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SFA JOURNAL by ネクストSFA

ファイアウォールとWAFの違いとは?経営層が知るべきセキュリティ投資の最適解

小島 伸介

【監修】株式会社ジオコード 管理部長
小島 伸介

株式会社ジオコード入社後、Web広告・制作・SEOなどの事業責任者を歴任。
上場準備から上場まで対応した経験を生かし、サービス品質の改善を統括する品質管理課を立ち上げ。その後、総務人事・経理財務・情報システム部門を管掌する管理部長に就任。

なぜ今「ファイアウォールとWAFの違い」を知るべきなのか?~経営リスクとセキュリティ投資の最適化~

企業のデジタル化が進む現代において、サイバーセキュリティは単なるIT部門の課題ではなく、経営そのものを左右する重要課題です。特に、WebサイトやWebアプリケーションはビジネスの顔であり、顧客との重要な接点です。しかし、その重要性に比例して、これらを標的としたサイバー攻撃のリスクはかつてないほど高まっています。SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティングといったWebアプリケーションの脆弱性を突く攻撃は後を絶たず、顧客情報の漏洩、Webサイトの改ざん、サービス停止といったインシデントは、企業の信用失墜、ブランドイメージの毀損、そして莫大な経済的損失に直結します。

このような状況下で、適切なセキュリティ対策を講じることは企業の責務ですが、ここでしばしば課題となるのが、各種セキュリティソリューションの役割と違いに関する正確な理解です。「ファイアウォール」と「WAF(Web Application Firewall)」はその代表例と言えるでしょう。「ファイアウォールを導入済みだから安心」「WAFとファイアウォール、どちらか一方で十分では?」といった誤解があると、セキュリティ対策に抜け漏れが生じ、攻撃者に侵入の隙を与えてしまいます。また、限られた予算の中で最大の効果を得るための、適切な投資判断も難しくなります。

ファイアウォールとWAFは、どちらも重要なセキュリティ対策ですが、守る対象、守る場所(レイヤー)、得意とする攻撃の種類が根本的に異なります。この違いを正しく理解しないまま対策を進めると、本来守るべき箇所が無防備になったり、過剰な投資をしてしまったりする可能性があります。

本記事は、企業のセキュリティ戦略に関わる管理部や決裁者の皆様が、ファイアウォールとWAFの違いを明確に理解し、自社の状況に合わせて最適なセキュリティ投資を行うための判断材料を提供することを目的としています。それぞれの役割、限界、そして両者を組み合わせる「多層防御」の重要性を解説し、セキュリティ対策を経営的視点から捉え直す一助となることを目指します。正しい知識こそが、企業を脅威から守り、持続的な成長を支える基盤となるのです。

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ゼロデイ対策
SD-WAN接続
セグメンテーション機能
レポート機能 など
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基本の「キ」:ファイアウォールとは?~ネットワーク全体の門番~

ファイアウォール(Firewall)は、企業のネットワークセキュリティ対策において、最も基本的かつ広く導入されているソリューションの一つです。その役割は、文字通り「防火壁」のように、信頼できる内部ネットワークと信頼できない外部ネットワーク(主にインターネット)との境界を守る「門番」として機能することです。社内ネットワークとインターネットの間や、重要なサーバーが設置されているネットワークセグメントの入口などに設置され、そこを行き交う通信を監視し、許可されていない不正な通信をブロックします。

ファイアウォールが通信を制御する際の主な判断基準は、通信パケットのヘッダー情報です。具体的には、以下の情報をチェックします。

  • 送信元/宛先IPアドレス: どこからどこへの通信か
  • 送信元/宛先ポート番号: どのサービス(アプリケーション)への通信か (例:Webは80/443番、メールは25番など)
  • プロトコル: どのような通信ルールか (例:TCP, UDP, ICMPなど)

事前に「アクセスコントロールリスト(ACL)」や「ポリシー」と呼ばれるルールを設定しておき、通過する通信のヘッダー情報がこれらのルールに合致するかどうかを照合します。ルールに合致すれば通信を許可し、合致しなければ拒否(遮断)します。この仕組みを「パケットフィルタリング」と呼びます。

さらに、多くの現代のファイアウォールは「ステートフルインスペクション」という機能を備えています。これは、単にパケット単体の情報だけでなく、通信の開始から終了までの一連の流れ(セッション、コネクションの状態)を記憶・追跡し、その文脈に合わない不正なパケットを検知・遮断する機能です。これにより、より高度な制御が可能になります。

