更新日:2024/10/02
債権と債務の違いを解説! 企業で債権管理が重要な理由とは?
【監修】株式会社ジオコード マーケティング責任者
渡辺 友馬
債権者は債務者に対し、債務の履行を求めることができます。例えば、人物Yが人物Xに借金をしている場合、債権者であるXは借金の返済を求める権利があり、債務者であるYは借金を返済する義務を負います。ただし、自己破産のように、債権者であっても、債務者に履行を求めることが難しい場面もあるため注意が必要です。
本記事では、債権と債務の違いや契約別の関係性、債権の法的効力、事業で債権管理が重要な理由を解説します。
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債権と債務の違いは“権利”か“義務”か
債権とは、他者に対し特定の行為を請求できる“権利”のことです。債権のある人を「債権者」と言います。一方、債務とは、他者に対し特定の行為を行う“義務”のことです。債務のある人を「債務者」と言います。
例えば、人物Xが人物Yに金銭を貸したときは、以下のように双方に権利と義務の関係が発生します。
X:Yに借金を請求する権利を得る(債権者)
Y:Xに借金を返済する義務を負う(債務者)
債権と債務は通常、対の関係です。また、金銭の貸し借りだけでなく、雇用契約や商品の売買契約など、日常生活や事業活動の多くの場面で発生しています。文脈上、同時に登場するケースが多く、漢字が一文字違うだけで紛らわしいものの、その性質は正反対のため使用する際は間違いのないように注意しましょう。
【契約別】債権と債務の関係性
債権と債務の関係は、前述したような、片方が債務者でもう一方が債権者といったケースばかりとは限らず、契約の方法により異なることがあります。ここでは、代表的な4つの関係性を解説します。
双務契約
双務契約とは、契約を結んだXとY両方が互いに債権者・債務者となる契約です。売買契約や労働契約が代表的で、他にも賃貸借契約や請負契約、有償の委任契約などが含まれます。
商品の売買を例に見てみましょう。
X(購入者):Yから商品を受け取れる権利(債権)があると同時に、代金を支払う義務(債務)を負う。
Y(販売者):Xから商品代金を受け取る権利(債権)があると同時に、商品を渡す義務(債務)を負う。
なお、双務契約ではどちらも同時に債務を果たさなければいけません。上記の例であれば、Xの代金支払と同時にYは商品を引き渡さなければなりません。これを同時履行と言い、相手方が債務を果たさない場合、自身も義務を果たさないことを主張できます(※)。
※参考:e-Gov法令検索.「民法」.“五百三十三条”.https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089#Mp-Pa_3-Ch_2-Se_1-Ss_2-At_533 ,(2024-09-13).
片務契約
片務契約とは、契約者の一方が債権者、もう一方が債務者となる契約です。金銭消費貸借契約や贈与契約が代表的で、他に使用貸借契約や無償の委任契約などが含まれます。また、商談などで行う秘密保持契約(NDX)も片務契約に該当します。
XがYに5万円を貸した(金銭消費貸借契約)を例に見てみましょう。
X:Yに5万円を請求する権利(債権)が生じる
Y:Xに5万円を返済する義務(債務)が生じる
なお、片務契約では原則同時履行は生じません。また、XがYに無償で車を譲り渡す「贈与契約」のように、金銭的なやり取りが生じないケースもあります。
相殺
相殺とは、両者に対して発生している債権と債務を帳消しにするものです。なお、相殺をするためには以下の4つの要件を満たさなければいけません(※)。
- どちらも同種の債務がある
- 債務返済期限がともに到来している
- 相殺の意思表示がされている
- 相殺禁止事由に該当しない
例えば、商品の仕入先と販売先が同じで、自社に買掛金10万円、取引先に売掛金10万円があるとき。取引先の了承を得れば相殺により、双方の債権を帳消しにできます。
なお、相殺禁止事由にはいくつかのケースがありますが、例えば、当事者が相殺に反対した場合や不法行為で生じた損害賠償債権(「殴られたから殴り返す」などの不法行為での相殺)などが挙げられます。
※参考:e-Gov法令検索.「民法」.“第二款 相殺”.https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089#Mp-Pa_3-Ch_1-Se_6-Ss_2,(2024-09-12).
