クラウドWAF導入ガイド2025:メリット・従来型との違い・選定ポイントを経営層向けに解説

【監修】株式会社ジオコード 管理部長
小島 伸介
株式会社ジオコード入社後、Web広告・制作・SEOなどの事業責任者を歴任。
上場準備から上場まで対応した経験を生かし、サービス品質の改善を統括する品質管理課を立ち上げ。その後、総務人事・経理財務・情報システム部門を管掌する管理部長に就任。
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なぜ今「クラウド型WAF」なのか?経営リスクとセキュリティ新潮流
企業活動におけるクラウドサービスの利用は、もはや特別なことではなくなりました。サーバーインフラから業務アプリケーションに至るまで、多くのITリソースがクラウドへと移行する中で、セキュリティ対策の考え方にも変革が求められています。特に、企業の顔であり、顧客との重要な接点となるWebサイトやWebアプリケーションは、ビジネスの生命線であると同時に、サイバー攻撃者にとって格好の標的です。SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティング(XSS)といった脆弱性を狙う攻撃は後を絶たず、その手口はますます巧妙化・自動化しています。
ひとたび攻撃が成功すれば、顧客情報の漏洩による損害賠償や法的責任、サービス停止による機会損失、そして何よりも企業の信用失墜といった、深刻な経営リスクに直結します。このような背景から、Webアプリケーションを保護するWAF(Web Application Firewall)の導入は、事業継続のための必須要件となりつつあります。
そして近年、WAFの導入形態として主流になりつつあるのが「クラウド型WAF」です。従来の自社で機器を導入・運用する「従来型WAF(アプライアンス型/ソフトウェア型)」と比較し、クラウド型WAFには多くのメリットがあるため、多くの企業が導入を検討しています。
しかし、「クラウド」という言葉だけで安易に飛びつくのは危険です。「自社の状況に本当に合っているのか?」「従来型と比べて具体的に何が優れていて、何に注意すべきなのか?」「投資対効果(ROI)は?」といった疑問を解消し、自社のリスクレベルや運用体制、予算に照らして最適な選択をすることが、管理部・決裁者の皆様には求められます。
本記事では、クラウド型WAFの導入を検討されている皆様に向けて、その基本的な仕組みから、経営視点で見た導入メリット、従来型との明確な違い、そして失敗しないための選定基準までを、2025年現在の最新動向も踏まえながら網羅的に解説します。正しい知識に基づき、自社にとって最適なセキュリティ投資判断を行うための一助となれば幸いです。
おすすめのWebセキュリティサービス一覧
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会社名 | サービス名 | 特長 | 費用 | 主なサービス |
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株式会社サイバーセキュリティクラウド
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攻撃遮断くん |
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1サイト月額11,000円~ ※別途、初期導入費用がかかる お問い合わせ |
攻撃検知AIエンジン搭載 サイバー攻撃対策 サイバー保険付帯 |
株式会社スリーシェイク
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Securify(セキュリファイ) |
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ASMプラン:お見積り BASICプラン:10万円/月額 STARTERプラン:5万円/月額 Freeプラン:0円/月額 ※契約は年単位 お問い合わせ |
ASM Webアプリケーション診断 Wordpress診断 SaaS診断 |
株式会社アイロバ ※IT製品の情報サイト「ITトレンド」へ遷移します。 | BLUE Sphere |