ファイアウォールが主に守るのは、OSI参照モデルの第3層(ネットワーク層)と第4層(トランスポート層)です。このレイヤーでの制御により、外部からの不正アクセス試行や特定のポートへの攻撃を防ぐ上で高い効果を発揮します。

しかし、ファイアウォールの限界も理解しておく必要があります。それは、基本的に通信の中身(データペイロード)までは詳細に検査しないという点です。許可されたIPアドレスやポート番号を使い、正常な通信に見せかけて送られてくる悪意のあるデータ(例:Webアプリケーションの脆弱性を突く攻撃コード)は、ファイアウォールをすり抜けてしまう可能性があります。これが、ファイアウォールだけでは万全とは言えない理由です。(911文字)

Webアプリ専門の守護神:WAFとは?~アプリケーション層の用心棒~

ファイアウォールがネットワーク全体の門番として機能するのに対し、WAF(Web Application Firewall)は、より専門性の高いセキュリティソリューションです。その名の通り、WebサイトやWeb APIといった「Webアプリケーション」を保護することに特化した「用心棒」のような存在です。現代のビジネスにおいて極めて重要な役割を担うWebアプリケーションですが、その多くが複雑なプログラムで構成されており、意図せず脆弱性を抱えている場合があります。WAFは、こうしたWebアプリケーション固有の脆弱性を悪用する攻撃から守ることを最大の目的としています。

WAFの最大の特徴であり、ファイアウォールとの決定的な違いは、通信の中身、すなわちHTTP/HTTPSリクエストやレスポンスのデータ部分を詳細に検査する能力にあります。ファイアウォールが主に「通信の宛先」をチェックするのに対し、WAFは「通信でやり取りされる内容」そのものを深く分析します。具体的には、以下のような攻撃パターンや不正なコードが含まれていないかを検査します。

  • SQLインジェクション: データベースを不正に操作しようとする攻撃
  • クロスサイトスクリプティング(XSS): ユーザーのブラウザで悪意のあるスクリプトを実行させる攻撃
  • OSコマンドインジェクション: Webサーバー上で不正なOSコマンドを実行させる攻撃
  • ディレクトリトラバーサル: 非公開ファイルへ不正にアクセスしようとする攻撃
  • パラメータ改ざん: 送信するデータを不正に書き換える攻撃
  • その他: セッションハイジャック、ブルートフォース攻撃など

これらの攻撃を検知するために、WAFは複数の技術を組み合わせて利用します。代表的な検知方式は以下の通りです。

  • シグネチャベース検知: 既知の攻撃パターン(悪意のあるコード断片など)をデータベース化し、それと一致する通信をブロックします。既知の脅威に迅速に対応できます。
  • 振る舞い検知(アノマリ検知): 正常な通信のパターンやパラメータの形式・長さなどを学習し、そこから逸脱する異常な通信を検知します。未知の攻撃にも対応できる可能性があります。AIや機械学習を活用する製品も多いです。
  • ポジティブセキュリティモデル(ホワイトリスト): 許可する安全な通信パターン(アクセス可能なURL、許可されたパラメータなど)を定義し、それ以外をすべてブロックします。非常に強力な防御ですが、設定・維持に手間がかかる場合があります。

WAFが守るのは、OSI参照モデルの第7層(アプリケーション層)です。ファイアウォールを通過した正規のポート(例:443番)での通信であっても、WAFがその「会話の中身」をチェックし、問題があればブロックすることで、Webアプリケーションを保護します。

ただし、WAFも万能ではありません。その防御対象はWebアプリケーションに限定されるため、OS自体の脆弱性を突く攻撃や、Webを介さないマルウェア感染などには対応できません。したがって、WAFも他のセキュリティ対策と連携させることが重要です。(978文字)

【比較で分かる】ファイアウォールとWAFの決定的な違い

ファイアウォールとWAFは、どちらもネットワークセキュリティにおいて重要な役割を果たしますが、その機能と目的は大きく異なります。両者の違いを正確に把握することが、効果的なセキュリティ戦略を立案するための鍵となります。ここでは、両者の決定的な違いを4つのポイントで比較し、さらに混同されやすいIPS/IDSとの役割分担についても補足します。

ポイント1:主たる防御対象(何を守るか?)

