契約書管理の理想と実践 – リスク回避からシステム導入までの法的観点とベストプラクティス

【監修】株式会社ジオコード 管理部長
小島 伸介
株式会社ジオコード入社後、Web広告・制作・SEOなどの事業責任者を歴任。
上場準備から上場まで対応した経験を生かし、サービス品質の改善を統括する品質管理課を立ち上げ。その後、総務人事・経理財務・情報システム部門を管掌する管理部長に就任。
企業活動において契約書は、取引の正当性を示す証拠であり、権利義務関係を明確にする極めて重要な法的文書です。適切な契約書管理は、経営の安定性と効率性に不可欠ですが、紙と電子データが混在し管理が煩雑になるなど、多くの企業で課題を抱えています。
本記事では、契約書管理の理想的な方法について、リスク管理、具体的な業務手順、そして法的観点を踏まえたベストプラクティスを網羅的に解説します。特に、契約書管理システムの導入を検討されている管理部門や決裁者の皆様が、現状の運用を見直し、より安全かつ効率的な管理体制を確立するための判断指針となることを目指します。
この記事を通じて、契約書管理の全体像を把握し、リスクを低減させ、業務効率を向上させるための一助となれば幸いです。
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契約書管理の重要性と潜在リスク – 法的背景と共に理解する
契約書管理は単なる書類整理ではなく、企業の存続と成長に直結する経営戦略上の重要課題です。その重要性は、まず法的証拠としての価値にあります。契約書は取引条件や権利義務を証明する最も強力な証拠であり、紛争発生時には企業の立場を守る上で決定的な役割を果たします。
次に、会社法、法人税法、労働基準法など多くの法律で契約書の一定期間保存が義務付けられており、これを怠ると過料や追徴課税、場合によっては許認可取消といった法的リスクに繋がります。
契約更新や解約期限の管理不備は、不利な条件での自動更新によるコスト増、あるいはビジネスチャンスの喪失といった経済的損失を招きます。
監査や税務調査時に必要な契約書を迅速に提示できなければ、対応の遅延が企業信用の失墜に繋がりかねません。
業務効率の観点からも、過去の契約書を探す作業に膨大な時間が費やされれば、意思決定の遅延や、特定の担当者に業務が集中する属人化を招き、業務停止リスクも生じます。
さらに、機密情報を含む契約書が不正に持ち出されたり、紛失・改ざんされたりすれば、情報漏洩による信用失墜や損害賠償請求といった深刻な事態に至る可能性があります。
これらの多岐にわたるリスクを低減し、迅速かつ円滑な業務遂行を実現するためには、契約書を適切に管理し、必要な権限を持つ担当者が必要な時に即座にアクセスできる体制の構築が不可欠なのです。
契約書管理の主な方法と比較 – 紙・電子・ハイブリッド運用の実態
契約書の管理方法は、大きく「紙管理」「電子管理」、そして両者を組み合わせた「ハイブリッド運用」に分けられます。それぞれの特徴を理解し、自社に最適な方法を選択することが重要です。
紙管理
紙管理は、 ・改ざんリスクが比較的低い ・法的効力が明確である というメリットがあります。また、インターネット環境がなくても目視で確認が可能です。 しかし、 ・大量の保管スペースが必要 ・キャビネット購入費や倉庫賃料といった管理コストが発生 ・紙媒体は経年劣化や、火災・水害・地震といった災害リスクにも脆弱 といったデメリットがあります。運用ポイントとしては、耐火キャビネットや施錠可能な書庫への保管、入退室管理による物理的セキュリティの強化が挙げられます。
電子管理
電子管理は、 ・物理的な保管スペースが不要 ・全文検索や属性検索により必要な契約書を迅速に発見できる という大きなメリットがあります。また、バックアップを多重化することでBCP対策にも有効です。 一方で、 ・電子帳簿保存法などの法的要件への対応 ・サイバー攻撃、システム障害、サービス停止といったリスクへの備え が必須となります。電子管理では、タイムスタンプや改ざん検知機能による真実性の担保、多要素認証や通信の暗号化によるセキュリティ確保が求められます。
ハイブリッド運用
ハイブリッド運用は、紙管理と電子管理のメリットを組み合わせるアプローチです。例えば、 ・紙の契約書をスキャンして電子化しつつ、原本も一定期間は物理的に保管する方法 ・電子帳簿保存法の要件を満たした上で紙の原本を廃棄し、段階的にペーパーレス化を推進する方法 があります。自社の業務量、リスク許容度、利用可能なリソースに応じて、計画的に電子化を進めることで、管理コストとリスクのバランスを最適化できます。
契約書ライフサイクル管理の徹底 – 作成から廃棄までの実践的手順