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~1.004TB 月額/45,000円 ~5.022TB 月額/78,000円 ~10.044TB 月額/154,000円 |
WAF DDos攻撃からの防御 改ざん検知 DNS監視サービス サイバーセキュリティ保険 |
ペンタセキュリティ株式会社 ※IT製品の情報サイト「ITトレンド」へ遷移します。 |
Cloudbric WAF+ |
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月額サービス料金 28,000円~ 初期導入費用 68,000円~ |
WAFサービス DDoS攻撃対策サービス SSL証明書サービス 脅威IP遮断サービス 悪性ボット遮断サービス |
バルテス株式会社 ※IT製品の情報サイト「ITトレンド」へ遷移します。 | PrimeWAF |
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1サイト限定プラン 初期費用 55,000円 0GB以上160GB未満 14,300円 160GB以上10TB未満 33,000円 10TB以上32TB未満 110,000円 サイト入れ放題プラン 初期費用 55,000円 0TB以上10TB未満 110,000円 10TB以上32TB未満 220,000円 |
ペネトレーションテストサービス クラウド診断サービス セキュアプログラミングのソフトウェア品質セミナー WAF |
EGセキュアソリューションズ株式会社 ※IT製品の情報サイト「ITトレンド」へ遷移します。 | SiteGuard Cloud Edition |
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通信量 400GBまで 初期費用 ¥100,000 価格 (月額) ¥25,000 通信量 1TBまで 初期費用 ¥100,000 価格 (月額) ¥50,000 通信量 4TBまで 初期費用 ¥100,000 価格 (月額) ¥80,000 通信量 10TBまで 初期費用 ¥200,000 価格 (月額) ¥170,000 通信量 20TBまで 初期費用 ¥200,000 価格 (月額) ¥280,000 通信量 40TBまで 初期費用 ¥200,000 価格 (月額) ¥520,000 |
シグネチャ検査(更新、設定はマネージドサービスとして提供します。) CMS設定(WordPress、Movable Type、EC-CUBEの運用に適した設定を行います。) アクセス制御 国別フィルタ ダッシュボード レポート機能 専用フォーム(各種お問い合わせは専用フォームで承ります。履歴管理も可能です。) |
Amazon Web Services, Inc. | AWS WAF |
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Web ACL 月あたり (時間で案分) USD 5.00 ルール 月あたり (時間で案分) USD 1.00 リクエスト USD 0.60/100 万件のリクエスト (最大 1500 WCU およびデフォルトの本文サイズの検査*) Bot Control と Fraud Control 上記のタブによる追加費用 |
ウェブトラフィックフィルタリング AWS WAF Bot Control アカウント乗っ取り詐欺の防止 アカウント作成詐欺防止 フル機能 API リアルタイムの可視性 AWS Firewall Manager への統合 |
株式会社ROCKETWORKS ※IT製品の情報サイト「ITトレンド」へ遷移します。 | イージスWAFサーバセキュリティ |
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イージスサーバセキュリティタイプ 月額/50,000円 イージスDDoSセキュリティタイプ ~2Mbps 初期費用/¥98,000 月額/¥40,000 ~5Mbps 初期費用/¥98,000 月額/¥60,000 ~10Mbps 初期費用/¥98,000 月額/¥120,000 ~50Mbps 初期費用/¥198,000 月額/¥198,000 ~100Mbps 初期費用/¥198,000 月額/¥250,000 ~200Mbps 初期費用/¥198,000 月額/¥450,000 200Mbps以上 別途見積もり |
