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SFA JOURNAL by ネクストSFA

WAF導入完全ガイド:メリット・選び方・注意点を経営視点で解説

小島 伸介

【監修】株式会社ジオコード 管理部長
小島 伸介

株式会社ジオコード入社後、Web広告・制作・SEOなどの事業責任者を歴任。
上場準備から上場まで対応した経験を生かし、サービス品質の改善を統括する品質管理課を立ち上げ。その後、総務人事・経理財務・情報システム部門を管掌する管理部長に就任。

なぜ今WAF導入が必須なのか?増加するWeb脅威とビジネスリスク

現代ビジネスにおいて、WebサイトやWebアプリケーションは顧客接点や事業運営の中心であり、その重要性は増す一方です。しかし、その価値の高まりに比例して、Webアプリケーションの脆弱性を狙ったサイバー攻撃のリスクもかつてないほど深刻化しています。SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティングXSSといった攻撃は、機密情報の漏洩、Webサイト改ざん、サービス停止といった直接的な被害を引き起こし、企業の信用失墜、ブランドイメージの毀損、そして多額の損害賠償責任や事業継続の危機を招く可能性があります。

攻撃手法は日々巧妙化・自動化されており、特定の企業を狙う標的型攻撃だけでなく、脆弱性を持つWebサイトを無差別に探索し攻撃するケースも後を絶ちません。攻撃ツールの進化やクラウド利用の拡大により、攻撃対象となる範囲は広がり続けています。

従来のファイアウォールやIDS/IPS(侵入検知/防御システム)も重要なセキュリティ対策ですが、これらだけではWebアプリケーション固有のロジックや脆弱性を突く攻撃、特に暗号化されたHTTPS通信に隠された攻撃を防ぎきれない場面が増えています。

ひとたびセキュリティインシデントが発生した場合のビジネスインパクトは甚大です。顧客情報の漏洩は法規制(個人情報保護法、GDPR等)による罰則だけでなく、社会的な信用の失墜に繋がり、売上減少や株価下落といった経営ダメージは計り知れません。サービス停止は直接的な機会損失を生みます。

このような背景から、Webアプリケーション層の防御に特化したWAF(Web Application Firewall)の導入は、もはや「推奨」ではなく「必須」の経営課題となっています。管理部や決裁者の皆様には、WAF導入を単なるコストではなく、事業継続と成長のための戦略的投資と捉え、その必要性を正しく認識いただくことが極めて重要です。

