されることにより、企業やその商品・サービスに対する社会的評価が低下することを指します。

具体例

風評被害の具体例

• インターネット上の誹謗中傷、デマ: 掲示板、SNS、ブログなどに、根拠のない悪評や虚偽の情報が書き込まれる。
• SNSでの炎上: 企業や従業員の不適切な言動、商品・サービスの不具合などがきっかけとなり、批判や非難が殺到する。
• マスメディアによる誤報、偏向報道: 事実と異なる報道や、一部の側面だけを強調した報道が行われる。
• **競合他社による意図的な情報操作：**競合他社が、自社の製品やサービスの優位性をアピールするために、虚偽の情報を流したり、不当な比較広告を掲載する。

風評被害が及ぼす企業への影響

風評被害は、企業の経営に多岐にわたる深刻な影響を及ぼします。

• 売上・利益の減少: 消費者の購買意欲が低下し、商品・サービスの売上が減少する。
• 株価の下落: 投資家からの信頼が失われ、株価が下落する。
• ブランドイメージの毀損: 企業の社会的評価が低下し、長年かけて築き上げてきたブランドイメージが傷つく。
• 採用活動への悪影響: 求職者からの応募が減少し、優秀な人材の確保が困難になる。
• 従業員のモチベーション低下: 自社に対する批判や中傷を目にすることで、従業員の士気が低下し、離職につながる可能性もある。
• **取引先との関係悪化：**風評被害によって企業の信用が低下すると、取引先との関係が悪化し、取引停止や契約解除につながる可能性がある

風評被害は、単なるイメージダウンにとどまらず、企業の存続を脅かす可能性さえある重大なリスクです。

2. 風評被害で損害賠償請求できるケース・できないケース：法的根拠と判断基準

風評被害によって損害を受けた場合、必ずしも損害賠償請求ができるわけではありません。ここでは、請求が認められるケースと認められないケースについて、法的根拠を交えながら詳細に解説します。

請求できるケース（法的根拠）

• 名誉毀損: 公然と事実を摘示し、その内容が虚偽であり、企業の社会的評価を低下させた場合、名誉毀損が成立します（刑法230条、民法709条、710条、723条）。
  
  • 「事実の摘示」とは、具体的な事実を示すことを指します。「A社はブラック企業だ」という抽象的な表現ではなく、「A社の社員は月100時間以上の残業を強いられている」といった具体的な内容である必要があります。
  • 名誉毀損の成立には、「公然性」「事実の摘示」「社会的評価の低下」の３つの要件を満たす必要があります。
• 侮辱罪: 事実の摘示がなくても、「馬鹿」「クズ」など、公然と人を侮辱する表現を用いた場合は侮辱罪が成立します（刑法231条）。
  
  • 侮辱罪は、名誉毀損罪とは異なり、事実の摘示を必要としません。
• 信用毀損罪：虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて、企業の信用を毀損した場合に成立します。（刑法233条）
  
  • 信用毀損罪は、企業の経済的な信用を保護するための法律です。
• 業務妨害罪: 威力を用いて業務を妨害した場合（威力業務妨害罪、刑法234条）、または、虚偽の風説を流布し、もしくは偽計を用いて業務を妨害した場合（偽計業務妨害、刑法233条）に成立します。 *　業務妨害罪は、企業の業務活動を保護するための法律です。
  
• 不正競争防止法違反: 企業の商品・サービスに関して、虚偽の情報を意図的に流布し、競争関係にある他社の営業上の信用を害した場合、不正競争防止法違反に該当する可能性があります。
  
  • 不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を確保するための法律です。

請求が難しいケース

• 情報が真実である場合: 表現された内容が真実である場合、原則として名誉毀損は成立しません。真実性の証明は、発信者側（被告）に立証責任があります。
• 公共の利害に関する事項で、公益目的で発信され、真実であると信じる相当の理由がある場合: 例えば、企業の不正行為を告発するようなケースでは、公共の利益に関わる情報であり、告発者に真実であると信じるだけの理由があれば、名誉毀損が成立しない場合があります（真実相当性の法理）。
• 意見・論評の範囲内である場合: 「A社の商品は使いにくい」といった意見や感想は、個人の主観に基づくものであり、原則として名誉毀損にはあたりません。ただし、意見や論評であっても、その前提となる事実が虚偽であれば、名誉毀損が成立する可能性があります。

3. 損害賠償請求の方法と流れ：発信者特定から訴訟まで

風評被害による損害賠償請求は、以下の手順で進めます。

発信者特定:

1. 損害賠償請求:
   
   • 発信者が特定できたら、損害賠償請求を行います。
   • 示談交渉: まずは、発信者との間で示談交渉を試みます。示談交渉では、弁護士を介して、損害賠償額や謝罪文の掲載などを協議します。
   • 民事訴訟: 示談が成立しない場合は、裁判所に損害賠償請求訴訟を提起します。訴訟では、原告（企業）が、被告（発信者）の行為によって被った損害を立証し、損害賠償を請求します。
2. 刑事告訴（名誉毀損罪、侮辱罪など）:
   
   • 悪質なケースでは、名誉毀損罪や侮辱罪などで刑事告訴を検討することも可能です。刑事告訴は、警察や検察に犯罪の捜査を求めるものであり、損害賠償請求とは別の手続きです。刑事告訴が受理され、検察官が起訴すると、刑事裁判が行われます。

