SIEMコスト削減ガイド【2025年版】:費用対効果を高める戦略と実践ポイント

【監修】株式会社ジオコード 管理部長
小島 伸介
株式会社ジオコード入社後、Web広告・制作・SEOなどの事業責任者を歴任。
上場準備から上場まで対応した経験を生かし、サービス品質の改善を統括する品質管理課を立ち上げ。その後、総務人事・経理財務・情報システム部門を管掌する管理部長に就任。
サイバー攻撃の巧妙化・悪質化が進む現代において、企業・組織のセキュリティ対策は待ったなしの状況です。特にWebサイトや関連サービスを運営する企業にとって、リアルタイムでの脅威検知とインシデント対応の基盤となるSIEM(Security Information and Event Management)の重要性は論を俟ちません。しかし、SIEMの導入・運用には少なくないコストが発生するという課題があり、「セキュリティは強化したいが、コストは抑えたい」というジレンマを抱える管理部や決裁者の方々は多いはずです。
SIEMは確かに強力なツールですが、高機能製品のライセンス料、インフラ維持費、そして何より専門知識を持つ人材による運用コストが重くのしかかり、想定以上のコスト負担や費用対効果への疑問に繋がるケースも散見されます。このコスト課題を解決しなければ、持続的なセキュリティ対策は困難です。
本記事では、SIEM導入・運用におけるコスト課題に直面している企業の管理部・決裁者の皆様へ向け、「SIEM コスト削減」をメインテーマに据え、その具体的な方法論を深く掘り下げます。SIEMにかかるコストの構造分析から、実践的な7つのコスト削減戦略、費用対効果(ROI)の最大化、そしてコスト削減を成功させるための製品選定・移行のポイントまで、2025年現在の最新情報に基づき網羅的に解説します。単なるコストカットではなく、セキュリティレベルを維持・向上させながら効率的な管理体制を構築し、SIEM投資の価値を最大化するための道筋を示します。本記事が、貴社のSIEMコスト最適化と戦略的なセキュリティ投資の一助となることを願っております。
おすすめのWebセキュリティサービス一覧
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会社名 | サービス名 | 特長 | 費用 | 主なサービス |
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株式会社サイバーセキュリティクラウド
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攻撃遮断くん |
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1サイト月額11,000円~ ※別途、初期導入費用がかかる お問い合わせ |
攻撃検知AIエンジン搭載 サイバー攻撃対策 サイバー保険付帯 |
株式会社スリーシェイク
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Securify(セキュリファイ) |
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ASMプラン:お見積り BASICプラン:10万円/月額 STARTERプラン:5万円/月額 Freeプラン:0円/月額 ※契約は年単位 お問い合わせ |
ASM Webアプリケーション診断 Wordpress診断 SaaS診断 |
株式会社アイロバ ※IT製品の情報サイト「ITトレンド」へ遷移します。 | BLUE Sphere |
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~1.004TB 月額/45,000円 ~5.022TB 月額/78,000円 ~10.044TB 月額/154,000円 |
WAF DDos攻撃からの防御 改ざん検知 DNS監視サービス サイバーセキュリティ保険 |
ペンタセキュリティ株式会社 ※IT製品の情報サイト「ITトレンド」へ遷移します。 |
Cloudbric WAF+ |
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月額サービス料金 28,000円~ 初期導入費用 68,000円~ |
WAFサービス DDoS攻撃対策サービス SSL証明書サービス 脅威IP遮断サービス 悪性ボット遮断サービス |
バルテス株式会社 ※IT製品の情報サイト「ITトレンド」へ遷移します。 | PrimeWAF |