おすすめの不正侵入検知サービス一覧

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トレンドマイクロ株式会社 TippingPoint
  • 機械学習による脅威の検知によりネットワーク全体を防御
  • 拡張性の高いシステム構成で大容量のネットワークに対応可能
  • 高性能な検知と対応の優先度を提供
要お問い合わせ 要お問い合わせ
株式会社東計電算 Total Security Function Service
  • 高機能、高セキュリティのマルウェア対策サービスが低コストで利用可能
  • 自社データセンターを活用したSaaS型サービス
  • ヒューリスティック分析の多層防御で未知のマルウェア対策が可能
月額600円~/1台 ウィルス対策機能
マルウェア対策機能
ファイアウォール
ヒューリスティック分析
デバイス制御 など
Broadcom Inc. Symantec Endpoint Security
  • 全体のセキュリティ強化で日々の業務を維持
  • 持続性の高い脅威を検出修復しAD資格情報の窃盗を防ぐ
  • 一元管理により作業負荷を軽減
要お問い合わせ 脆弱性の修復
デバイス制御
マルウェアの防止
ファイアウォール
分析・調査 など
エクスジェン・ネットワークス株式会社 L2Blocker
  • 不正端末を排除し低コストでセキュリティレベルの向上を実現
  • シンプルなアプライアンス構成のため簡単に導入ができる
  • 2005年の販売開始より、10,000センサー以上の出荷実績あり
オンプレミス版:25,000円~
クラウド版:月額3,000円~
社内端末の管理機能
利用状況の可視化
不正に接続した端末への通知
未登録機器の利用申請
レポート分析 など
株式会社セキュアソフト SecureSoft Sniper IPS
  • 高スループット高検知性能で適切なセキュリティ対策を実現
  • 完全日本語化対応かつ直感的に操作ができるように設計
  • バイパス機能を内蔵し障害時も通信の継続が可能
要お問い合わせ リアルタイムモニター
統合報告書
システム監査
環境設定
セキュリティ設定 など
ソフォス株式会社 Sophos Firewall
  • 高度な脅威を分かりやすく表示し、ネットワークを適切に制御
  • 次世代型の強力な保護テクノロジーにより未知の脅威を阻止
  • 脅威の拡散を防ぐため感染したシステムを即座に隔離可能
要お問い合わせ ディープパケットインスペクション
ゼロデイ対策
SD-WAN接続
セグメンテーション機能
レポート機能 など
株式会社IDCフロンティア 不正侵入検知/防御サービス
  • 導入時間の短縮と社内で必要なセキュリティ要員の縮小が可能
  • 増え続けるインターネット上の脅威を迅速に遮断し、不要なダウンタイムを回避
  • セキュリティ専門家による24時間体制でのセキュリティ運用最適化を実現
要お問い合わせ 検知レポート
機器監視
設定管理
故障時機器交換
変更監視 など
ソースネクスト株式会社 ZERO スーパーセキュリティ
  • 期限延長や契約更新が不要で高いコストパフォーマンスを実現
  • 世界的な第三者機関による性能テストで防御力を高評価
  • 充実の機能とサービスで使いやすさに定評あり
4,950円~
マルウェア検出
メール検査
ファイアウォール
迷惑メール対策
詐欺対策 など
フォーティネットジャパン合同会社 FortiGuard IPS
  • 豊富なIPS機能を提供し悪意のあるトラフィックの検知阻止が可能
  • 効率的なアーキテクチャを基盤に、大規模データセンターのパフォーマンスを確実に安定
  • リアルタイムで侵入防御シグネチャを分析展開し、連携したネットワーク対応を実現
要お問い合わせ ネットワーク保護
OT保護
リアルタイム展開
IOT保護
保護ライフサイクル など
NTTスマートコネクト株式会社 クラウド型UTM
  • UTMログ保管インターネット接続高度セキュリティオペレーションをワンストップで提供
  • 安価で簡単なセキュリティ対策が可能
  • オンプレミスの設定をクラウド移行可能
月額38,500円~(税込)
※初期費用110,000円(税込)
ファイアウォール機能
IPS(不正侵入防御)機能
アンチウィルス(アンチマルウェア)機能
アンチスパム機能
Webフィルタリング機能 など
サクサ株式会社 サクサのUTM
  • サイバー攻撃によるデータの破壊や流出から、メール誤送信などのヒューマンエラーまで対策可能
  • セキュリティ状況の見える化で、社内のセキュリティ意識を向上
  • 情報システム担当がいなくても導入運用できる充実したサポート体制
要お問い合わせ Webフィルタリング機能
アンチウイルス機能
迷惑メールブロック機能
侵入検知・防止機能
パロアルトネットワークス株式会社 PA-SERIES
  • 世界中の65,000件以上に信頼できるサービスとして選ばれている実績あり
  • 顧客からのフィードバックのみに基づいて決定されるカスタマーズチョイス賞を受賞
  • 簡単に導入運用が可能でセキュリティの簡素化と強化を実現
要お問い合わせ 脅威防御
SD-WAN
URLフィルタリング
WildFireマルウェア分析
DNSセキュリティ など
Google LLC Google Cloud IDS
  • 組織のニーズに基づいたトラフィックの検査が可能
  • 脅威分析エンジンと調査チームにより新しい脅威や検出メカニズムを特定
  • IDSを活用してコンプライアンス目標の達成をサポート
要お問い合わせ ネットワークベースの脅威検出
トラフィックの公開設定
コンプライアンス目標の支援
脅威警告の優先順位の提供
アプリのマスカレード検出 など

WAFとは?基本的な仕組みとファイアウォール/IPSとの違い

WAF(Web Application Firewall)とは、その名の通りWebアプリケーションを保護することに特化したセキュリティ対策です。一般的なネットワークファイアウォールが主にネットワーク層(OSI参照モデルの第3層/第4層)でIPアドレスやポート番号に基づいて通信を制御するのに対し、WAFはアプリケーション層(第7層)でHTTP/HTTPS通信の内容を詳細に検査します。