サイバー攻撃の検出/遮断 月次レポート サイバーセキュリティに関するアドバイザリー 法務相談(オプション) |
SBテクノロジー株式会社 ※IT製品の情報サイト「ITトレンド」へ遷移します。 |
Imperva WAF |
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- | Web Application Firewall |
株式会社セキュアスカイ・テクノロジー | Scutum |
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~500kbps 初期費用 98,000円 月額 29,800円 ~5Mbps 初期費用 98,000円 月額 59,800円 ~10Mbps 初期費用 98,000円 月額 128,000円 ~50Mbps 初期費用 198,000円 月額 148,000円 ~100Mbps 初期費用 198,000円 月額 198,000円 ~200Mbps 初期費用 198,000円 月額 298,000円 200Mbps 初期費用198,000円 100Mbps毎に100,000円加算 |
1 ブロック機能 Webサイトに対する攻撃と思われる通信を遮断する機能 2 モニタリング機能 Webサイトに対する攻撃と思われる通信を記録する機能 (通信自体は遮断されません) 3 防御ログ閲覧機能 ブロック(モニタリング)した通信をログとして保存し、閲覧できる機能 4 レポート機能 下記の内容を管理画面上で報告する機能 ・攻撃元(IPアドレス)top5 ・攻撃種別top5 ・防御ログの月別ダウンロード 5 ソフトウェア更新機能 防御機能等を向上させるため、ソフトウェアを更新する機能 6 防御ロジック更新機能 防御効果の向上を図るため、不正な通信パターンを随時最新の状態に更新する機能 7 特定URL除外機能 Webサイト中のWAF機能を利用したくない箇所を防御対象から除外する機能 8 IPアドレスの拒否/許可設定機能 特定のIPアドレスからの通信を拒否、もしくは特定のIPアドレスからの通信のみ許可する機能 9 脆弱性検査用IPアドレス管理機能 Webサイトへの脆弱性診断等を行う際、設定したIPアドレスからの通信についてブロック/モニタリングを行わない機能 10 SSL/TLS通信機能 暗号化された通信についても解読し、防御する機能 11 API機能 Scutumで検知した防御ログや詳細な攻撃リクエスト内容をAPI経由で取得できる機能 |
エヌ・ティ・ティ・スマートコネクト株式会社 | SmartConnect Network & Security |
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UTM WAF DDoS Webプロキシ メールセキュリティ ロードバランサ VPN |
株式会社モニタラップ | AIONCLOUD WAAP |
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WAF Webアプリケーションを既存の攻撃、ゼロデイ攻撃などから防御します。 APIセキュリティ 企業のAPIに対する可視性を提供し脅威を遮断します。 ボット緩和 ボットのトラフィックを管理し、Webサイトを保護します。 DDoS保護 アプリケーション階層のDDoS攻撃から企業のWebサイトを守ります。 |
フォーティネットジャパン合同会社 | FortiWeb |
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アプリケーションのセキュリティ コンテンツセキュリティ デバイスのセキュリティ NOC/SOC セキュリティ ウェブセキュリティ 管理された検出と対応 SOC-as-a-Service インシデント対応サービス サイバーセキュリティの評価と準備状況 |
バラクーダネットワークス | Barracuda Web Application Firewall |