  • ファイアウォール: ネットワーク全体、サーバーインフラ。例えるなら、「敷地全体」への不審者の侵入を防ぐイメージ。
  • WAF: 特定のWebアプリケーション(Webサイト、APIなど)。例えるなら、「建物の中の特定の部屋(応接室など)」への不正な侵入や持ち込みを防ぐイメージ。

ポイント2:主たる防御レイヤー(どこで守るか?)

  • ファイアウォール: OSI参照モデルのレイヤー3(ネットワーク層)/ レイヤー4(トランスポート層)。通信の経路や接続情報を基に判断。
  • WAF: OSI参照モデルのレイヤー7(アプリケーション層)。アプリケーションレベルのデータ内容を基に判断。

ポイント3:主たる検査対象(何を見ているか? 空港の検査で例えると…)

  • ファイアウォール: 通信のヘッダー情報(IPアドレス、ポート番号など)。空港で言えば、「パスポートと搭乗券のチェック」。搭乗者本人か、目的地は合っているかを確認するが、手荷物の中身までは見ない。
  • WAF: 通信のデータ内容(ペイロード)(HTTPリクエスト/レスポンスの中身、パラメータ、URLなど)。空港で言えば、「手荷物検査(X線検査)」。パスポートチェックを通過した後、手荷物の中に危険物(攻撃コード)がないかを詳細に確認する。

ポイント4:得意とする攻撃の種類

  • ファイアウォール: ネットワークレベルの不正アクセスポートスキャン、サービス妨害攻撃(一部)。
  • WAF: Webアプリケーションの脆弱性を悪用する攻撃(SQLインジェクション、XSS、CSRFなど)。

このように、ファイアウォールとWAFは守備範囲が全く異なります。どちらか一方だけではカバーできない脅威が存在するため、それぞれの役割を理解した上で適切に組み合わせることが重要です。

補足:IPS/IDSとの役割分担 しばしば混同されるIPS/IDS(不正侵入防御/検知システム)は、ファイアウォールを通過した後のネットワーク内部やサーバー自体を監視し、OSやミドルウェアへの攻撃、マルウェア通信、内部での不審な挙動などを検知・防御する役割を担います。空港の例えで言えば、「空港施設内を巡回する警備員」のような存在です。ファイアウォール(門番)、WAF(特定エリアの手荷物検査)、IPS/IDS(巡回警備)は、それぞれ異なる場所で脅威に対応しており、これらを組み合わせることでセキュリティレベルが向上します。

ファイアウォールだけ/WAFだけでは不十分!多層防御が必須の理由

ファイアウォールとWAF、それぞれの役割と違いを理解すると、「では、どちらか一方だけ導入すれば十分ではないか?」という疑問が浮かぶかもしれません。しかし、その答えは明確に「No」です。現代の高度化・多様化するサイバー攻撃に対しては、ファイアウォールとWAFの両方を組み合わせた「多層防御(Defense in Depth)」の考え方が不可欠となります。その理由を経営的視点も交えて解説します。

ファイアウォールの限界: 前述の通り、ファイアウォールは基本的に通信の中身を検査しません。したがって、正規の通信ポート(例えばWebアクセス用の443番ポート)を通過する通信に紛れ込んだ、Webアプリケーションの脆弱性を狙う攻撃(SQLインジェクションやXSSなど)を検知・防御することはできません。企業の公開WebサイトやAPIは常にこのリスクに晒されており、ファイアウォールだけでは情報漏洩やサイト改ざんといった重大インシデントを防ぐことは困難です。これが「ファイアウォールだけでは不十分」な最大の理由です。

WAFの限界: 一方、WAFはWebアプリケーションの防御に特化していますが、それ以外の脅威には対応できません。例えば、WebサーバーのOSやミドルウェア自体の脆弱性を突く攻撃、リモートデスクトップ(RDP)などWeb以外のプロトコルを利用した不正アクセス試行、標的型メールに添付されたマルウェアによる内部ネットワークへの侵入といった攻撃に対して、WAFは基本的に無力です。これらの脅威に対しては、ファイアウォールによるネットワークレベルでのアクセス制御や、IPS/IDS、エンドポイントセキュリティなど他の対策が必要になります。これが「WAFだけでも不十分」な理由です。

多層防御の重要性: このように、ファイアウォールとWAFはそれぞれに得意な分野と限界があり、互いの弱点を補完し合う関係にあります。ファイアウォールでネットワークの入口を守り、WAFでその先の重要なWebアプリケーションを守る。この複数の防御壁を設ける「多層防御」こそが、セキュリティ対策の基本原則です。一つの防御層が突破されたとしても、次の層で攻撃を食い止める可能性を高めることができます。