具体的には、Webサーバーの前段に設置され、外部からのリクエストとWebサーバーからのレスポンス(応答)の両方を監視・解析します。通信データの中身を精査し、SQLインジェクション、クロスサイトスクリプティング(XSS)、OSコマンドインジェクション、ディレクトリトラバーサルといったWebアプリケーション固有の脆弱性を悪用しようとする攻撃特有のパターン(シグネチャ)や、通常とは異なる怪しい振る舞いを検出します。

WAFの主な検知方式には以下のものがあります。

  • シグネチャ検知: 既知の攻撃パターンを定義したデータベース(シグネチャ)と通信内容を照合し、一致した場合に通信をブロックします。既知の脅威に対して効果的です。
  • 振る舞い検知(ロジックベース/AI活用型): 通信の挙動やパラメータの内容、順序などを学習・分析し、正常なパターンから逸脱した通信を異常と判断します。未知の攻撃や巧妙に偽装された攻撃の検知に有効です。
  • ポジティブセキュリティモデル(ホワイトリスト検知): 許可された通信パターン(URI、メソッド、パラメータ等)を定義し、それ以外をすべて拒否する方式です。非常に強固な防御が可能ですが、設定・管理が複雑になる場合があります。

多くのWAF製品はこれらの検知方式を組み合わせて、防御精度を高めつつ誤検知(正常な通信を誤ってブロックすること)を抑制しています。

ファイアウォールやIPSとの違いを理解することも重要です。ファイアウォールはネットワークの入口で不正な送信元からのアクセスを拒否します。IPSはネットワーク内部への不正侵入や異常なパケットパターンを検知・防御します。これに対し、WAFはWebアプリケーションの「会話の内容」を理解し、その脆弱性を狙う攻撃に特化している点が最大の違いです。これらは競合するものではなく、それぞれ守る層が異なるため、組み合わせて導入することで多層的な防御体制を構築することがセキュリティ強化の鍵となります。

WAF導入で得られる5つの主要メリット

WAF導入は、単にセキュリティインシデントを防ぐだけでなく、企業の経営活動全体に多岐にわたるメリットをもたらします。管理部・決裁者の皆様が導入効果を判断する上で特に重要な5つのメリットを解説します。

  1. メリット1:Webアプリケーション攻撃からの防御強化 これがWAF導入の最も直接的かつ重要なメリットです。SQLインジェクションやXSSなど、従来の対策では防ぐことが難しかったアプリケーション層への攻撃を高精度に検知・防御します。これにより、機密情報漏洩、Webサイト改ざん、不正操作といった深刻なインシデントのリスクを大幅に低減できます。また、新たな脆弱性が発見されてから修正パッチが適用されるまでの「ゼロデイ」期間におけるリスク対策としても極めて有効です。攻撃の検知・阻止状況をレポートで可視化することで、セキュリティ投資の効果測定にも繋がります。
  2. メリット2:ビジネス継続性の確保(DDoS攻撃緩和含む) Webサイトやサービスが停止することは、売上機会の損失、顧客満足度の低下に直結します。WAFは、アプリケーションの脆弱性を突く攻撃だけでなく、サービス停止を狙ったDDoS攻撃(分散型サービス妨害攻撃)の緩和にも貢献します(特にクラウド型WAFの場合、CDN機能との連携で効果を発揮)。これにより、Webサービスの安定稼働を支援し、ビジネス継続性を確保します。これは顧客に対するSLA(サービス品質保証)の遵守にも繋がります。
  3. メリット3:セキュリティリスクの可視化とインシデント対応支援 WAFは通過する通信を監視し、検知した脅威に関する詳細なログを記録します。これにより、どのような攻撃が、どこから、どの程度試みられているのかといったセキュリティリスクをリアルタイムで可視化できます。これらのログ情報は、万が一インシデントが発生した際の原因究明や影響範囲の特定、証跡確保に不可欠です。SIEM(セキュリティ情報イベント管理)等のツールと連携すれば、インシデント対応の迅速化・効率化も期待できます。
  4. メリット4:コンプライアンス遵守とガバナンス強化 個人情報保護法や業界固有のセキュリティ基準(例:クレジットカード業界のPCI DSS)では、Webアプリケーションの脆弱性対策が明確に求められています。WAFの導入と適切な運用は、これらのコンプライアンス要件を満たすための有効な技術的手段となります。監査時には、WAFによる防御実績やログが有力な証跡となり、監査対応の負荷軽減やガバナンス体制の強化に貢献します。
  5. メリット5:運用効率の向上(製品タイプによる) 適切なWAF(特にクラウド型やマネージドサービス)を導入することで、必ずしもセキュリティ専門家が社内に豊富にいなくても高度な防御体制を構築・維持することが可能になります。自動的な脅威情報の更新や防御ルールの適用により、セキュリティ担当者の運用負荷を軽減し、より戦略的な業務にリソースを集中できる可能性があります。複数サイトの一元管理機能なども運用効率化に寄与します。