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1サイト限定プラン 初期費用 55,000円 0GB以上160GB未満 14,300円 160GB以上10TB未満 33,000円 10TB以上32TB未満 110,000円 サイト入れ放題プラン 初期費用 55,000円 0TB以上10TB未満 110,000円 10TB以上32TB未満 220,000円 |
ペネトレーションテストサービス クラウド診断サービス セキュアプログラミングのソフトウェア品質セミナー WAF |
EGセキュアソリューションズ株式会社 ※IT製品の情報サイト「ITトレンド」へ遷移します。 | SiteGuard Cloud Edition |
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通信量 400GBまで 初期費用 ¥100,000 価格 (月額) ¥25,000 通信量 1TBまで 初期費用 ¥100,000 価格 (月額) ¥50,000 通信量 4TBまで 初期費用 ¥100,000 価格 (月額) ¥80,000 通信量 10TBまで 初期費用 ¥200,000 価格 (月額) ¥170,000 通信量 20TBまで 初期費用 ¥200,000 価格 (月額) ¥280,000 通信量 40TBまで 初期費用 ¥200,000 価格 (月額) ¥520,000 |
シグネチャ検査(更新、設定はマネージドサービスとして提供します。) CMS設定(WordPress、Movable Type、EC-CUBEの運用に適した設定を行います。) アクセス制御 国別フィルタ ダッシュボード レポート機能 専用フォーム(各種お問い合わせは専用フォームで承ります。履歴管理も可能です。) |
Amazon Web Services, Inc. | AWS WAF |
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Web ACL 月あたり (時間で案分) USD 5.00 ルール 月あたり (時間で案分) USD 1.00 リクエスト USD 0.60/100 万件のリクエスト (最大 1500 WCU およびデフォルトの本文サイズの検査*) Bot Control と Fraud Control 上記のタブによる追加費用 |
ウェブトラフィックフィルタリング AWS WAF Bot Control アカウント乗っ取り詐欺の防止 アカウント作成詐欺防止 フル機能 API リアルタイムの可視性 AWS Firewall Manager への統合 |
株式会社ROCKETWORKS ※IT製品の情報サイト「ITトレンド」へ遷移します。 | イージスWAFサーバセキュリティ |
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イージスサーバセキュリティタイプ 月額/50,000円 イージスDDoSセキュリティタイプ ~2Mbps 初期費用/¥98,000 月額/¥40,000 ~5Mbps 初期費用/¥98,000 月額/¥60,000 ~10Mbps 初期費用/¥98,000 月額/¥120,000 ~50Mbps 初期費用/¥198,000 月額/¥198,000 ~100Mbps 初期費用/¥198,000 月額/¥250,000 ~200Mbps 初期費用/¥198,000 月額/¥450,000 200Mbps以上 別途見積もり |
サイバー攻撃の検出/遮断 月次レポート サイバーセキュリティに関するアドバイザリー 法務相談(オプション) |
SBテクノロジー株式会社 ※IT製品の情報サイト「ITトレンド」へ遷移します。 |
Imperva WAF |
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- | Web Application Firewall |
株式会社セキュアスカイ・テクノロジー | Scutum |
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~500kbps 初期費用 98,000円 月額 29,800円 ~5Mbps 初期費用 98,000円 月額 59,800円 ~10Mbps 初期費用 98,000円 月額 128,000円 ~50Mbps 初期費用 198,000円 月額 148,000円 ~100Mbps 初期費用 198,000円 月額 198,000円 ~200Mbps 初期費用 198,000円 月額 298,000円 200Mbps 初期費用198,000円 100Mbps毎に100,000円加算 |