経営的視点でのメリット: 多層防御は、単に技術的に安全性を高めるだけでなく、ビジネスリスクを最小限に抑えるという経営的なメリットがあります。情報漏洩やサービス停止による直接的な損害(賠償金、売上損失)はもちろん、信用の失墜やブランドイメージの低下といった無形の損害は、企業の存続をも脅かしかねません。ファイアウォールとWAFを適切に組み合わせることは、これらのリスクを低減し、事業継続性を確保するための、費用対効果の高い投資と考えるべきです。どちらか一方を選ぶのではなく、自社のリスクに応じて両者を組み合わせ、適切なレベルで導入・運用することが、賢明な経営判断と言えるでしょう。

最適な組み合わせは?WAFとファイアウォールの導入形態と活用例

ファイアウォールとWAFの両方が必要であることを理解した上で、次に考えるべきは、それぞれの具体的な活用方法と、特にWAFにおける導入形態の選択です。自社の状況に合わせて最適な組み合わせを検討しましょう。

WAFの主な導入形態: WAFには、大きく分けて以下の3つのタイプがあります。

  • クラウド型 (SaaS型): ベンダーが提供するクラウドサービスとしてWAF機能を利用します。
    • 特徴: 初期費用が安価、導入が迅速(DNS変更等)、運用負荷が低い(ベンダー依存)、スケーラビリティが高い、DDoS対策機能を持つことが多い。
    • 注意点: カスタマイズ性制限、通信遅延の可能性、データ保管場所の制約。
  • アプライアンス型: 専用のハードウェア機器を自社ネットワーク内に設置します。
    • 特徴: 高いカスタマイズ性、高性能、低遅延、自社での完全なコントロール。
    • 注意点: 高額な初期費用、設置スペース、自社での高度な運用管理・保守が必要。
  • ソフトウェア型 (ホスト型): 既存のWebサーバー等にWAFソフトウェアをインストールします。
    • 特徴: 比較的低コスト、既存リソース活用、特定サーバー保護に適す。
    • 注意点: サーバーリソース消費、パフォーマンス影響、個別管理の手間、互換性確認。

どの形態が最適かは、保護対象のシステム規模、予算、運用体制、セキュリティポリシーなどによって異なります。近年は導入・運用の手軽さからクラウド型WAFが主流となりつつありますが、要件によってはアプライアンス型やソフトウェア型が適する場合もあります。

ファイアウォールとWAFの連携・活用例:

  • 基本的な構成: インターネットとの境界にファイアウォールを設置し、公開Webサーバーの手前にWAFを設置します。ファイアウォールがネットワークレベルの攻撃を防ぎ、WAFがWebアプリケーションへの攻撃を防ぐ、最も一般的な多層防御構成です。
  • ファイアウォールの活用:
    • ネットワーク全体の入口/出口でのアクセス制御(IPアドレス、ポート制限)。
    • 社内サーバー(Webサーバー以外も含む)への不正アクセス防止。
    • 拠点間通信の制御、ネットワークセグメンテーション。
    • VPN接続時のセキュリティ強化。
  • WAFの活用:
    • ECサイト、会員サイト、金融系サイトなど、重要情報を扱うWebアプリケーションの保護。
    • 個人情報入力フォーム、ログイン認証画面の保護。
    • 外部連携用APIの不正利用防止。
    • Webサーバーの脆弱性への一時的な対策(仮想パッチ)。

組み合わせのポイント: ファイアウォールとWAFのポリシー(ルール)設定は連携を考慮する必要があります。例えば、ファイアウォールでWAFへの通信(特定のIPアドレスからWebポートへ)を許可し、WAFで詳細なアプリケーションレベルの検査を行う、といった連携です。両者のログを一元的に監視・分析できると、脅威の全体像把握やインシデント対応がより効果的になります。自社の環境とリスクを評価し、最適な設置場所と設定を行うことが重要です。

失敗しない選定のために:コスト・運用・サポートの勘所

ファイアウォールとWAF、特に機能や導入形態が多様なWAFを選定する際には、単に技術的な仕様だけでなく、コスト、運用、サポートといった側面も考慮に入れることが、導入を成功させ、長期的に効果を発揮させるための重要なポイントとなります。管理部・決裁者が押さえるべき勘所を解説します。