導入前に把握すべきWAFの検討事項と注意点

WAF導入は多くのメリットをもたらしますが、その効果を最大限に引き出し、導入後のトラブルを避けるためには、事前にいくつかの検討事項や注意点を理解しておくことが不可欠です。

まず、導入・運用コストの発生です。WAF製品には、初期費用(ライセンス料やアプライアンス購入費)とランニングコスト(月額/年額利用料、保守費用、通信量に応じた従量課金など)がかかります。特に高機能な製品や大規模環境向けのものは相応の投資が必要です。予算計画段階で、必要な機能とコストのバランス、総保有コスト(TCO: Total Cost of Ownership)を正確に見積もり、費用対効果を慎重に評価する必要があります。

次に、専門知識の必要性と運用体制の確保です。WAFは導入して終わりではありません。効果的な運用のためには、セキュリティポリシーの継続的なチューニング(設定調整)、シグネチャの更新、ログ監視などが不可欠です。特に、誤検知(False Positive)、つまり正常なアクセスを誤って攻撃と判断し遮断してしまうリスクへの対応は重要です。誤検知を最小限に抑えつつ、新たな脅威に対応できるようポリシーを最適化するには、Webセキュリティやネットワークに関する知識が求められます。自社での運用が難しい場合は、ベンダーが運用を代行するマネージドサービスの利用も有効な選択肢です。

誤検知のリスクとその影響も無視できません。セキュリティレベルを過度に高く設定すると、正規ユーザーのアクセスや業務上必要な通信までブロックしてしまい、ビジネスに支障をきたす可能性があります。導入初期の十分なテスト期間設定と、誤検知発生時の迅速な原因究明・ポリシー修正プロセスの確立が重要です。

また、WAFによる通信検査処理が、Webサイトの応答速度(パフォーマンス)に影響を与える可能性も考慮が必要です。特にアクセス数の多いサイトやリアルタイム性が重視されるサービスでは、性能要件を満たす製品を選定し、導入前後のパフォーマンステストを十分に行うことが推奨されます。

これらの検討事項を事前に把握し、適切な製品選定、運用計画、体制構築を行うことが、WAF導入を成功させるための重要な鍵となります。

WAFの主要タイプ比較:クラウド型・アプライアンス型・ソフトウェア型

WAFには、その提供・導入形態によって大きく分けて「クラウド型」「アプライアンス型」「ソフトウェア型」の3つのタイプがあります。それぞれに特徴、メリット、デメリットがあり、自社のシステム環境、運用体制、予算、セキュリティ要件などを総合的に考慮して最適なタイプを選ぶことが重要です。

  • クラウド型WAF(SaaS型) サービス提供事業者がクラウド上で運用管理するWAFを利用する形態です。
    • メリット: ハードウェア購入や設置が不要なため初期導入コストを抑えやすく、導入までの期間が短いのが特徴です。多くの場合、DNS設定変更などで利用開始できます。運用管理の多くをベンダーに任せられるため、社内の運用負荷を軽減でき、専門人材が不足している企業にも適しています。トラフィック量に応じたスケーラビリティも魅力です。CDN機能と統合されているサービスも多く、DDoS対策にも有効です。
    • デメリット: サービス事業者に依存するため、カスタマイズの自由度が低い場合があります。通信が一度ベンダーの環境を経由するため、レイテンシ(遅延)が発生する可能性や、厳格なデータ保管場所の要件がある場合に制約となる可能性があります。
  • アプライアンス型WAF 専用のハードウェア機器を自社のデータセンターやネットワーク内に設置する形態です。
    • メリット: 自社ネットワーク内で運用するため、高いカスタマイズ性を持ち、既存のネットワーク構成やセキュリティポリシーに合わせた柔軟な設定が可能です。通信が外部を経由しないため、低遅延が期待でき、データガバナンスの観点からも管理しやすい場合があります。大規模システムや高いパフォーマンス要件を持つ環境に適しています。
    • デメリット: 高額な初期費用(ハードウェア購入費)が必要です。機器の設置スペース確保や、導入後の運用管理・保守(ソフトウェア更新、障害対応等)を自社で行う必要があり、専門知識を持つ人材と体制が求められます。
  • ソフトウェア型WAF(ホスト型) 既存のWebサーバー等にWAFソフトウェアをインストールして利用する形態です。
    • メリット: 既存のサーバーリソースを活用できるため、比較的低コストで導入可能です。特定のサーバーのみを保護したい場合などに適しています。
    • デメリット: WAFソフトウェアがサーバーのリソース(CPU、メモリ)を消費するため、サーバーのパフォーマンスに影響を与える可能性があります。OSやWebサーバーソフトウェアとの互換性確認や、サーバーごとのインストール・設定・管理が必要となり、運用負荷が増加する可能性があります。

