更新日:2024/10/02
期日現金とは? 他の決済方法と何が違う? メリットやデメリット、リスク対策も解説
【監修】株式会社ジオコード マーケティング責任者
渡辺 友馬
期日現金は、従来の取引よりも支払いまでに時間を要する決済方法です。支払いサイトが長い分、売り手側は代金を回収できないなどのリスクの伴います。適正な取引をするためにも、期日現金の基礎知識を理解しましょう。
本記事では、期日現金がどのような決済方法なのかを詳しく解説していきます。
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期日現金とは?
期日現金とは、通常の取引よりも支払期日までの期間が長く設定されている支払方法です。売掛金を支払うときの決済方法の一つで、期日払いや延現金とも呼ばれています。
通常の売掛金の入金サイクルとしては、月末締め翌月末払いまたは翌々月払いが一般的です。一方、期日現金は締め日から90日後や120日後などのあらかじめ設定された期日に入金されます。
例えば、3月末に締めた取引の支払いが通常は4月末や5月末に行われるところ、期日現金では6月末や7月末に支払われる仕組みです。なお、取引開始から入金されるまでの期間を支払いサイトと言います。
期日現金は大手企業の取引で導入されつつあり、新しい決済方法として注目されています。
期日現金は他の決済方法と何が違う?
期日現金取引は、他の決済方法と何が違うのでしょうか。それでは、以下の順番で詳しく解説していきます。
- 期日現金と振込の相違点
- 期日現金と手形決済の相違点
- 期日現金とでんさいの相違点
期日現金と振込の相違点
振込は、金融機関の銀行口座に即時または指定日に代金を送金する方法です。期日現金も指定した口座に代金が振り込まれますが、入金までの期間が通常より長くなります。即時に入金されず、設定された支払いサイトに基づいて振込が行われます。
期日現金と手形決済の相違点
手形決済は、支払いを約束する有価証券(手形)を発行し、後日その証券と引き換えに決済が行われる方法です。手形は、指定した期日までに代金を支払う証明としての役割があり、支払われるまでに現金化できます。
期日現金と手形決済はどちらも支払いまでに時間を要しますが、相違点はその有価証券が発行されるかどうかです。期日現金では有価証券は発行されず、支払いサイトに基づいて振り込まれます。手形決済は事前に現金化できる有価証券を発行する方法のため、代金が未回収になるリスクをカバーできる点が特徴です。
ただし、支払側は手形発行のための印紙税や発行手数料、その他発行に付随する事務作業などの手間とコストが掛かるデメリットもあります。
なお、経済産業省では2026年までに約束手形を廃止するよう企業に呼びかけています。理由は以下の通りです(※)。
- 代金が振り込まれるまでの期間が長いため
- 支払日より前の現金化の割引料が割高なため
- 上記2つの理由により、取引で立場の弱い企業の資金操りが不安定になるため
したがって、今後は現金取引か電子記録債権での取引が主流となるでしょう。
※参考:経済産業省.「2026年の約束手形の利用廃止」.
https://www.meti.go.jp/press/2022/02/20230222001/20230222001-2.pdf ,(2024-09-16).
期日現金とでんさいの相違点
期日現金とでんさいの相違点は、金銭債権の発行の有無です。
でんさいとは、全国銀行協会が提供する「でんさいネット」で、企業間の取引における金銭債権を電子的に発行、管理する方法です。手形決済をオンライン化したようなもので、決済業務の負担が軽減されるメリットがあります。
でんさいは電子上で金銭的価値のある債権が発行でき、手形と同様に事前の現金化が可能です。さらに分割譲渡もできるため、手形よりも売掛債権を柔軟にコントロールできます。
一方、期日現金は請求書を基に代金が振り込まれますが、期日前の債権の現金化や譲渡はできません。
ただし、でんさいは決済や譲渡ごとに手数料が掛かります。また、支払側と受取側の両方がでんさいを利用していなければ取引できません。
期日現金のメリット
期日現金を用いた取引のメリットを、買い手側と売り手側に分けて解説していきます。
買い手側(支払側)のメリット
まずは、買い手側(支払側)のメリットから見ていきましょう。
手形発行のコストが掛からない
期日現金は手形を発行せずに取引できるため、発行に伴う印紙税や発行手数料などのコストが掛かりません。また、売り手企業への郵送の手続きや約束手形への記名、印紙の手配などの事務作業も不要のため、業務効率化が期待できます。売り手側が行う決済時の銀行への取り立ても不要です。