相続
相続とは、被相続人(亡くなった人)の債権と債務を相続人が引き継ぐことです。相続の場合、債権だけでなく債務も引き継ぐため、相続人は債権者にも債務者にもなり得ます。
相続できる債権は、賃金や賃貸借関係に基づく金銭、売掛金、損害賠償請求権などです。一方、相続される債務には、借金や土地の引き渡しなどがあります。
ここでは、分かりやすいように分割できる債権債務を例に解説します。
【例1】
被相続人に500万円の債権と100万円の借金(債務)があるとき、一人の相続人が全て相続すれば400万円の債権を得られる。
【例2】
被相続人に100万円の債権と500万円の借金(債務)があるとき、一人の相続人が全て相続すれば400万円の債務が発生する。
相続できる債権には時効があるため注意しましょう。また、例2のように相続した結果、損失の方が大きいときは相続放棄を検討できます。なお、相続放棄をすると債務だけでなく債権も放棄するため注意しましょう。
債権者が債務者に対し発揮できる法的効力・法的措置
実生活では債権があっても、債務者が「金がない」などを理由に借金の返済に応じないこともあります。このような事態に対抗するため、合法的な債権には法的効力が備わっており、裁判所に訴えることで法的措置を取ることが可能です。
法的効力
法的効力には以下の3つがあります。
給付保持力
給付保持力とは、債務者が義務を果たしたことにより債権者が金銭や物品を得た場合、これを適法に所有できる力です。言い換えると、法的手続きを取っていれば債務者の財産などの所有権を債権者に移行しても問題がないということです。このため、もし元の所有者(債務者)が金銭などの返還を債権者に要求してきても拒否できます。
訴求力
訴求力とは、債権者が債務者から債務の履行を受けられないときに、裁判所に権利を確認できる力です。言い換えると、裁判所に債権の存在を訴えることができる力で、支払督促の申し立てや民事訴訟の提起が認められます。
執行力
執行力とは裁判所の手続きを経て、債務者の財産を差し押さえて債権を回収する「強制執行」の申し立てができる力です。執行力はさらに以下の2つの力に分けられます。
貫徹力 | 約束どおり債務が果たされないときは、債務者の意志にかかわらず債務の内容をそのまま請求できる力です。例えば、代金を支払ったのに商品が渡されない場合、貫徹力により引き渡しを強制的に行えます。 |
掴取力 | 約束どおり債務が果たされないときは、債務者の意志にかかわらず財産を差し押さえて、別の形で請求できる力です。例えば、代金を支払ったのに商品が渡されない場合、別の商品を請求する、購入分の代金を請求するなど、本来の債権とは異なる方法で義務を果たすように求められます。 |
法的措置
法的措置には以下の2つがあります。
損害賠償請求
債権者は債務者の債務不履行などによりが損害を受けたときは、損害の補填を請求できます。これを損害賠償請求と言います。
例として挙げられるのは、新築住宅の施行ミスにより、基礎部分に重大な欠陥が見つかり入居が遅れたときです。賃貸物件の賃料や、引越しのキャンセル料など、予定どおり債務が履行されていれば支払の必要がなかった費用は、損害として債務者に請求できます。
契約解除
債権者は債務者から金銭や物品などの給付が受けられず、債務の返還も受けられないときは、一方的に、契約の効力をさかのぼって解除できます。
例えば、XがYに対し月10万円で自動車を貸していたにもかかわらず、賃料が支払われないときが該当します。XはYに対し自動車の返還を求めることが可能です。さらに、Yは自動車を借りていた期間分の賃料を支払う義務を負います。
債務不履行に陥るリスク
債務者が約束どおり債務を果たさないことを債務不履行と言います。債務不履行に陥ると債務者の生活の質が悪化したり、社会的信用を失ったりするだけでなく、訴訟などに発展する恐れもあります。
損害賠償責任
債務者は債務不履行により債権者に不利益を与えた場合、その損害を賠償しなければなりません。なお、損害には以下の2つがあり、損害賠償金額は双方の合計を支払う必要があります。
通常損害 | 債務不履行により、一般的に生じると考えられる損害。 |
特別損害 | 特別の事情により生じた損害。通常損害以外のもの。 |
このうち、通常損害は全て損害賠償の対象です。一方、特別損害は債務者が予見できたもののみが対象となります。
契約解除
債権者から契約を解除された場合、債務者は受けた金額や物品を返還しなければなりません。
契約解除になるケースは以下のとおりです。
- 債務者が債務不履行となったとき、相当の期間を定めて債務の履行を勧告したにもかかわらず、期間内に履行がなかったとき
- 債務者が債務の履行がまったくできないときや、債務の履行を拒否したとき(この場合、勧告をせずに契約の解除ができる)
なお、以下の場合、契約解除は認められません。
- 債務不履行の原因が債権者にあるとき
- 債務者の債務不履行が社会通念上軽微であるとき
訴訟提起
損害賠償の支払を拒否したり、契約解除後の給付の返還を拒絶したりすると、債権者から訴訟を提起される恐れがあります。簡単に言えば、訴えられ裁判を起こされる状態です。