近年では、これらのメリットを組み合わせたハイブリッド型の構成も選択肢となります。例えば、重要なシステムはアプライアンス型で、その他はクラウド型で、といった使い分けです。自社の状況を多角的に分析し、最適な導入形態を選定しましょう。

失敗しないWAFの選び方:5つの重要チェックポイント

数多くのWAF製品・サービスの中から自社に最適なものを選定するためには、機能や価格だけでなく、多角的な視点での比較検討が必要です。ここでは、管理部・決裁者がWAF選定で失敗しないための重要な5つのチェックポイントを解説します。

  1. ポイント1:導入目的と保護対象の明確化 まず、「なぜWAFを導入するのか」「何を最も重要な脅威と考えているのか」「具体的にどのWebサイト/アプリケーションを守りたいのか」といった導入目的を明確にします。例えば、個人情報漏洩対策が最優先なのか、Webサイト改ざん防止か、サービス継続性確保かによって、重視すべき機能や性能が異なります。保護対象システムの環境(オンプレミス/クラウド、ネットワーク構成)も整理しておく必要があります。目的が明確であればあるほど、製品比較の軸が定まります。
  2. ポイント2:機能・性能要件の定義(対応攻撃、精度、性能) 明確化した目的に基づき、必要な機能・性能要件を定義します。防御したい攻撃タイプ(SQLインジェクション、XSS、DDoSなど)への対応状況は基本です。既知の攻撃だけでなく、未知の脅威(ゼロデイ攻撃)への対応能力(AI/機械学習ベースの検知など)も確認しましょう。検知精度(誤検知の少なさ)処理性能(通信遅延への影響)はトレードオフの関係にある場合もあるため、自社の許容範囲を見極めることが重要です。ログ管理・レポート機能の充実度も確認します。
  3. ポイント3:運用体制とサポートの確認 WAFは導入後の運用が肝心です。セキュリティポリシーの設定・チューニング、シグネチャ更新、インシデント対応などを自社で行うのか、ベンダーのマネージドサービスを利用するのかを決定します。自社運用の場合は必要なスキルセットと工数を、マネージドサービスの場合はサービス範囲、SLA(サービス品質保証)、報告体制を確認します。日本語でのサポート有無、対応時間(24時間365日か)、緊急時の対応プロセスなど、サポート体制の質も重要な選定基準です。
  4. ポイント4:コストと費用対効果(TCO/ROI) 初期費用だけでなく、月額/年額の利用料、保守費用、従量課金、オプション費用などを含めた総保有コスト(TCO)を算出します。単に価格が安いだけでなく、機能、性能、サポートを含めた費用対効果を評価することが重要です。WAF導入によって削減が期待されるリスク(インシデント発生時の想定被害額や復旧コスト)と比較し、投資対効果(ROI)が妥当か、経営的視点で見極める必要があります。
  5. ポイント5:導入形態と既存環境との整合性 先のセクションで解説したクラウド型、アプライアンス型、ソフトウェア型の特徴を踏まえ、自社のシステム環境、運用体制、コスト要件に最も適した導入形態を選びます。また、既存のネットワーク構成、サーバーOS、ミドルウェアなどとの互換性や連携に問題がないか、事前に確認が必要です。可能であれば、PoC(概念実証)やトライアルを実施し、実際の環境での動作や効果を確認することが強く推奨されます。