1 ブロック機能 Webサイトに対する攻撃と思われる通信を遮断する機能 2 モニタリング機能 Webサイトに対する攻撃と思われる通信を記録する機能 (通信自体は遮断されません) 3 防御ログ閲覧機能 ブロック(モニタリング)した通信をログとして保存し、閲覧できる機能 4 レポート機能 下記の内容を管理画面上で報告する機能 ・攻撃元(IPアドレス)top5 ・攻撃種別top5 ・防御ログの月別ダウンロード 5 ソフトウェア更新機能 防御機能等を向上させるため、ソフトウェアを更新する機能 6 防御ロジック更新機能 防御効果の向上を図るため、不正な通信パターンを随時最新の状態に更新する機能 7 特定URL除外機能 Webサイト中のWAF機能を利用したくない箇所を防御対象から除外する機能 8 IPアドレスの拒否/許可設定機能 特定のIPアドレスからの通信を拒否、もしくは特定のIPアドレスからの通信のみ許可する機能 9 脆弱性検査用IPアドレス管理機能 Webサイトへの脆弱性診断等を行う際、設定したIPアドレスからの通信についてブロック/モニタリングを行わない機能 10 SSL/TLS通信機能 暗号化された通信についても解読し、防御する機能 11 API機能 Scutumで検知した防御ログや詳細な攻撃リクエスト内容をAPI経由で取得できる機能 |
エヌ・ティ・ティ・スマートコネクト株式会社 | SmartConnect Network & Security |
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UTM WAF DDoS Webプロキシ メールセキュリティ ロードバランサ VPN |
株式会社モニタラップ | AIONCLOUD WAAP |
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WAF Webアプリケーションを既存の攻撃、ゼロデイ攻撃などから防御します。 APIセキュリティ 企業のAPIに対する可視性を提供し脅威を遮断します。 ボット緩和 ボットのトラフィックを管理し、Webサイトを保護します。 DDoS保護 アプリケーション階層のDDoS攻撃から企業のWebサイトを守ります。 |
フォーティネットジャパン合同会社 | FortiWeb |
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アプリケーションのセキュリティ コンテンツセキュリティ デバイスのセキュリティ NOC/SOC セキュリティ ウェブセキュリティ 管理された検出と対応 SOC-as-a-Service インシデント対応サービス サイバーセキュリティの評価と準備状況 |
バラクーダネットワークス | Barracuda Web Application Firewall |
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WebアプリケーションとAPIの保護 + OWASPおよびゼロデイ攻撃に対する保護 + 高度なボット攻撃からアプリケーションを保護 + API保護 + サーバクローキング + URL暗号化 + GEO IPとIPレピュテーションチェック + マルウェア対策とウィルス対策 + マルチプロトコルサポート + アプリケーションDDoS対策 + 大規模なDDoSの防止 + JSONセキュリティ + XMLファイアウォール + アクティブ脅威インテリジェンス + クライアントサイドプロテクション アプリケーションデリバリ + アプリケーションの負荷分散と監視 + コンテンツルーティング + キャッシュ、圧縮、トラフィックの最適化 データ保護とコンプライアンス + アウトバウンドDLP + コンプライアンス認証 IAM + SAMLサポートとSSO + クライアント証明書ベースの認証 + AD FSとの統合 + LDAP、Kerberos、およびRADIUSとの統合 + 2要素認証 レポート + Barracuda Active Threat Intelligenceダッシュボード + 直感的なドリルダウンレポート + 包括的なログ + SIEMとの統合 管理 + HAクラスタリング + ロールベースの緻密なアクセス制御 + REST APIによる自動化とスケーラビリティ + 統合的なDevSecOpsの有効化 + デフォルトのセキュリティテンプレート 中央管理 + 単一コンソール + 証明書の中央管理 + 中央管理通知とアラート 使いやすさ + アプリケーション学習(アダプティブプロファイリング) + 仮想パッチと脆弱性スキャナとの統合 + 自動構成エンジン |
セコムトラストシステムズ株式会社 | マネージドWAFサービス |
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DDoS対策 ファイアウォール IPS WAF |
