債権管理とは? 具体的な業務フローや注意点について分かりやすく解説
【監修】株式会社ジオコード マーケティング責任者
渡辺 友馬
掛け取引が一般的なBtoBビジネスで企業が安定した経営をするためには、債権管理が必要不可欠です。しかし人材不足やノウハウ不足から、効率的な債権管理を行えていないケースも少なくありません。債権管理はどのような方法で行えば良いのでしょうか。
本記事では債権管理の概要や重要性、業務フロー、一般的な債権管理方法、実行する場合の注意点やトラブルを防ぐ方法を解説します。適切な債権管理は資金繰り悪化を防ぐために欠かせませんが、作業が膨大になりやすく、ミスも発生しやすいです。本記事を参考にして、効率良く正確な債権管理を行いましょう。
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債権管理とは?
債権管理とは、文字通り債権を管理することです。
債権とは他者に対して何らかの行為を請求できる権利のことで、代表的なものには掛け取引で発生する売掛金や役員や子会社への貸付金などがあります。
例えば掛け取引で売掛金が発生した場合、商品は納入しているものの、まだ売上は入金されていない状態です。問題なく売掛金が入金されれば問題はありませんが、入金が滞ると自社の資金状況が悪化してしまう恐れがあるため、債権管理を行って売掛金を回収しなければなりません。
債権管理では今ある債権を把握して請求管理や入金管理を行い、未回収の債権を回収できるように適切な対応を取ります。
与信管理との違い
債権管理と与信管理の違いは、実施するタイミングです。
与信管理は取引先の与信を元にして取引額や支払い間隔などを管理することを意味し、取引が発生する前に行います。与信は文字通り「信用を与える」という意味ですが、ビジネスにおいては「取引先の信用情報や調査内容を元にした取引先の信用度」のことです。
代金が後払いになる掛け取引で、なんの根拠もなく相手を信用して取引をしてしまうと、売上金を回収できずに、自社の資金繰りが悪化してしまう恐れがあります。与信管理を実施すれば与信に応じた取引を行うことができ、売掛金未回収リスクを軽減できます。
一方債権管理は前述した通り、売掛金などの債権を管理することなので、取引を行って債権が発生してから行う業務です。
ただし与信管理は債権管理の最初のステップとされることもあります。
債権管理の重要性・目的
債権管理の重要性と目的を見ていきましょう。
資金繰りを健全に保つため
債権管理を行う目的の一つは、自社の資金繰りを健全に保つことです。
日々掛け取引が発生するBtoBビジネスでは、いくら売上があっても売掛金が回収できないと資金繰りが悪化してしまいます。回収できない売掛金が増えれば増えるほど資金繰りは悪くなり、最悪の場合は黒字倒産してしまう恐れすらあるでしょう。
適切に債権管理を行えば、売掛金未回収を未然に防ぐことが可能です。また万が一未回収の売掛金が発生した場合でも、資金繰りが悪化しそうなタイミングで適切な対処ができるため、資金繰りを健全に保つことができます。
全ての債権を把握するため
債権管理は、全ての債権を把握するためにも重要です。
債権ごとに支払い期限や返済期限が異なります。売掛金や貸付金が多くなると、その全てを記憶しておくことは難しいでしょう。特に企業規模が大きく、取引先の数や取引回数が多いと、全てを把握できず、未回収の売掛金が発生してもしばらく気付かないままになってしまうリスクも高いです。
債権管理を行ってどの取引先にどれだけの債権があり、いつ入金が行われるのかを把握しておけば、回収漏れを防ぐことができます。
期限通りに債権を回収するため
期待通りに債権を回収するためにも、債権管理は欠かせません。
期限までに支払いや返済が行われれば問題ありませんが、人的ミスや認識違い、取引先の資金繰り悪化などで、債権の支払いや返済が行われない可能性もゼロではありません。万が一債権が回収できなければ督促して回収を行いますが、取引先の資金繰りが悪化している場合、未回収に気付かないまま時間がたってしまうと、気付いたときには回収ができなくなってしまう可能性も高いです。
債権管理を行っておけば未回収が早い段階で発覚するので、状況に応じて適切な督促ができ、期待通りの債権回収がしやすくなるでしょう。
債権の時効による消滅を防ぐため
債権の時効による消滅を防ぐことも、債権管理を行う目的です。
債権の時効は債権者が権利を行使できると知った時点から5年間、もしくは債権の権利を行使できるときから10年間です(※)。売掛金の場合、取引が発生し売掛金が発生した時点で債権者は権利を行使できることを知っていることになるので、取引日から5年たってしまうと債権が消滅します。すると、取引先に支払いを請求できなくなるため、売掛金が回収できなくなってしまいます。
債権管理を行っていれば、時効によって債権が消滅してしまう前に適切な対応が取れるので、未回収を防ぐことができるでしょう。
※参考:厚生労働省.「民法改正に伴う消滅時効の見直しについて」.https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000170991.pdf , (参照 2024-09-01).