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WebアプリケーションとAPIの保護 + OWASPおよびゼロデイ攻撃に対する保護 + 高度なボット攻撃からアプリケーションを保護 + API保護 + サーバクローキング + URL暗号化 + GEO IPとIPレピュテーションチェック + マルウェア対策とウィルス対策 + マルチプロトコルサポート + アプリケーションDDoS対策 + 大規模なDDoSの防止 + JSONセキュリティ + XMLファイアウォール + アクティブ脅威インテリジェンス + クライアントサイドプロテクション アプリケーションデリバリ + アプリケーションの負荷分散と監視 + コンテンツルーティング + キャッシュ、圧縮、トラフィックの最適化 データ保護とコンプライアンス + アウトバウンドDLP + コンプライアンス認証 IAM + SAMLサポートとSSO + クライアント証明書ベースの認証 + AD FSとの統合 + LDAP、Kerberos、およびRADIUSとの統合 + 2要素認証 レポート + Barracuda Active Threat Intelligenceダッシュボード + 直感的なドリルダウンレポート + 包括的なログ + SIEMとの統合 管理 + HAクラスタリング + ロールベースの緻密なアクセス制御 + REST APIによる自動化とスケーラビリティ + 統合的なDevSecOpsの有効化 + デフォルトのセキュリティテンプレート 中央管理 + 単一コンソール + 証明書の中央管理 + 中央管理通知とアラート 使いやすさ + アプリケーション学習(アダプティブプロファイリング) + 仮想パッチと脆弱性スキャナとの統合 + 自動構成エンジン |
セコムトラストシステムズ株式会社 | マネージドWAFサービス |
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- |
DDoS対策 ファイアウォール IPS WAF |
Amazon Web Services, Inc. | AWS Shield |
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- |
AWS Shield Standard 基盤となる AWS サービスの静的しきい値 DDoS 保護 インラインの攻撃緩和 AWS Shield Advanced アプリケーショントラフィックパターンに基づいてカスタマイズされた検出 正常性に基づく検出 高度な攻撃緩和機能 自動アプリケーションレイヤー DDoS 緩和策 積極的なイベント応答 保護グループ 可視性と攻撃の通知 DDoS コスト保護 専門サポート グローバルな可用性 一元化された保護管理 |
クラウド型WAFとは?基本概念と主なサービス形態
「クラウド型WAF」とは、クラウドコンピューティング基盤を利用して提供されるWAF機能やサービスの総称です。従来のWAFのように、企業が自社内に物理的な機器(アプライアンス)を設置したり、サーバーに専用ソフトウェアをインストールしたりする必要がなく、サービス提供事業者(ベンダー)がクラウド上で管理・運用するWAFを利用する点が最大の特徴です。
基本的な動作原理は、保護対象のWebサイトやWebアプリケーションへのアクセス(HTTP/HTTPS通信)を、まずインターネット上にあるクラウドWAFのプラットフォームに経由させることです。そこで通信内容が詳細に検査され、SQLインジェクションやXSSなどの攻撃パターン、あるいは不正な挙動が検知された場合は、その通信がブロックまたは無害化されます。安全と判断された通信のみが、本来のWebサーバーへ転送され、ユーザーは通常通りサービスを利用できます。この通信誘導には、主にDNS設定の変更や、WAFが代理サーバーとなるリバースプロキシといった技術が用いられます。
クラウド型WAFは、その提供・運用形態によって、大きく以下の二つに分類できます。
- 1. SaaS型WAF(WAF SaaS): 現在のクラウド型WAFの主流となっている形態です。ベンダーがWAF機能だけでなく、その稼働に必要なインフラ、ソフトウェアの維持管理(アップデート、パッチ適用)、セキュリティルールの更新(シグネチャ更新など)、24時間365日の監視体制までを一つのサービスとして提供します。利用者はWebベースの管理画面から設定変更やレポート確認を行いますが、インフラやソフトウェアの運用管理からは基本的に解放されます。「Software as a Service」の名の通り、ソフトウェアをサービスとして利用するモデルです。