Amazon Web Services, Inc. | AWS Shield |
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AWS Shield Standard 基盤となる AWS サービスの静的しきい値 DDoS 保護 インラインの攻撃緩和 AWS Shield Advanced アプリケーショントラフィックパターンに基づいてカスタマイズされた検出 正常性に基づく検出 高度な攻撃緩和機能 自動アプリケーションレイヤー DDoS 緩和策 積極的なイベント応答 保護グループ 可視性と攻撃の通知 DDoS コスト保護 専門サポート グローバルな可用性 一元化された保護管理 |
なぜSIEMコストは膨らむ?費用の全体像と構造を把握する
SIEMのコスト削減に取り組む前に、なぜSIEMの運用に多額のコストがかかるのか、その費用の全体像と構造を正確に理解することが不可欠です。コストの内訳を知ることで、どこに削減の余地があり、どのような対策が有効かを見極めることができます。SIEM関連コストは、単純なライセンス費用以外にも、インフラ、運用人件費、そして見落としがちな「隠れコスト」が存在します。
- 1. ライセンス費用:多様なモデルと課金体系 SIEMコストの中核を成すのがライセンス費用です。主なモデルにはそれぞれ特徴があります。
- サブスクリプション型: クラウドSIEMに多く、月額・年額で利用権と保守が提供されます。初期投資は抑えられますが、長期利用での総コストは要検討です。
- 従量課金型: 処理ログ量(GB/day等)やイベント数(EPS)に応じて課金されます。スモールスタートには有利ですが、データ量増加でコストが急増するリスクがあり、コスト予測が難しい点が課題です。
- 永続ライセンス型: オンプレミス製品に多く、初期に一括購入し、年間の保守費用を支払います。初期投資は高額ですが、長期的なTCO(総所有コスト)は抑制できる可能性があります。 重要なのは、どのモデルが最適かは企業規模、ログ量、予算、将来計画によって異なる点です。また、課金単位(ログ量、EPS、ノード数、ユーザー数等)が自社の利用実態に合っているかを見極めないと、無駄なコストが発生します。
- 2. インフラ費用:オンプレミス vs クラウド SIEMシステムを稼働させる基盤にもコストがかかります。
- オンプレミス: サーバー、ストレージ等のハードウェア購入費に加え、設置スペース、電気代、冷却、保守、管理者の工数といった継続的な運用維持コストが発生します。高性能な機器が必要な場合、初期投資も大きくなります。
- クラウド(SaaS): 自社でのインフラ投資・管理は不要ですが、サービス利用料にインフラコストが含まれます。データ量、保持期間、利用機能、データ転送料などに応じて費用が変動するため、トータルコストの試算が必要です。
- 3. 運用人件費:最大のコスト要因 SIEMの効果を引き出すには継続的な運用が不可欠であり、ここにかかる人件費が最も大きなコスト要因となり得ます。
- 監視・分析・対応: 24時間365日の監視体制、アラートの分析・トリアージ、インシデント発生時の調査・対応には、高度な専門知識を持つ人材が必要です。
- ルールチューニング: 誤検知(過検知・過小検知)を減らし、検知精度を高めるための継続的なルールチューニングは必須作業であり、専門スキルと多くの工数を要します。
- レポート作成: 経営層や関連部署への報告書作成も運用業務の一環です。 専門人材の確保・育成・維持には高額なコストがかかり、属人化や担当者の負荷増大も課題となります。
- 4. 隠れたコスト:見落としがちな費用 上記以外にも、初期段階や特定のタイミングで発生する見落としがちなコストがあります。
- 初期チューニング: 導入直後は環境に合わせたチューニングに想定以上の工数がかかることがあります。
- トレーニング・教育: 担当者のスキル習得・維持のための研修費用や時間的コスト。
- 連携・カスタマイズ: 他システムとの連携開発や、独自の分析要件に対応するためのカスタマイズ費用。
これらのコスト要素を正確に把握し、自社のSIEM運用におけるコスト配分を分析することが、効果的なコスト削減策を立案するための第一歩となります。
実践!SIEMコストを削減する7つの戦略【2025年最新】
SIEMのコスト構造を理解したら、次は具体的なコスト削減策の実行です。ここでは、セキュリティレベルを維持・向上させつつ、効率化を通じてSIEMコストを最適化するための、実践的な7つの戦略を解説します。これらの戦略は独立しているわけではなく、組み合わせて実施することで、より大きな効果が期待できます。
- 戦略1:ライセンス体系の最適化と戦略的交渉 SIEMコストの大部分を占めるライセンス費用は、最も直接的な削減対象です。