特に複数の企業と取引があり、取引金額が大きい企業にとっては、手形決済に伴う手数料などのコストがかなり高くなることがあります。期日現金ならコストと業務量どちらも軽減できるため、効率的な決済が可能です。
資金操りが安定する
期日現金は支払いまでの期間が長いため、売り手側にとっては資金操りの安定につながります。
現金取引の場合は、商品やサービスを買い手から受け取ったらすぐに代金を支払わなければなりません。しかし、期日現金なら支払期日があらかじめ設定されているため、いつどの企業に代金を支払うかが正確に把握でき、計画的な資金管理が可能になります。また、余裕を持って支払いの準備ができるため、資金の準備がしやすくなります。
売り手側(受取側)のメリット
売り手側のメリットは、手形の受け取りに伴う銀行への取立業務が不要になる点です。手形決済では、買い手から受け取った手形を銀行に持ち込んで代金を回収しなければなりませんが、期日現金の場合はこうした取立業務を行う必要がありません。手形取立手数料も掛からないため、経費の削減にもなります。
とはいえ、手間やコスト削減以外のメリットがあまりないため、もし買い手から期日現金を提案された場合は、本当に受け入れてよいかを慎重に検討する必要があります。
期日現金で取引をするデメリット
期日現金での取引には、デメリットも存在します。買い手側と売り手側それぞれの立場から見ていきましょう。
買い手側(支払側)のデメリット
買い手側のデメリットは、取引件数が少ない場合にコスト削減効果があまり期待できない点です。手形取引で取引件数が多い場合は、手形発行に伴う印紙税や手数料などが掛かります。しかし、取引件数が少ないとそもそものコストが少ないため、削減効果を感じられない可能性があります。
また、従来の決済方法から期日現金への移行には、業務内容やシステムの変更が必要です。決済業務を行う従業員が、その体制に慣れるまでに時間が掛かる可能性があります。
売り手側(受取側)のデメリット
売り手側は、経営に関わるデメリットがあります。自社に合った決済方法を選択するためにも理解しておきましょう。
資金操りが不安定になる可能性がある
期日現金は入金確認できるまでに時間を要するため、資金操りが不安定になる可能性があります。代金が入金されるまでに資金不足になり、経営に悪影響を及ぼすリスクも考えられます。
支払いまでの期間が長すぎる場合は特に経営が圧迫される可能性があるため、相手に支払いサイトを短めにしてもらえないか交渉するのが重要です。
金融機関での譲渡や割引ができない
期日現金は、金融機関に債権を譲渡したり割引を受けたりできません。手形決済やでんさいでは、売掛金を支払期日よりも前倒しで受け取るために金融機関に債権を譲渡し、早めの現金化が可能です。
しかし、期日現金ではこのような調整ができません。つまり取り決めた支払期日までは、売掛金を現金化する手段がないのです。
なお、売掛金を現金化するまでの資金繰りに不安がある場合には、迅速な現金化が可能なファクタリングの活用を検討するとよいでしょう。ファクタリングについては後ほど解説します。
期日現金が適用できない取引
期日現金取引は、全ての取引に適用できるわけではありません。適用できない取引には、法的に定められている「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」が関わっているためです。下請法とは、親事業者が下請事業者に対して適正な支払いを行うことを義務付ける法律です。
例えば以下のような取引では下請法が適用されるため、期日現金での取引はできません(※)。
- 資本金が3億円超える親事業者と、資本金3億円以下の下請事業者での取引
- 資本金が1,000万円~3億円以下の親事業者と、資本金が1,000万円以下の下請事業者での取引
上記の取引の場合、親事業(買い手企業)は、商品サービスを受け取った日から起算して60日以内に下請業者(売り手企業)に支払わなければなりません(※)。
下請法が適用される取引では、支払までの期間を長くできず通常の支払サイトに従う必要があります。
※参考:公正取引委員会.「下請法の概要」.
https://www.jftc.go.jp/shitauke/shitaukegaiyo/gaiyo.html ,(2024-09-16).
※参考:公正取引委員会.「下請法 知っておきたい豆情報 その2」.”支払期日を定める義務について”.