- 2. IaaS連携型 / マーケットプレイス型WAF: AWS、Microsoft Azure、Google Cloudといった主要なIaaS(Infrastructure as a Service)プラットフォーム上で提供されるWAF製品を利用する形態です。各クラウドベンダーが提供するネイティブなWAFサービスや、サードパーティベンダーが仮想アプライアンスやソフトウェアとしてマーケットプレイスで提供するWAF製品を、利用者が自身のクラウド環境内に構築・運用します。SaaS型に比べて構成の自由度やカスタマイズ性は高いですが、その分、インフラ設定やWAF自体の運用管理責任は利用者側にあります。
本稿では、特に明記しない限り、多くの企業にとって導入・運用のメリットが大きいSaaS型WAFを中心に「クラウド型WAF」として解説を進めます。この形態が、クラウドの利便性を最も享受できるモデルと言えるでしょう。
導入すべきか?クラウド型WAFがもたらす経営メリット5選
クラウド型WAF(特にSaaS型)は、技術的な利点だけでなく、経営的な観点からも多くのメリットをもたらします。なぜ多くの企業が従来型からクラウド型へ移行、あるいは新規導入でクラウド型を選択するのか、その主な理由を5つに絞って解説します。
- メリット1:迅速な導入と初期コストの大幅削減
- スピード: 従来のオンプレミス型WAFでは、機器の選定・調達・設置・設定に数週間から数ヶ月かかることも珍しくありませんでした。クラウド型WAFは、物理的な作業がほとんど不要で、多くの場合DNS設定の変更などにより数日で導入が可能です。これにより、セキュリティ対策を迅速に展開でき、ビジネスチャンスを逃しません。
- コスト効率: アプライアンス型のような高額な初期投資(ハードウェア購入費など)が不要です。多くは初期費用が無料または低額で、月額・年額の利用料(サブスクリプション)で利用できるため、導入時の財務的負担を大幅に軽減できます。これは、予算化しやすく、特にスタートアップや中小企業にとっては大きな魅力です。コスト構造が変動費(OPEX)中心になる点も特徴です。
- メリット2:運用管理負荷の劇的な軽減
- アウトソーシング効果: WAFの運用には、ソフトウェアアップデート、脆弱性パッチ適用、シグネチャ(攻撃パターン定義)の更新、インフラ監視など、専門知識と継続的な工数が必要です。クラウド型WAFでは、これらの運用管理の大部分をサービス提供ベンダーに委託できます。
- リソースの最適化: これにより、社内のIT担当者やセキュリティ担当者の負荷が大幅に軽減され、より戦略的な業務に集中できます。専門人材の採用や育成コストを抑制できる効果も期待できます。
- メリット3:ビジネス変化に追随する柔軟な拡張性(スケーラビリティ)
- 容易なスケール調整: Webサイトへのアクセス数は、事業の成長やキャンペーンなどによって大きく変動します。クラウド型WAFは、クラウド基盤の特性を活かし、トラフィックの増減に合わせて処理能力を柔軟かつ迅速に調整できます。
- 過剰投資の回避: オンプレミス型のように将来の最大負荷を見越してサイジング(機器の性能決定)する必要がなく、常に最適なリソース量で運用できるため、無駄なコストが発生しにくくなります。
- メリット4:常に最新のセキュリティレベルを維持
- 自動アップデート: クラウド型WAFのベンダーは、専門チームが最新の脅威情報を収集・分析し、防御ルールやシグネチャを迅速にサービスへ反映します。利用者は、自動的に最新の防御状態を維持できるため、新たな攻撃手法への対応遅れのリスクを低減できます。
- 高度な機能: AIを活用した未知の攻撃検知など、先進的なセキュリティ機能もクラウドを通じて提供されやすい傾向にあります。
- メリット5:DDoS攻撃対策機能の統合
- 付加価値: 多くのクラウド型WAFサービスには、Webアプリケーション攻撃対策に加え、DDoS攻撃(分散型サービス妨害攻撃)の緩和機能が標準またはオプションで搭載されています。ベンダーの大規模インフラにより、大量の攻撃トラフィックを効果的に吸収・分散し、サービス停止リスクを低減できます。
これらのメリットにより、クラウド型WAFは、セキュリティ強化と同時に、コスト効率、運用効率、ビジネスの俊敏性向上に貢献する、経営的に合理的な選択肢となり得るのです。
【徹底比較】クラウド型WAF vs 従来型WAF 何が違うのか?