WAF導入の基本ステップと成功のためのポイント

WAFの導入効果を最大化し、スムーズな運用開始を実現するためには、計画的な導入プロセスを踏むことが重要です。ここでは、WAF導入の基本的なステップと成功のためのポイントを解説します。

  1. ステップ1:要件定義と脅威分析 導入目的、保護対象、予算などを明確にする「要件定義」から始めます。なぜWAFが必要か、守るべきものは何か、どのような脅威を想定するかを具体化します。自社システムの攻撃されうる箇所やビジネス上の影響度を分析する「脅威モデル分析」を行い、WAFで優先的に保護すべき範囲を特定します。関係部署との連携もこの段階で重要になります。
  2. ステップ2:製品選定と比較検討、PoC実施 定義した要件に基づき、市場のWAF製品・サービスを比較検討します。機能、性能、コスト、サポート体制、導入形態などを多角的に評価し、候補を絞り込みます。可能であれば、PoC(概念実証)や無料トライアルを実施し、実際の環境で候補製品の性能(防御効果、誤検知率、パフォーマンス影響など)や運用性を評価することが強く推奨されます。これにより、机上の比較だけでは分からない適合性を確認できます。
  3. ステップ3:導入設計と接続方式の選定 導入する製品が決まったら、具体的な導入設計を行います。ネットワーク構成、サーバー構成、WAFの設置場所などを決定します。クラウド型の場合はDNS切り替え、アプライアンス型やソフトウェア型の場合はリバースプロキシ構成や透過型(ブリッジ)構成など、環境に応じた最適な接続方式を選定します。それぞれの方式にメリット・デメリットがあるため、専門家(ベンダーやSIer)と相談しながら決定します。
  4. ステップ4:WAFの設定とチューニング 導入設計に基づき、WAFの設置・設定作業を行います。初期設定では、まず攻撃を検知してもブロックしない「検知モード(モニタリングモード)」で運用を開始し、ログを分析することが一般的です。これにより、正常な通信を誤って遮断してしまう「誤検知」が発生していないかを確認します。業務に必要な通信が誤検知される場合は、ホワイトリスト登録やポリシー調整(チューニング)を行い、誤検知を最小限に抑えます。
  5. ステップ5:テストと本番移行 チューニングがある程度進んだら、実際に攻撃をブロックする「防御モード(プロテクトモード)」へ段階的に移行します。移行後もWebサイトやアプリケーションの動作に問題がないか、誤検知が頻発しないかを十分にテストします。問題がなければ本番運用を開始します。

成功のポイント:

  • 段階的な導入: 最初から全ての機能を有効にするのではなく、段階的に適用範囲や防御レベルを上げていく。
  • 継続的なチューニング: 導入後もログを監視し、環境の変化や新たな脅威に対応するため、定期的にポリシーを見直し、チューニングを続ける。
  • 関係者との連携: 情報システム部門、開発部門、事業部門など、関係者間で連携し、情報を共有しながら進める。

計画的な導入と継続的な運用改善が、WAF導入を成功に導きます。

まとめ:最適なWAF導入は事業継続のための戦略的投資

本稿では、WAF導入の必要性からメリット、選定ポイント、導入ステップまで、管理部・決裁者の皆様が知っておくべき要点を解説しました。Webアプリケーションを狙う脅威が高度化・常態化する現代において、WAFはWebセキュリティ対策の中核であり、事業継続性を担保するための不可欠な要素です。

WAF導入は、単なる技術的防御策にとどまらず、情報漏洩やサービス停止による経営リスクの低減、コンプライアンス遵守、顧客信用の維持、そしてビジネス機会損失の防止に直結します。その効果を最大化するためには、自社のビジネス目的、リスク許容度、システム環境、運用体制を正しく理解し、クラウド型、アプライアンス型、ソフトウェア型といった最適な導入形態と製品を選定することが極めて重要です。

導入にあたっては、コスト(TCO)、機能、性能、サポート体制、そして費用対効果(ROI)を総合的に評価し、計画的な導入プロセスと導入後の継続的な運用・チューニング体制を確立する必要があります。

最適なWAF導入は、受動的なコストではなく、企業の競争力と持続的成長を支える戦略的投資です。本ガイドが、皆様のWAF導入検討と意思決定の一助となり、安全で信頼性の高いビジネス基盤構築に貢献できれば幸いです。

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