債権管理の業務フロー
債権管理は大きく分けると5つの業務があります。実際に債権管理を行う流れに沿って、どのような業務が必要になるのかを見ていきましょう。
1.与信管理:与信取引の限度額の設定
債権管理の最初のステップとなるのが、与信管理です。
前述した通り、与信管理は取引先の信用情報や調査内容を元にした取引先の信用度を元に、取引額や支払い間隔などを管理します。与信管理は、内部調査・外部調査・直接調査・依頼調査で取引に関する情報収集を行い、以下3つの分析手法で取引先の信用度をチェックします。
- 定量分析:財務諸表や決算書などの数値を用いて行う分析
- 定性分析:数値化できない情報を元にした分析
- 商流分析:取引全体の流れを元にした分析
与信管理は初めて取引を行う企業だけでなく、すでに取引がある企業に対しても定期的に行うことが大切です。また与信管理をする際は、取引先の反社会勢力との関係の有無や実態のある会社なのかを調査するコーポレートチェックも行いましょう。
与信管理を行って取引額や支払い間隔が決定したら、取引先の同意を取って、契約書を交わします。
2.売上管理:売上計上処理
取引が発生したら、売上管理を行います。
通常売上管理は1カ月単位で行われることが多いです。取引先ごとに1カ月単位で売上をまとめ、トータルの売上額をまとめます。出荷時や納品時など、どの時点で売上が発生したとするかは企業によって異なります。自社のルールにのっとって、漏れがないように計上しましょう。
売上管理の一環として、仕訳も行わなければなりません。例えば100万円の売上があった場合、売上を計上したタイミングで以下のように仕訳をします。
借方 | 貸方 | ||
売掛金 | 1,000,000 | 売上 | 1,000,000 |
3.請求管理:請求書の発行・送付
次に行うのは、請求書の発行や送付を行う請求管理です。
掛け取引の場合、事前に取り決めた締め日に売上をまとめて請求書を発行するケースが多いです。締め日は事前の取り決めによるため、取引先との契約に従って請求書を発行しましょう。送付方法はメールや郵送、システム上へのアップロードなどがありますが、こちらも事前の取り決めに従ってください。
請求書は取引先から形式に指定があることもありますが、特になければ自社でテンプレートを作成しておくと便利です。インターネットでダウンロードできるテンプレートもあります。
請求書を発行したら、債権管理表に債権の記入も行いましょう。債権管理表は取引先ごとの売掛金残高をまとめる「売掛金残高一覧表」と、取引先ごとに時間軸に区分して売掛金残高をまとめる「売掛金年齢表」があります。上場企業の場合、会計監査で売掛金年齢表が求められることも多いです。売掛金発生月・金額・回収期限・回収日・繰越金額が一目で分かるようにまとめておきましょう。
4.入金管理:入金消込
支払い期日までに入金があったら、入金消込を行います。
作成した債権管理表の内容を更新し、売掛金や貸付金を帳簿から消去しましょう。普通預金に売掛金の入金があった場合、帳簿上は以下のように仕訳します。
借方 | 貸方 | ||
普通預金 | 1,000,000 | 売掛金 | 1,000,000 |
入金消込を行う際は、請求額と入金額に相違がないかも確認しましょう。金額に相違があった場合、数の請求書の入金がまとめられている、振り込み手数料が差し引かれているなどが考えられます。確認しても相違の理由が見つからない場合は、取引先に確認してください。
入金があったのに入金消込を忘れると、入金済みの取引先に対して督促を行うことになります。自社の信用にも関わるため、入金消込はミスのないように慎重に行うことが大切です。
インターネットバンキングを利用しておけば、入金状況はリアルタイムで確認できます。また金融機関によっては入金時に通知を受け取れるサービスもあるので、必要に応じて登録しておくと便利です。
5.滞留債権管理:滞留債権の特定と督促
期日までに支払いや返済が行われなかった場合、滞留債権の特定と督促を行う滞留債権管理を行います。
滞留債権とは期日までに入金が行われなかった債権のことです。滞留債権が発生したら、まずどの取引先からの債権なのか、どの程度回収が遅れているのかを特定します。その後取引先に連絡し、遅れている理由を確認しましょう。
人的ミスや認識違いの場合はすぐに入金してもらえる可能性が高いですが、取引先の経営状況悪化などで遅れている場合、すぐに回収できないかもしれません。督促状、内容証明郵便など段階を踏みながら適切な督促を行いましょう。それでも対応してくれない場合は、法的措置を取ることも検討します。
一般的な債権管理方法
一般的な債権管理方法を4つご紹介します。
エクセル・スプレッドシートによる管理
エクセル・スプレッドシートによる管理は、古くから行われてきた債権管理方法です。
コストをかけずに債権管理ができ、数式さえ入力しておけば、自動で債権の総額や残高が計算されるため、ある程度は時間を節約できるでしょう。ただし後述する管理方法と比べると工数がかかる上に、ミスが起こりやすいです。また一人の担当者に一任してしまうと、属人化が起こってしまう可能性もあります。
請求代行サービスによる管理
債権管理は請求代行サービスを使って管理することも可能です。