クラウド型WAFの導入を検討する上で、従来のオンプレミス中心のWAF(アプライアンス型、ソフトウェア型)との違いを明確に理解しておくことは非常に重要です。それぞれの特性を知ることで、自社の状況にどちらがより適しているかを客観的に判断できます。ここでは、主要な比較軸に沿って、両者の違いを解説します。
- 比較軸1:導入コスト
- クラウド型: 初期費用は低い傾向(特にSaaS型は無料や低額が多い)。ハードウェア購入が不要なため、導入時のまとまった投資を抑えられます。ただし、月額/年額のランニングコスト(利用料、従量課金など)が継続的に発生します。
- 従来型: 初期費用は高い傾向(アプライアンス機器購入費、ソフトウェアライセンス費など)。ランニングコストは保守費用や運用人件費が主で、クラウド型のような利用料は発生しないことが多いですが、TCO(総保有コスト)で見ると必ずしも安価とは限りません。
- 比較軸2:導入期間
- クラウド型: 比較的短い(数日~数週間)。物理的な設置作業がなく、主にDNS設定変更などで導入できるため、スピーディな展開が可能です。
- 従来型: 比較的長い(数週間~数ヶ月)。機器の選定・調達から設置、ネットワーク設定、テストまで、多くの工程が必要です。
- 比較軸3:運用管理(負荷・専門知識)
- クラウド型: 運用負荷は低い傾向(特にSaaS型)。インフラ管理、ソフトウェア更新、シグネチャ管理などはベンダーが実施。利用者はポリシー設定やログ監視が中心となり、高度な専門知識がなくても運用しやすい場合があります。
- 従来型: 運用負荷は高い傾向。ハードウェア/ソフトウェアの管理、アップデート、チューニング、障害対応などを自社で行う必要があり、専門知識を持つ人材が不可欠です。
- 比較軸4:カスタマイズ性・柔軟性
- クラウド型: 制限がある場合も(特にSaaS型)。標準化されたサービスであるため、提供される機能範囲内での利用が基本となります。IaaS連携型の場合は比較的高い柔軟性を持ちます。
- 従来型: カスタマイズ性は高い。自社のネットワーク構成や独自のセキュリティポリシーに合わせて、詳細な設定やチューニング、独自ルールの実装が可能です。
- 比較軸5:パフォーマンス・遅延
- クラウド型: ベンダーのインフラ性能やネットワーク経路に依存します。通信が外部を経由するため、遅延(レイテンシ)が発生する可能性があります。ただし、多くのベンダーは低遅延化技術(エッジコンピューティングなど)を採用しています。
- 従来型(特にアプライアンス型): 一般的に高性能で低遅延が期待できます。通信が自社ネットワーク内で完結するためです。
- 比較軸6:拡張性(スケーラビリティ)
- クラウド型: 容易かつ迅速。クラウドの特性を活かし、トラフィックの増減に合わせてリソースを柔軟に調整できます。
- 従来型: 事前のキャパシティプランニングが重要となり、リソース拡張には計画的な機器増設やライセンス追加が必要で、時間とコストがかかります。
まとめ: 「手軽さ」「運用負荷軽減」「拡張性」「コスト平準化」を重視するならクラウド型が、「高度なカスタマイズ性」「完全な自社コントロール」「超低遅延」が必須要件なら従来型が候補となり得ます。ただし、近年はクラウド型の性能・機能向上が著しく、多くの企業にとってクラウド型が現実的かつ有力な選択肢となっています。
クラウド型WAF導入の注意点:事前に把握すべきリスクと対策
クラウド型WAFは多くの利点をもたらしますが、導入を成功させるためには、その特性から生じる可能性のある注意点やリスクを事前に理解し、対策を講じておくことが不可欠です。導入後に「こんなはずではなかった」と後悔しないために、以下の点を考慮しましょう。
- 注意点1:カスタマイズの制約と適合性 SaaS型を中心とするクラウドWAFは、多くのユーザーに共通のサービスを提供するため、独自の要件に合わせた細かいカスタマイズには限界がある場合があります。非常に特殊なアプリケーションや、厳格な社内セキュリティポリシーがある場合、クラウドWAFの標準機能だけでは対応できない可能性があります。
- 対策: 導入前に、自社に必要なカスタマイズ要件(特定のルール設定、外部システム連携など)を明確にし、候補となるクラウドWAFサービスがそれに対応可能か、提供される設定オプションの範囲をベンダーに詳細に確認しましょう。トライアル等で実際に試してみることも有効です。