https://www.jftc.go.jp/regional_office/chubu/chubu_tidbits/no002.html ,(2024-09-16)
期日現金を提案されたときに考えること
売り手企業は、取引先から期日現金での取引を提案された場合、受け入れるかどうか慎重に検討する必要があります。
判断に迷った際は、以下の基準を参考にして選択しましょう。
- 入金されない期間も十分な経営資金が確保できるか
- 受注する価値がある取引かどうか
- 下請法を知っていながら提案されていないかどうか
入金されない期間も十分な経営資金が確保できるか
期日現金取引では、支払いまでの期間が通常の取引よりも長くなるため、この間に自社の経営資金が十分であるかを確認する必要があります。買い手企業から入金されるまでは、手元の資金のみで経営を回さなければならないためです。
普段の生活でも、収入が途絶えると生活費の確保が難しくなるように、ビジネスでも入金が遅れるとやりくりに困る可能性があります。もし十分な経営資金が確保できないのであれば、他の支払方法で取引できないか交渉してみましょう。
受注する価値がある取引かどうか
期日現金での取引を受け入れるか判断する際は、その取引が受注する価値があるかを慎重に考えましょう。
ビジネスの発展や新しい市場への進出など、将来的に有益な可能性がある取引であれば、期日現金であっても受注する価値があると考えられます。
ただし、入金されるまでに経営を回せるほどの資金があることが前提です。資金不足になる可能性がある場合は、支払サイトを短縮できないか交渉したり、他の決済方法での取引を提案してみたりしましょう。
下請法を知っていながら提案されていないかどうか
期日現金を提案されたら、下請法に違反していないかどうか確認しましょう。
「期日現金が適用できない取引」で示した通り、資本金が一定額を超える親事業者と資本金が一定額以下の下請事業者との取引など、法的に定められた条件に該当する取引では期日現金が適用できません。
もし下請法に当てはまる条件にもかかわらず、相手が期日現金を提案してきた場合は、法に違反する取引を強いられている可能性があります。良好な信頼関係が築けないリスクもあるため、取引を辞退することも考えましょう。
期日現金のリスクを抑えるならファクタリングがおすすめ
期日現金は、売り手企業にとっては資金操りが不安定になったり、代金が未払いとなったりするリスクも伴います。万が一のリスクに備えるなら、ファクタリングの利用を検討しましょう。
ファクタリングとは、自社の売掛金をファクタリング会社に売却し、支払期日より前に現金に換金する金融サービスです。期日現金は、手形決済や電子記録債権のように支払期日を調整できないため、代金を回収する以外に資金を確保する方法がありません。しかし、ファクタリングを利用すれば一時的な資金不足でも借入することなくカバーできます。
以下で、ファクタリングのメリット、デメリットを見ていきましょう。
ファクタリングのメリット
ファクタリングのメリットは以下の通りです。
- 迅速な現金化が可能
- 取引先が支払い不能となっても損失分を負わなくてよい
- 企業の信用度が上がる
迅速な現金化が可能
すぐに資金が必要なときでも、ファクタリングを利用すれば迅速な現金化が可能です。
融資を受ける場合、決算書類などの資料で返済能力を評価するため、審査には通常は2週間から1カ月程度掛かります。しかし、ファクタリングは売掛債権に問題がないか、買い手企業が期日までに代金を支払うかを確認するだけで済むため、審査が即日で終了する場合があります。
取引先が支払い不能となっても損失分を負わなくてよい
債権譲渡型のファクタリングを利用した場合、売り手企業が倒産して支払い不能になったとしてもファクタリング会社が損失を負うことになります。そのため、取引先が倒産や支払い不能に陥った場合でも、自社が損失を被るリスクを軽減することが可能です。
自社の信用度が上がる
リスクに備えられるだけでなく、財務上での信用度が上がる点もメリットです。
ファクタリングは、自社の売掛金を活用して資金を調達する方法のため、決算書の現金比率や純資産利益率などが上がり、銀行から融資を受けたいときに有利に働く場合があります。
ファクタリングのデメリット
ファクタリングのデメリットは、以下の通りです。
- 一時的な資金不足をカバーする方法でしかない
- 取引先からの印象が悪くなる可能性がある
- 手数料が高額な場合がある
一時的な資金不足をカバーする方法でしかない
ファクタリングは一時的な資金不足をカバーする手段のため、長期的な資金運用には適していません。
ファクタリングで資源を調達したものの、自社の財務状況が安定しなければ売上の減少など別の部分に問題があると考えられます。ファクタリングは資金繰りを一時的に支えるための手段と捉え、経営方針を改めたり、資産を売却したりなど、別の施策も検討しましょう。
取引先の印象が悪くなる可能性がある
3社間ファクタリングは、買い手企業を交えて資金調達が行われるため、ファクタリング利用を知られると「経営が悪化しているのではないか」と思われる可能性があります。
取引の見直しや断りにつながるリスクもあるため、特に信頼が重要な取引先に対しては、相手に知られずに資金調達が可能な2社間ファクタリングを検討しましょう。
手数料が高額な場合がある
ファクタリングは迅速に資金を調達できる反面、手数料が高額になる場合があります。会社によって手数料は異なりますが、目安は以下の通りです(※)。
- 2社間ファクタリング:8%~18%
- 3社間ファクタリング:2%~9%
手形取引の銀行手数料は1.5%~5%ほどのため、上記を見ても通常より手数料が高額だと言えるでしょう。
期日現金を提案されたら慎重に判断しよう
期日現金は、支払期日が通常よりも長く設定されている支払方法です。買い手にとっては、資金運用の計画が立てやすく手形発行のコストや手間が掛からないメリットがあります。しかし、商品を提供する売り手にとっては代金が回収できずに資金操りが安定しないなどのデメリットが多くあります。
こうしたデメリットをカバーするには、ファクタリングなどでリスクをカバーしたり、普段から自社の財務状況を管理したりするのが重要です。
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