- 最適なモデル選定: 自社のログ量(現状と将来予測)、予算サイクル、運用方針(クラウド/オンプレ)を考慮し、TCO(総所有コスト)が最も低くなるライセンスモデル(サブスクリプション/従量課金/永続)を選びます。特に従量課金はコスト変動リスクを理解し、上限設定やアラート機能の活用を検討しましょう。
- プラン・機能の精査: 必要最低限の機能を含むプランを選び、利用しないオプション機能は契約から外します。機能とコストのバランスを慎重に見極めます。
- 積極的なベンダー交渉: 新規導入・契約更新時は複数ベンダーから見積もりを取得し、価格競争を促します。ボリュームディスカウント、長期契約割引、特定機能のバンドルなどを交渉材料とし、自社の利用状況に基づいた最適な条件を引き出します。
- 戦略2:ログ収集範囲の見直しとデータ量の最適化 特にログ量ベースの課金モデルでは、収集データ量の最適化がコスト削減に直結します。
- 必要ログの選択と集中: セキュリティ監視・コンプライアンス要件に基づき、本当に分析・保管が必要なログソース、イベント種別を厳選します。「念のため」の過剰収集を避けます。
- ログレベル・フィールドの調整: 不要な詳細ログ(デバッグレベル等)を避け、適切なログレベルに設定。分析に不要なフィールドは収集前に削除・フィルタリングします。
- データ管理ポリシー: ログの保持期間を要件に応じて最適化し、不要な長期保管を避けます。ログ圧縮やアーカイブ機能も活用し、ストレージコストを削減します。ただし、インシデント調査や監査に必要なログを削除しないよう注意が必要です。
- 戦略3:クラウドSIEMの戦略的活用 オンプレミス運用の場合、クラウドSIEM(SaaS)への移行は有効なコスト削減策となり得ます。
- インフラコスト・管理工数の削減: 自社でのHW購入・保守・運用管理が不要になります。
- 柔軟なスケーラビリティ: ログ量の増減に合わせてリソースを調整でき、過剰投資を回避できます。
- 最新機能へのアクセス: クラウドサービスは機能アップデートが速い傾向があります。 ただし、データ転送料、長期保管コスト、特定機能の利用料などは別途発生する場合があるため、オンプレミスとのTCOを十分に比較検討することが重要です。
- 戦略4:自動化(SOAR等)による運用工数の劇的削減 SOAR(Security Orchestration, Automation and Response)機能の活用は、人件費削減とインシデント対応迅速化に大きく貢献します。
- 定型業務の自動化: アラートのトリアージ、情報付与、脅威判定、チケット起票、初期調査、単純なブロック措置などを自動化(プレイブック化)します。
- 人的リソースの最適化: 自動化により、担当者は高度な分析や複雑なインシデント対応に集中でき、人的リソースを有効活用できます。これにより、残業時間の削減や担当者の負担軽減にも繋がります。
- インシデント対応効率化: 対応初動が迅速化され、被害拡大を防ぎ、復旧コストやビジネス損失を低減します。
- 戦略5:ML・UEBAによる分析効率化と誤検知削減 機械学習(ML)やUEBA(ユーザー・エンティティ振る舞い分析)は、高度な脅威検知だけでなく、運用効率化にも寄与します。
- 未知脅威・内部不正検知の効率化: 人手では発見困難な異常を自動検知し、高度な分析工数を削減します。
- 誤検知(フォールスポジティブ)の削減: 正常な振る舞いを学習することで、不要なアラートを減らし、アラートのトリアージやチューニングにかかる工数を大幅に削減します。アラート疲れを防ぎ、重要な脅威への対応漏れリスクを低減します。
- 戦略6:運用体制の見直しと外部リソース(MSSP)活用 高度なスキルを持つ人材を自社だけで確保・維持するのは困難な場合があります。
- 役割分担とスキル向上: チーム内で役割を明確化し、計画的なトレーニングでスキルアップを図り、効率的な運用を目指します。
- アラートチューニングの継続: 誤検知を継続的に減らすためのチューニング体制を確立します。これは運用効率化の鍵です。
- MSSPの検討: 24/365監視、高度分析、インシデント対応などを専門のMSSPに委託することで、人件費を抑制しつつ専門性を確保できる場合があります。サービス範囲、SLA、コストを慎重に評価し、自社運用とのハイブリッドなども含めて検討します。
- 戦略7:オープンソースSIEMの検討(条件付き) OSSベースのSIEM(Elastic Security, Wazuh等)は、ライセンス費用を大幅に削減できる可能性があります。
- メリット: 初期・ライセンス費用が無料または安価、カスタマイズ性が高い。