- 注意点2:パフォーマンス(レイテンシ)への影響評価 通信がベンダーのクラウド基盤を経由するため、ネットワーク経路やWAFの処理によっては遅延が発生し、Webサイトの応答速度に影響を与える可能性があります。
- 対策: ベンダーが公表しているパフォーマンスデータやSLAを確認するだけでなく、トライアル期間などを利用して、実際のトラフィックに近い状況でパフォーマンス測定を行い、遅延がビジネスやユーザーエクスペリエンスに与える影響が許容範囲内であるかを確認しましょう。特にリアルタイム性が重要なサービスでは必須の評価項目です。
- 注意点3:ベンダー依存のリスク管理 サービスの安定性や品質は提供ベンダーに依存します。ベンダーの障害やサービス終了は、自社のビジネスに直接的な影響を及ぼすリスクとなります。
- 対策: ベンダーの信頼性、事業継続性、財務状況、セキュリティ分野での実績などを十分に調査しましょう。SLA(サービス品質保証)の内容、特に障害発生時の対応プロセスや補償内容を契約前にしっかり確認しておくことが重要です。また、特定のベンダーに過度に依存しないよう、将来的な移行の可能性も考慮に入れておくと良いでしょう。
- 注意点4:データ管理とコンプライアンス遵守 通信ログなどのデータがベンダーの管理下に置かれるため、データの取り扱いポリシーや保管場所について確認が必要です。
- 対策: データの保管場所(国内/国外)、保管期間、アクセス制御、暗号化の有無などが、自社のセキュリティポリシーや個人情報保護法、GDPRなどの関連法規に適合するかを確認します。特にデータの国外移転には注意が必要です。監査対応に必要なログが適切に取得・保管・提供されるかも重要な確認ポイントです。契約前にこれらの点についてベンダーに明確な回答を求めましょう。
- 注意点5:想定外のコスト発生リスク クラウドサービスの料金体系、特に従量課金部分は、利用状況によってコストが変動します。
- 対策: 料金体系(何に対して課金されるか、超過料金の単価など)を正確に理解し、将来的なトラフィック増加なども考慮してコストを試算しましょう。DDoS対策や高度なサポートなど、オプション機能の費用も忘れずに確認し、TCO(総保有コスト)ベースで評価することが重要です。
これらの注意点を踏まえ、事前の調査、評価、ベンダーとのコミュニケーションを十分に行うことが、クラウド型WAF導入の成功確率を高めます。
失敗しないクラウドWAF選び:管理部・決裁者が押さえるべき6つの選定基準
数多くのクラウド型WAFサービスの中から、自社のニーズに本当に合致するものを選ぶためには、表面的な魅力だけでなく、本質的な価値を見極めるための客観的な評価基準が必要です。ここでは、管理部・決裁者の皆様が特に重視すべき「6つの選定基準」を解説します。これらを基に、候補サービスを比較検討してください。
- 基準1:防御能力と検知精度 ~本当に守れるか?~ WAFの核心的な価値は、Webアプリケーションを脅威から守る能力です。
- 対応脅威の網羅性: SQLインジェクションやXSSなど基本的な攻撃はもちろん、OWASP Top 10のような主要な脅威リストにどれだけ対応しているか。API保護、悪性Bot対策、ゼロデイ攻撃への対応(AI/機械学習の活用度)など、自社のリスクに応じた機能があるか。
- 検知の正確性: 攻撃を確実に見抜く能力(検知率)と、正常な通信を誤って攻撃と判断しない能力(誤検知率の低さ)のバランスが重要です。第三者機関による評価や、トライアルでの検証結果を参考にします。
- 脅威情報の鮮度: 最新の攻撃手法に対応するため、防御ルール(シグネチャ等)がどれくらいの頻度で、どのように更新されるか。ベンダーの脅威インテリジェンス収集・分析能力も確認します。
- チューニングの柔軟性: 自社のアプリケーションに合わせて、カスタムルールを作成したり、既存ルールを調整したりできるか。
- 基準2:パフォーマンスと可用性(SLA) ~ビジネスを止めないか?~ セキュリティ強化のために、Webサイトの応答速度が低下したり、サービスが停止したりしては本末転倒です。
- 処理能力と遅延: ピーク時の想定トラフィック量を処理できるか、導入による遅延(レイテンシ)は許容範囲か。ベンダーの提示値だけでなく、実測での確認が望ましいです。
- SLA(サービス品質保証): サービスの稼働率保証(例: 99.99%)とその算出基準、未達成時の補償内容が明確に規定されているか。
- 安定稼働のための基盤: サービスのインフラが冗長化されているか、障害発生時の復旧体制(DR)は整備されているか。