訴えられると訴状が届くため、裁判期日に出廷する必要があります。その際に、債務の支払を裁判で争わなければなりません。なお、裁判期日までに所定の書類を提出しなかったり、当日に欠席したりすると、原告(債権者)の主張を全て認めることとなり、必要以上に高額の請求金額を支払うこととなるため注意しましょう。
強制執行
金銭の支払や土地の引き渡しなど、判決が確定しているのに債務者が応じない場合、債権者は強制執行の申し立てが可能です。強制執行では裁判所が強制的に債務者の財産を差し押さえて換金し、債権者に充当します。
強制執行が実行されると給与を差し押さえられることが多く、生活はより苦しくなります。さらに、強制執行を回避する方法は債務整理しかないため、債務不履行に陥る前に対処しなければなりません。
債務を法的に消滅させる7つの方法
債務を消滅させるためには、基本的に債務の履行(弁済)が必要です。しかし、民法には弁済以外にも相殺や免除などの方法も定められています。
弁済
弁済とは、債務者が債権者に対し債務を履行するものです。これにより、債務と債権の双方が消滅します。なお、債務者の債権者に対する弁済を原則とするものの、双方が弁済を認めるなど条件を満たせば、保証人のような第三者による弁済も可能です。
代物弁済
代物弁済とは、本来の債権とは別の給付により債務を履行することです。弁済者と債権者が契約を締結して行わなければなりません。これにより、債権・債務は消滅します。
例えば、債権が50万円の貸金であるものの、金銭での返金が難しい場合、同等の価値のある車や土地などで弁済します。
弁済供託
弁済供託とは、弁済者の財産などを国の機関である供託所を通して債権者に受け取らせ、弁済する方法です。債権者が行方不明なったり、金銭の受取を拒否したりした場合に取られます。なお、弁済供託を行うためには、以下の4つの要件を満たさなければなりません。
- 金銭など供託ができるものであること
- 確定した債務が残っており支払期日が到来していること
- 民法や判例により認められた供託原因があること
- 債務の履行と供託内容が同一であること
相殺
相殺とは、双方が保有する同じ種類の債権を、意思表示により債権同士で消滅させる方法です。なお、相殺をする側の債権を「自動債権」、される側の債権を「受動債権」と言います。相殺をするためには、自動債権が弁済期(債務の弁済を行わなければいけない期限)にある必要があります。
更改
更改とは、以前の債務に代えて新しい債務契約を結ぶことで、従前の債務を消滅させる方法です。例えば、100万円の支払債務を消滅させる代わりに、新たに同額の自動車の引き渡しをする契約を結ぶ場合が挙げられます。
なお、代物弁済との違いは、代物弁済では元の債務が履行されているのに対し、更改では元の債務が消滅する代わりに新な債務が発生している点です。
免除
免除とは、債権者が債務者に対し、債務の履行をしなくてもよいと許すことです。これにより、無償で債務を消滅させられます。免除は債権者の一方的な意思表示により可能ではあるものの、証拠を残したい場合「債務免除通知書」などを特定記録郵便で送付します。
混同
混同とは、債権と債務が同じ人物に帰属し消滅するものです。例えば、親が子に100万円を貸したまま死亡し、子のみが相続したときを考えます。この場合、子は自分への貸付金を相続するため、債権者と債務者が同一人物になり、債権は消滅します。
企業で債権管理が重要な理由
債権管理は自社の資金繰りの悪化を防ぎ、債権回収の手間を削減するためにも重要です。また、万が一取引先企業が倒産した場合、売掛金の回収は相当困難となるため日頃から注意しましょう。
資金繰りの悪化を防ぐため
企業間取引の多くは掛けで行われているため、商品が売れたとしてもすぐに現金が手元に入るわけではありません。実際に回収するまでには1カ月から半年などある程度時間が掛かります。債権が予定日までに入金されなければ、資金繰りの悪化にもつながりかねません。
債権回収の手間を削減するため
期日までに債権が回収できない場合、取引先に督促状を送付する、損害遅延金を請求するなど、新たな手間が生じてしまいます。支払期日に入金の有無を確認し、遅延時の速やかな対処は、再度、支払遅延が起きることを防ぐ役割もあります。また、日頃から取引先の信用や支払能力を調査し評価しておけば、掛け取引を停止するなどの処置も可能です。
債権回収の困難や不能を防止するため
取引先が倒産手続きを開始すると、個別に債権を回収できなくなります。さらに、強制執行を行っていたとしても、倒産手続き開始決定後の場合は無効です。なお、債権は倒産企業の財産の現金化により債権者に配当されるものの、通常配当率は低くなります。泣き寝入りを防ぐためにも、債権管理により特定の取引先の債務が過剰にならないよう確認する必要があります。
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債権管理を徹底し債務不履行を防ごう
債権とは他者に特定の行為を請求できる権利のことです。一方、債務とは他者に特定の行為をする義務を指します。債権にはその権利を守るために訴求力や執行力などが備わっています。しかし、企業の場合、相手先企業が倒産手続きに入れば、強制執行も無効となり債権回収が極めて困難になるため特に注意が必要です。
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