契約書管理を効果的に行うためには、契約書の作成からレビュー、締結、保管・運用、変更・更新、期限管理、そして最終的な廃棄に至るまでのライフサイクル全体を通じた一貫した管理手順を確立することが不可欠です。
まず作成・レビュー段階では、標準化された契約書テンプレートやひな形を整備し、その利用を推進することで、契約内容の品質を均一化しリスクを低減します。法務部門や関連部門によるレビュープロセスを明確にし、その承認記録を残すことも重要です。
次に締結段階では、契約締結に関する権限規程を整備し、周知徹底を図ります。締結済みの契約書原本、または電子署名が施された電子データは、速やかに回収し、管理部門へ集約するルールを設けます。
保管・運用段階は管理の中核であり、ファイリングルールの設定が鍵となります。 ・分類基準(例:取引先別、契約種類別、締結年月日別、主管部署別など)を明確にする。 ・ファイルボックスやバインダーの背表紙には管理番号、契約書名、締結日などの情報を統一フォーマットで記載する。 ・契約書管理台帳には、これらの基本情報に加え、物理的な保管場所(キャビネット番号、フォルダ階層など)や契約金額、自動更新の有無、関連文書番号などを記録し、現物との突合を容易にする。 Excelなどで台帳を作成する場合は、入力規則を設定して入力ミスを防ぐ工夫も有効です。アクセス権限の設定も忘れずに行いましょう。
変更・更新段階では、変更契約書や覚書を適切に作成し、元の契約書と紐付けて管理します。変更履歴や版管理も正確に行います。
期限管理段階では、契約の有効期間、更新時期、解約通知期限などを管理台帳に正確に記録し、リマインダー設定やアラート通知の仕組みを構築して見落としを防ぎます。
最後に廃棄段階では、会社法や法人税法などの法定保存期間および社内規定に基づき、廃棄の可否を判断します。廃棄承認プロセスを確立し、シュレッダー処理、溶解処理、またはデータの完全消去といった機密保持を徹底した方法で廃棄し、その記録を保管します。
これらの手順を組織的に実践することが、契約書管理の質を向上させます。
【法的観点】契約書の電子化と電子帳簿保存法対応のポイント
契約書の電子化と電子データによる保管は、業務効率化とペーパーレス化を推進する上で非常に有効ですが、電子帳簿保存法をはじめとする法的要件の遵守が不可欠です。
電子帳簿保存法では、国税に関連する帳簿書類の電子データ保存に関するルールが定められており、契約書もその対象となります。特に、電子メールやクラウドサービス、EDI取引などで授受した「電子取引データ」に該当する契約書は、2024年1月より原則として電子データのまま保存することが義務付けられています。また、紙の契約書をスキャンして電子化したデータ(「スキャナ保存」)も、一定の要件下で認められています。
これらの電子データを法的に有効なものとして保存するためには、主に「真実性の確保」と「可視性の確保」という二つの要件を満たす必要があります。 ・真実性の確保とは、保存されたデータが改ざんされていないことを証明するための措置であり、タイムスタンプの付与、訂正・削除の履歴が確認できるシステムまたは訂正・削除ができないシステムの利用、改ざん防止のための事務処理規程の策定と遵守などが求められます。 ・一方、可視性の確保とは、税務調査などの際に必要に応じて速やかにデータを確認・出力できる状態にしておくための要件で、保存場所にPC、ディスプレイ、プリンタ等を備え付け、取引年月日、取引金額、取引先といった主要な項目で検索できる機能を確保することが必要です。
スキャナ保存を行う場合は、解像度200dpi以上、カラー画像での読み取り(一般書類の場合)、タイムスタンプの付与などの要件を満たさなければなりません。
電子契約サービスを利用して締結した契約書データについても、そのサービスがこれらの法的要件に対応しているかを確認することが重要です。
検索・アラート機能の活用も電子管理のメリットを最大限に引き出すために有効です。有効期限や更新期限をシステムで管理し、適切なタイミングで担当者に通知することで、更新漏れや解約漏れを防ぎます。
全社的な契約書管理体制の構築 – ルール策定・運用とシステム導入準備
実効性のある契約書管理を実現するためには、全社統一のルールを定める契約書管理規程の策定と、それを確実に運用するための体制構築、そして必要に応じたシステム導入への準備が不可欠です。
契約書管理規程
まず契約書管理規程には、 ・その目的、適用範囲、管理対象となる契約書の定義を明確にします。 ・契約書管理を主管する部署(例:総務部、法務部)と責任者を定め、各部門の役割と責任範囲を明記します。 ・契約書のライフサイクル(作成、審査、承認、締結、保管、運用、変更、更新、期限管理、廃棄)の各段階における具体的な手順とルール、保管媒体(紙・電子)の指定とそれぞれの管理方法、法定保存期間と社内独自の保管期間、アクセス権限の範囲と申請・承認プロセス、情報セキュリティに関する事項などを具体的に規定します。