請求代行サービスは、さまざまな請求業務を一括して代行してもらえるサービスを指します。請求書発行や送付はもちろん、入金管理や督促業務なども行ってくれるため、手間をかけずに正確な債権管理ができます。利用には手数料がかかりますが、人手不足の企業や専門知識を持つ従業員がいない企業でも、適切な債権管理ができるでしょう。
会計システムによる管理
債権管理は会計システムを活用することもできます。
会計システムは帳簿への入力や帳票などの作成を簡略化するなどして、経理や会計の業務効率化をサポートするシステムのことです。会計システムの中には、債権管理システムを搭載しているものもあります。
入金管理や入金消込は手動で行わなければならないものが多いですが、それほど取引先や取引回数が多くない企業なら、会計システムを活用するのもおすすめです。
債権管理システムによる管理
債権管理システムもおすすめの債権管理方法の一つです。
債権管理システムは、文字通り債権管理を行うためのシステムで、売上管理や請求書発行、入金確認、入金消込、代金回収などを自動化できます。システムによっては与信審査や与信管理、未回収の売掛金のリスク保証などを行ってくれるものもあるため、債権管理業務全般を効率化しながら、リスクに備えることも可能です。
搭載している機能はシステムによって異なるので、自社に合ったものを選ぶと良いでしょう。すでに導入している会計システムと連携でき、会計管理全般を一元化できるものもあります。
債権管理を行う際の注意点
債権管理を行う際は、これからご紹介する3つの注意点を把握しておきましょう。
作業が多く人的なミスが起こりやすい
債権管理は、作業が多く人的なミスが起こりやすい傾向にあります。
前述した通り、債権管理は与信管理から始まり、売上管理、請求管理、入金管理、滞留債権管理といった業務があります。人の手で入力を行っていると、取引先や取引回数が多くなればなるほど作業が膨大になってしまい、担当部署の業務負担が増大してしまいやすいです。作業が増えれば、人的ミスも発生しやすくなってしまうでしょう。
専門的な知識とスキルが必要
業務が多岐にわたる債権管理ですが、どの業務でも専門的な知識とスキルが求められます。
知識やスキルを持つ人材がいないとミスやエラーが起こりやすく、適切な債権管理をするのは難しいです。また知識やスキルを持つ一人の人材に業務を任せてしまうと、業務負荷が大きくなる上、属人化するリスクもあるでしょう。
拠点ごとに管理すると二度手間になる可能性がある
複数の拠点を持つ企業の場合、拠点ごとに管理すると二度手間になってしまうかもしれません。
複数拠点がある企業は、拠点ごとに債権管理をしているケースも多いです。拠点ごとに記録方法や債権管理表の体裁などが異なる場合、本社が全体を把握しようとした際に、情報を加工してまとめなくてはなりません。本来であれば不要だった業務を行う必要が出てくるため、無駄な手間がかかってしまうでしょう。
債権管理に関するトラブルを防ぐ方法
債権管理に関するトラブルを防ぐ3つの方法をご紹介します。
与信管理を徹底する
債権管理を防ぐためには、与信管理を徹底しましょう。
売上が発生してからの債権管理を適切に行うことも大切ですが、まず取引先が信用できるかどうかを把握し、未回収の売掛金を発生させないようにすることも大切です。新しく取引を始める際は、取引先の与信管理をしっかり行いましょう。
取引先の状況を把握する
債権管理に関するトラブルを防ぐには、取引先の状況を把握することも大切です。
取引先の状況は常に一定ではありません。新規の取引の際に与信管理を徹底していたとしても、取引を行う中で取引先の経営状況が悪化してしまい、売掛金が回収できなくなってしまうリスクもあります。日頃から取引先に関する情報収集を行い、リスク管理を行うことが大切です。
すでに取引がある場合も定期的に与信管理を行って、状況に応じて取引を見直すようにしましょう。
債権管理システムを導入する
債権管理に関するトラブルを防ぐには、債権管理システムを導入するのもおすすめです。
前述したように債権管理は作業が膨大になりやすく、人的ミスが発生しやすい傾向にあります。債権管理に特化した債権管理システムを導入すれば、膨大なデータも効率的に処理でき、ミスも防ぎやすいです。特別な知識やスキルがなくても債権管理ができるようになるので、業務の属人化防止にもつながります。
まとめ
本記事では債権管理の概要や重要性、業務フロー、一般的な債権管理方法、実行する場合の注意点やトラブルを防ぐ方法を解説しました。資金繰りを安定させ、健全な経営を行うには、債権管理が欠かせません。本記事を参考にして債権管理を徹底し、スムーズに債権を回収して、資金繰り悪化を防ぎましょう。
業務が忙しかったり人材不足だったりして債権管理に手が回らないなら、債権管理システムを導入するのも一つの方法です。債権管理システムはさまざまなものがあるため、導入する際はシステムごとに機能や特徴を比較し、自社に必要な機能を兼ね備えたシステムを選ぶようにしましょう。こちらの記事で、おすすめの債権管理サービスを厳選してご紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
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