- 注意点: 構築・運用・チューニングには高い専門スキルが必須。サポートは基本的にコミュニティ頼り(有償サポートもあり)。機能が商用製品に劣る可能性。TCOには見えにくい人件費・工数を十分に含める必要があります。
これらの戦略を自社の状況に合わせて組み合わせ、継続的に見直すことで、SIEMコストの最適化は十分に可能です。
投資効果を最大化!SIEM導入による費用対効果(ROI)の考え方
SIEMへの投資を正当化し、経営層の理解を得るためには、コスト削減効果だけでなく、それがもたらす事業価値や費用対効果(ROI: Return on Investment)を示すことが重要です。SIEMは単なるコストではなく、ビジネスリスクを低減し、事業継続性を確保するための戦略的投資です。ここでは、SIEMがもたらす価値とROIの考え方を解説します。
- 1. インシデントによるビジネス損失の低減(コスト削減効果) SIEM導入による最も直接的で分かりやすい効果は、インシデント被害の最小化です。
- 被害額の削減: 早期検知と迅速な対応により、マルウェア駆除、システム復旧、フォレンジック調査、損害賠償などにかかる直接的なコストを大幅に削減できます。
- 事業停止時間の短縮: サービス停止に伴う売上損失や機会損失を最小限に抑えます。ダウンタイムによるコストは甚大です。
- ブランドイメージ・信用の保護: 情報漏洩などの重大インシデントは、顧客離れや株価下落など、金銭換算しにくい、しかし深刻なダメージを与えます。これを未然に防ぐ、あるいは影響を最小化する効果は計り知れません。
- 2. コンプライアンス対応の効率化とリスク回避(コスト削減&リスク低減) 多くの法規制や業界基準(PCI DSS, GDPR等)はログ管理・監視を要求します。SIEMはこの遵守を支援します。
- 監査対応工数の削減: 必要なログやレポートを効率的に準備・提出できるため、監査にかかる時間と人件費を削減できます。
- 罰金・制裁リスクの低減: コンプライアンス違反による高額な罰金や法的措置のリスクを回避できます。
- 3. セキュリティ担当者の生産性向上(運用効率化) SIEM、特に自動化(SOAR)やML/UEBAは、セキュリティチームの働き方を大きく変えます。
- 手作業の削減による工数削減: 膨大なログの手動確認、定型アラート対応、レポート作成といった反復作業から解放され、担当者の時間を節約します。
- 高付加価値業務へのシフト: 削減された時間を活用し、プロアクティブな脅威ハンティング、脆弱性対策、セキュリティ戦略の策定など、より戦略的で高度な業務に注力できます。
- 働きがい向上: 運用負荷軽減は、担当者のモチベーション維持や離職防止にも繋がる可能性があります。
- 4. ROI(投資対効果)試算の考え方:経営層への説明 これらの効果を可能な限り定量化し、SIEM投資額(TCO)と比較することでROIを試算します。
- 算出要素:
- 削減コスト: 想定されるインシデント被害削減額、監査対応工数削減額(人件費換算)、運用工数削減額(人件費換算)など。
- 投資額: SIEMの導入・運用にかかるTCO(ライセンス、インフラ、人件費、保守等)。
- 計算式(例): ROI (%) = [ (年間削減コスト合計 × 運用年数) – TCO ] / TCO × 100 全ての効果を正確に金額換算するのは困難ですが、「これだけのインシデント被害を未然に防げれば投資額を回収できる」「これだけの工数削減が見込める」といった試算を示すことで、投資の妥当性を客観的に説明できます。定性的な効果(安心感、信頼性向上)も合わせて伝えることが重要です。ROIの視点を持つことで、SIEMは単なるコストセンターではなく、価値を生み出す戦略的投資として位置づけることができます。
- 算出要素:
失敗しない!コスト削減を意識したSIEM選定・移行の重要ポイント
SIEMによるコスト削減効果を最大化するためには、導入・移行段階での製品選定が決定的に重要です。初期の選択が、その後の運用コスト、ひいてはTCO(総所有コスト)全体を大きく左右します。コスト削減を成功に導くために、製品選定・移行時に押さえるべき重要なポイントを以下に示します。
- 1. TCO(総所有コスト)での徹底比較を最優先する初期費用や月額ライセンス料の安さだけで製品を選んではいけません。これはSIEM選定における最大の落とし穴の一つです。安価に見える製品でも、運用に高度なスキルや多くの工数が必要だったり、後から機能追加で費用がかさんだり、スケーリングコストが高かったりする可能性があります。
- 3~5年スパンでの試算: ライセンス(初期+継続)、インフラ(HW購入/維持 or クラウド利用料)、運用人件費(監視、分析、特にチューニング工数)、保守サポート、トレーニング等、考えうる全てのコストを含め、必ず3~5年間のTCOを複数製品で比較します。