運用体制の構築
次に、効果的な運用体制の構築です。 ・経営層のリーダーシップのもと、主管部署が全社的な推進役を担います。 ・各部門に管理担当者を配置して連携を密にします。 ・定期的な従業員研修を通じてルールの理解と遵守を促し、マニュアルや手順書を整備・共有します。 ・内部監査などを通じて運用状況を定期的にチェックし、問題点があれば改善策を講じるPDCAサイクルを確立することも重要です。
現状分析と要件定義
システム導入を視野に入れる場合、まずは現状分析と要件定義を行います。現在管理している契約書の数、種類、保管場所、現在の運用方法とそのコストなどを定量的に把握(ドキュメント棚卸し)します。その上で、あるべき姿と現状とのギャップを分析し、新システムに求める機能要件や解決したい課題を明確にします。
パイロット導入
次に、パイロット導入として、特定の部門や契約書種類に限定して小規模にシステムを導入・試行し、運用フローや効果を検証します。ここで得られた知見や課題を基に、本格導入に向けた計画を修正・最適化します。
最終的に全社展開する際には、従業員への十分な教育とサポート体制の整備が不可欠です。
契約書管理システム導入成功の鍵 – メリット・機能と選定チェックポイント
契約書管理システムは、手作業による管理の限界を克服し、契約書管理業務全体のDXを推進する上で強力なツールとなります。導入により、 ・検索性の飛躍的向上による時間短縮 ・期限管理の自動化による更新・解約漏れの防止 ・厳格なアクセス制御やログ管理によるセキュリティ強化 ・ワークフロー連携による内部統制の向上 ・情報共有の円滑化による属人化の解消 ・そしてペーパーレス化推進とコスト削減 など、多岐にわたるメリットが期待できます。
主要な機能としては、 ・カスタマイズ可能な契約書台帳機能 ・全文検索や属性検索機能 ・版(バージョン)管理機能 ・契約更新・終了アラート機能 ・関連文書紐付け機能 ・契約書の作成・承認プロセスから保管までを連携するワークフロー機能 ・電子契約サービスとの連携機能 ・スキャナ保存対応機能(タイムスタンプ付与等) ・詳細なアクセス権限設定機能 ・操作ログ管理機能 ・各種レポート出力機能 などが挙げられます。
システム選定で失敗しないためには、いくつかの重要なチェックポイントがあります。 第一に「法令対応」です。特に電子帳簿保存法の真実性・可視性の要件を確実に満たしているかは必須です。 第二に「セキュリティ認証」です。ISO27001やSOC2といった第三者認証の取得状況は、システムの信頼性を測る上で重要な指標となります。 第三に「機能の網羅性と拡張性・連携性」です。自社の業務フローや管理項目に必要な機能が備わっているか、将来的な拡張や、会計システム、CRM、人事システムなど既存の基幹システムとのAPI連携が可能かを確認します。 第四に「運用サポート体制」です。導入時の支援、マニュアルの質、ヘルプデスクの対応、定期的なバージョンアップ計画などを評価します。 最後に「コスト対効果(ROI)」です。初期費用、月額・年額利用料、オプション費用などを総合的に比較し、検索工数削減効果やリスク回避効果を定量的に評価して投資効果を試算します。
これらのポイントを踏まえ、自社のニーズに最適なシステムを選定することが成功の鍵となります。
まとめ
本記事では、契約書管理の理想的な方法について、その重要性、具体的な手順、法的観点、そして契約書管理システムの活用に至るまで、多角的に解説しました。
適切な契約書管理体制の確立は、単に書類を整理するという次元を超え、企業のコンプライアンス遵守、リスク低減、業務効率の向上、そして最終的には企業価値そのものの向上に不可欠な経営基盤です。
紙媒体やExcelによる手作業での管理には限界があり、契約件数の増加や管理要件の高度化に伴い、その課題はより顕著になります。契約書管理システムは、これらの課題を解決し、契約情報の一元管理、高度な検索機能、厳格な期限管理、セキュリティの強化、ワークフローとの連携などを実現し、契約書管理業務全体のデジタルトランスフォーメーションを力強く推進する有効な手段です。
自社の状況を正確に把握し、本記事で示した法的観点やベストプラクティスを踏まえ、最適な保管ルールと運用体制を構築し、継続的に見直すことが求められます。そして、契約書管理システムの導入は、守りの業務改善に留まらず、企業の信頼性を高め、迅速な意思決定を支え、従業員がより創造的な業務に集中できる環境を整える「攻め」の経営基盤強化の一環として捉えるべきです。
本記事が、貴社における契約書管理方法の見直しと、より良い管理体制構築への第一歩となれば幸いです。