- 基準3:コスト体系と投資対効果(ROI) ~費用対効果は明確か?~ セキュリティ投資の妥当性を判断するための重要な基準です。
- 料金の透明性: 初期費用、月額/年額基本料、課金の基準(サイト数、帯域、リクエスト数等)、超過料金、オプション費用などを全て把握し、隠れたコストがないか確認します。
- TCO(総保有コスト): 数年間の利用を想定した総コストを算出し、サービス間で比較します。
- ROI(投資対効果): 導入によって低減が期待できるリスク(インシデント発生時の想定損害額等)とTCOを比較し、投資の妥当性を評価します。経営層への説明責任を果たす上でも重要です。
- 基準4:運用支援とサポート体制 ~安心して任せられるか?~ 導入後の運用フェーズを見据えた評価が必要です。
- 運用負荷の軽減度: 管理画面は直感的で使いやすいか。レポート機能は充実しているか。ポリシー設定やチューニングは容易か。
- サポート品質: 日本語での問い合わせが可能か。サポート窓口の対応時間(24時間365日か)。問い合わせ方法(電話、メール等)と応答速度。導入支援や運用中の技術サポートの内容。
- マネージドサービスの有無: 専門家による監視、チューニング代行、レポート提供、インシデント対応支援などの運用代行サービスが提供されているか、その内容と費用。
- 基準5:セキュリティ・コンプライアンス・データ管理 ~信頼できる基盤か?~ 自社のセキュリティ基準や法規制を満たしているかを確認します。
- 第三者認証: ISO27001, SOC2などの国際的なセキュリティ認証を取得しているか。
- データセンターの安全性: データセンターの物理的・論理的なセキュリティ対策レベル。
- データ管理ポリシー: ログを含むデータの保管場所(国内/国外)、保管期間、暗号化、アクセス制御などが自社の要件や関連法規(個人情報保護法、GDPR等)に適合するか。
- 基準6:ベンダーの信頼性と将来性 ~長期的なパートナーとなりうるか?~ サービスの継続性と将来的な発展性を評価します。
- 企業基盤: ベンダーの経営安定性、事業継続計画(BCP)、セキュリティ分野における実績と専門性。
- 導入実績: 国内外での導入事例、特に同業種や類似規模の企業での採用状況。
- 将来性: 新機能の開発計画(ロードマップ)、技術トレンドへの追随、サポート体制の継続性。
これらの基準に基づき、客観的な情報を収集・比較し、自社の優先順位に従って評価することで、最適なクラウド型WAFサービスを選定することが可能になります。
まとめ:自社のニーズを見極め、最適なWAF形態を選択する重要性
本記事では、クラウド時代におけるWebセキュリティの要請に応える「クラウド型WAF」に焦点を当て、その基本的な概念、導入によって得られる経営メリット、そして従来のオンプレミス型WAFとの違いについて詳しく解説しました。
クラウド型WAF、特に主流のSaaS型が提供する「導入の迅速性」「初期コストの抑制」「運用負荷の軽減」「柔軟な拡張性」「最新セキュリティレベルの維持」といったメリットは、多くの企業にとって魅力的であり、合理的な選択肢となり得ます。これにより、限られたリソースの中でも効果的にWebアプリケーションを保護し、ビジネスリスクを低減することが可能になります。
しかしながら、クラウド型WAFが全ての状況において最適解とは限りません。カスタマイズ性の制約やパフォーマンスへの潜在的影響、ベンダーへの依存性、データ管理に関するコンプライアンスなど、事前に考慮すべき点も存在します。
最も重要なのは、「クラウド型」という言葉のイメージだけで判断するのではなく、自社の具体的な状況、すなわち守るべきWebアプリケーションの特性、許容できるリスクレベル、予算規模、社内の運用体制、将来的な事業計画などを総合的に評価することです。その上で、本記事で解説したクラウド型と従来型の違いや、クラウドWAF選定の6つの基準などを参考に、自社にとって最も費用対効果が高く、持続可能な運用が見込めるWAFの導入形態を選択することが求められます。
適切なWAFを選び、継続的に運用していくことは、サイバー攻撃から企業を守るだけでなく、顧客からの信頼を獲得し、安定した事業運営を通じてビジネスの成長を支えるための重要な戦略的投資です。本ガイドが、皆様の賢明な意思決定プロセスの一助となり、より安全なデジタル環境の実現に貢献できれば幸いです。