4. 損害賠償請求できる金額の相場：慰謝料、逸失利益、弁護士費用など

損害賠償請求できる金額は、個別のケースによって大きく異なります。算定要素となるのは、主に以下の項目です。

• 慰謝料: 風評被害によって被った精神的苦痛に対する賠償です。名誉毀損の程度、企業の規模、風評被害による影響の大きさなどを考慮して算定されます。一般的に、法人の場合は、個人に比べて慰謝料は低額になる傾向があります。
• 逸失利益: 風評被害がなければ得られたはずの利益です。売上減少額や株価下落額などを基に算出しますが、風評被害との因果関係を立証する必要があります。逸失利益の算定は、専門的な知識が必要となるため、公認会計士や税理士などの専門家の協力を得ることが一般的です。
• 弁護士費用: 弁護士に依頼した場合の費用です。着手金、報酬金、実費などがあります。
• 調査費用: 発信者特定にかかった費用などです。

具体的な金額の相場を示すことは難しいですが、企業の被った損害の大きさ、風評の内容、拡散の程度などを総合的に考慮して判断されます。専門家である弁護士に相談し、適切な金額を見積もることが重要です。

5. 企業が取るべき風評被害対策：予防と事後対応の具体策

風評被害は、一度発生すると企業の信用を大きく毀損し、回復には多大な時間と労力を要します。そのため、平時からの対策が不可欠です。

予防策

• 情報発信体制の構築: 公式ウェブサイトやSNSアカウントなどを通じて、正確な情報を積極的に発信する体制を整えます。企業としての公式な見解を明確にすることで、誤った情報が拡散されるのを防ぐ効果があります。
• ソーシャルメディアガイドラインの策定: 従業員がSNSを利用する際のルールを明確にし、不適切な情報発信を防ぎます。ガイドラインには、企業のブランドイメージを守るための具体的な行動指針を盛り込むことが重要です。
• 従業員への教育・研修: 風評被害のリスクや、情報発信に関する注意点などを従業員に周知徹底します。定期的な研修を実施し、従業員のリテラシーを高めることが重要です。
• モニタリング体制の構築: インターネット上の情報やSNSの投稿などを定期的に監視し、風評被害の兆候を早期に発見できる体制を構築します。専門のモニタリングツールを導入したり、外部の専門業者に委託したりすることも有効です。

事後対策

• 早期の事実確認、原因究明: 風評被害が発生した場合、まずは事実関係を迅速かつ正確に確認し、原因を特定します。憶測や不確かな情報に基づいて対応すると、事態を悪化させる可能性があります。
• 風評の拡散状況の把握: インターネット上やSNSでの風評の広がりを把握し、影響範囲を特定します。拡散状況を把握することで、より効果的な対策を講じることができます。
• 適切な情報発信: 事実と異なる情報が拡散されている場合は、公式ウェブサイトやSNSなどで訂正情報を発信します。迅速かつ正確な情報発信は、風評被害の拡大を防ぐ上で非常に重要です。
• 法的措置の検討: 悪質な風評被害に対しては、削除請求や損害賠償請求などの法的措置を検討します。法的措置は、専門家である弁護士に相談し、慎重に進める必要があります。
• 風評被害対策の専門家（弁護士、コンサルタントなど）への相談: 専門家のアドバイスを受け、適切な対応策を講じます。

6. 風評被害対策は専門家への相談を：弁護士とコンサルタントの役割

風評被害は、法的な問題だけでなく、広報戦略や危機管理など、多角的な視点からの対応が必要です。専門家のサポートを受けることで、より効果的な対策を講じることができます。

弁護士に相談するメリット

• 法的観点からの適切なアドバイス: 風評被害の状況を分析し、法的措置の可否や、とるべき対応についてアドバイスを受けられます。
• 発信者特定のサポート: 発信者特定は専門的な知識が必要となるため、弁護士のサポートは不可欠です。
• 損害賠償請求手続きの代行: 示談交渉や訴訟手続きを弁護士に任せることで、企業側の負担を軽減できます。
• 削除請求の代行: 弁護士は、プロバイダやサイト管理者に対して、風評被害を書き込んだ投稿記事の削除を請求することができます。

風評被害対策コンサルタントに相談するメリット

• 風評の拡散状況の分析、モニタリング: 専門的なツールやノウハウを活用し、風評の拡散状況を詳細に分析します。
• 情報発信戦略の立案、実行支援: 効果的な情報発信戦略を立案し、実行をサポートします。
• 炎上対策、沈静化: 炎上を鎮静化させるための具体的な対策を講じます。
• 再発防止策の提案: 風評被害の再発を防ぐための具体的な対策を提案します。

風評被害対策は、早期発見・早期対応が重要です。問題が深刻化する前に、弁護士やコンサルタントなどの専門家に相談することを強く推奨します。

7. まとめ

風評被害は、企業にとって重大な経営リスクであり、損害賠償請求は、企業の権利を守り、被害回復を図るための重要な手段です。損害賠償請求には、法的な知識や手続きが必要となるため、弁護士などの専門家に相談することが不可欠です。また、風評被害は、発生してから対応するのではなく、平時から予防策を講じ、モニタリング体制を構築し、リスクを最小限に抑えることが重要です。万が一、風評被害が発生した場合には、迅速に事実確認を行い、適切な情報発信を行い、必要であれば法的措置を検討するなど、冷静かつ適切に対応しましょう。