- ライセンス体系の精査: 特にログ量ベースの従量課金は、将来のデータ増によるコスト増をシミュレーションし、定額制など他のモデルと比較検討します。隠れたコストが発生しないか、契約内容を詳細に確認します。
- 2. 将来を見据えたスケーラビリティとコスト増を評価する ビジネスの成長やIT環境の変化に伴い、SIEMが処理すべきログ量は増加する可能性が高いです。選定する製品が、将来的な規模拡大に性能面・コスト面で柔軟に対応できるか(スケーラビリティ)を見極める必要があります。
- 拡張性の確認: サーバー追加(スケールアウト)や性能向上(スケールアップ)が容易か、アーキテクチャを確認します。
- 拡張コストの明確化: ログ量、EPS、ノード数などが増加した場合、ライセンス費用やインフラ費用がどのように増加するのか、具体的なコストテーブルや計算式をベンダーに確認します。拡張コストが急激に跳ね上がるモデルは避けるべきです。クラウドSIEMは拡張しやすいですが、利用量に応じたコスト増は同様に評価が必要です。
- 3. PoC(概念実証)で費用対効果と運用負荷を実証する 製品資料やデモだけでは分からない、実際の運用負荷や費用対効果を検証するために、PoC(Proof of Concept:概念実証)の実施は極めて有効です。手間とコストはかかりますが、導入後のミスマッチを防ぎ、結果的にコスト削減に繋がります。
- リアルな環境での検証: 実際の自社ログを使用し、分析精度、処理パフォーマンス、既存システムとの連携性を確認します。
- コスト関連指標の測定: 誤検知の発生状況とチューニングに必要な工数、SOAR等による自動化効果(工数削減効果)、想定される運用リソース(人員、スキル)などを具体的に測定・評価します。
- TCO試算の精度向上: PoCの結果を基に、TCO試算(特に運用人件費やチューニング工数)の精度を高めます。
- 4. 自社の運用体制と製品の要求レベル・サポート体制を照合する SIEMは導入後の運用が肝心です。「自社で使いこなせるか?」という視点が不可欠です。
- 運用リソースの現実的評価: SIEM運用に充てられる人員数、担当者のスキルレベル、確保可能な時間を客観的に評価します。
- 製品の運用容易性: 管理画面のインターフェースは直感的か、ルールの作成やチューニングは容易か、日本語ドキュメントは充実しているかなどを確認します。
- サポート体制の評価: ベンダーやパートナーのサポート品質(対応時間、技術レベル、日本語対応)、SLA(サービスレベル合意)の内容を確認します。サポート費用もTCOに含めて評価します。自社での運用に不安がある場合は、手厚いサポートやMSSPの利用を前提とした製品選定も視野に入れます。安価でもサポートが不十分だと、問題解決に時間がかかり、トータルコストが増加する可能性があります。
これらのポイントを総合的に評価し、長期的な視点で最も費用対効果が高く、かつ自社の運用体制に見合ったSIEM製品を選択することが、コスト削減を成功させるための鍵となります。
まとめ:戦略的アプローチで実現するSIEMコスト最適化
本記事では、「SIEM コスト削減」という重要な経営課題に対し、そのコスト構造の分析から、具体的な7つの削減戦略、投資対効果(ROI)の考え方、そして失敗しないための製品選定・移行のポイントまで、多角的に解説しました。
SIEM運用コストは、ライセンス費用、インフラ費用に加え、運用人件費やチューニング工数といった「運用に関わるコスト」が大きな割合を占めることを理解することが、コスト最適化の出発点です。その上で、ライセンス体系の見直し、ログ収集の最適化、クラウド活用、自動化(SOAR)やML/UEBAによる効率化、運用体制の見直し(MSSP含む)、OSSの検討といった戦略的なアプローチを組み合わせることで、コスト削減は十分に可能です。
強調したいのは、これらの取り組みは単なるコストカットではなく、セキュリティレベルを維持・向上させながら運用を効率化するものであるという点です。自動化や高度な分析は、コスト削減と同時に、脅威への対応力を強化します。
SIEMコスト削減を成功させるためには、導入前の徹底したTCO評価と、PoCによる費用対効果・運用負荷の実証が不可欠です。初期費用だけでなく、長期的な運用コスト、将来の拡張性を見据え、自社の運用体制で確実に活用できる製品を慎重に選ぶ必要があります。
SIEMは、現代のビジネス環境において不可欠なセキュリティ投資です。そのコストは決して小さくありませんが、本記事で示した戦略的なアプローチとポイントを実践することで、最適化を図り、セキュリティ強化とコスト効率化の両立を実現できます。ぜひ、貴社の状況に合わせてこれらの知見を活用し、持続可能で効果的なセキュリティ基盤の構築に取り組んでください。