1. コスト(TCO/ROI)の考え方: セキュリティ対策の導入にはコストが伴います。製品選定においては、初期費用だけでなく、長期的な運用コストを含めた総保有コスト(TCO: Total Cost of Ownership)で比較検討することが不可欠です。

  • 初期費用: アプライアンス購入費、ソフトウェアライセンス費、初期設定・導入支援費用など。クラウド型は比較的低廉な傾向。
  • ランニングコスト: 年間の保守費用、サブスクリプション料(月額/年額)、クラウド型の場合は通信量やリクエスト数に応じた従量課金、運用代行(マネージドサービス)費用など。
  • 隠れたコスト: 自社で運用する場合の人件費(教育・作業工数)、アプライアンスの設置スペースや電力コストなども考慮に入れます。

これらのTCOを算出した上で、投資対効果(ROI: Return on Investment)を評価します。WAFやファイアウォールの導入によって、どの程度のセキュリティリスク(情報漏洩やサービス停止による想定被害額、復旧コストなど)を低減できるかを試算し、投資額に見合う効果が得られるかを経営的視点で見極めることが重要です。

2. 運用体制(自社運用 vs マネージドサービス): WAFの効果的な運用には、継続的なチューニング(誤検知の抑制と検知精度の維持)、シグネチャや脅威情報の更新、ログ監視、インシデント発生時の対応など、専門的な知識と工数が必要です。

  • 自社運用: セキュリティに関する専門知識を持つ担当者が社内にいる、または育成できる場合に選択肢となります。自社の状況に合わせて柔軟な運用が可能ですが、担当者の負荷が高くなる可能性があります。
  • マネージドサービス: ベンダーや専門企業に運用の一部または全部を委託する形態です。専門家による運用で高い効果が期待でき、社内リソースが不足している場合に有効です。ただし、サービス範囲や費用、ベンダーとの連携体制を事前にしっかり確認する必要があります。

自社の人的リソース、スキルレベル、予算などを考慮し、どちらの運用モデルが最適か、あるいは両者を組み合わせるかを決定します。

3. サポート体制の重要性: 万が一のインシデント発生時や、運用中に問題が発生した場合に、迅速かつ的確なサポートを受けられるかは非常に重要です。

  • サポート窓口: 日本語での対応が可能か、対応時間(24時間365日か平日日中か)は自社の要件に合っているか。
  • サポート内容: 導入時の設定支援、運用中のチューニング相談、緊急インシデント発生時の対応支援など、具体的なサポート範囲を確認します。
  • 情報提供: 新たな脅威情報や製品アップデート情報などが迅速に提供されるかも確認ポイントです。

信頼できるサポート体制を持つベンダーを選ぶことが、長期的な安心感につながります。

まとめ:ファイアウォールとWAFの違いを理解し、戦略的なセキュリティ投資を

本記事を通じて、ファイアウォールとWAFという二つの重要なセキュリティ対策について、その根本的な違い、それぞれの役割と限界、そして両者を組み合わせた「多層防御」の必要性をご理解いただけたことと思います。

ファイアウォールはネットワーク全体の「門番」として、主に通信の送信元・宛先情報に基づいてアクセスを制御し、ネットワークレベルの不正アクセスを防ぎます。一方、WAFはWebアプリケーション専門の「用心棒」として、通信の中身を詳細に検査し、SQLインジェクションやXSSといったアプリケーションの脆弱性を狙う攻撃から保護します。

この二つは守る対象もレイヤーも異なり、どちらか一方だけで現代の多様なサイバー脅威から企業を守り切ることは困難です。それぞれの得意分野を活かし、弱点を補完し合う形で組み合わせる「多層防御」こそが、効果的なセキュリティ体制の基本となります。

管理部・決裁者の皆様におかれましては、この違いを明確に認識した上で、自社のビジネス環境、公開しているWebサービスのリスク、保有する情報資産の重要性を評価し、費用対効果(TCOとROI)を考慮しながら、ファイアウォールとWAF、さらには必要に応じてIPS/IDSなども含めた最適なセキュリティ対策の組み合わせを検討することが求められます。

セキュリティ対策は、単なるコストセンターとして捉えるのではなく、企業の信用、ブランド価値、そして事業継続性を守るための重要な「戦略的投資」です。正しい知識に基づいた適切な投資判断が、変化の激しいデジタル社会において企業が持続的に成長していくための礎となります。本ガイドが、その一助となれば幸いです。

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