クラウドメール配信システム導入ガイド:メリット・比較から失敗しない選定ポイントまで

【監修】株式会社ジオコード 管理部長
小島 伸介
株式会社ジオコード入社後、Web広告・制作・SEOなどの事業責任者を歴任。
上場準備から上場まで対応した経験を生かし、サービス品質の改善を統括する品質管理課を立ち上げ。その後、総務人事・経理財務・情報システム部門を管掌する管理部長に就任。
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はじめに:メール配信システム導入における「クラウド」という選択肢
企業のマーケティングや顧客コミュニケーションにおいて、メール配信の重要性は揺るぎなく、その基盤となるシステムの選定は重要な経営判断です。既存システムの老朽化、運用負荷の増大、新規導入の検討の中で、「クラウド型」メール配信システムが有力な選択肢として急速に普及しています。DX推進や働き方の変化も、クラウドサービス利用を後押ししています。
しかし、「クラウド型とは具体的に何か」「オンプレミス型と比べたメリット・デメリットは?」「自社に適したシステムをどう選ぶべきか」などの疑問や不安を抱える管理部や決裁者の方も多いでしょう。導入形態の選択は、コスト、運用体制、セキュリティ、将来の拡張性など、多岐に渡り影響を与えます。誤った選択は、後々の負担増大や機会損失につながりかねません。
本記事では「メール配信 クラウド」に関心を持つBtoB企業の担当者および決裁者の皆様へ、クラウド型メール配信システムの基本解説からメリット・デメリット、オンプレミス型との比較、そして失敗しないための具体的な選定ポイントまでを網羅的に解説します。
クラウドという選択肢を正しく理解し、自社の状況や目的に照らして、最適なシステム導入を判断する一助となることを目指します。この記事を通じて、クラウド型メール配信システム導入に関する意思決定に必要な情報を得ていただければ幸いです。
【比較】おすすめのメール配信ツール一覧
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サービス名 | 特長 | 費用 | 主な機能 | 無料トライアル |
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WEBCAS e-mail |
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ASP型:月額1万円~/初期費用3万円~ SaaS型:月額10万円~/初期費用20万円~ パッケージ導入型:ライセンス費用 240万円~/別途保守費 |
大量メール配信、パーソナライズ配信、A/Bテスト、配信履歴分析、外部システム連携など | 有 |
Sansan |
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要お問い合わせ | 名刺管理、企業情報管理、営業履歴共有、情報共有促進など | 要お問い合わせ |
WiLL Mail |
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シンプルプラン:4,000円〜 プレミアムプラン:10,000円〜 |
HTMLメール作成エディタ、配信結果分析、ヒートマップ機能、スマートフォン対応など | 有 |
オートマーケ |
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ライト:月額8,980円/初期費用33,000円 スタンダード:月額14,980円/初期費用33,000円 プレミアム:月額29,800円/初期費用33,000円 |
一斉メール配信、ステップメール、到達率の高い配信、会員制サイト作成など | 要お問い合わせ |
ORANGE MAIL |
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ビジネス版プラン2000:2,980円 ビジネス版プラン5000:4,980円 ビジネス版プラン10000:9,980円 エンタープライズ版:3万円(初期費用1万2,800円) |
メール一斉配信、ステップメール、フォーム作成、A/Bテスト、開封率・クリック率計測など | 要お問い合わせ |
kMailer |
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スタンダード:1万5,000円 プレミアム:2万4,000円 ※初期費用無料 |
メール作成・送信、自動送信、kintone連携、添付ファイル送信、レポート機能など | 有 |
Mail Publisher |
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要お問い合わせ | メール配信、ファイルベース配信、システム間連携、A/Bテストなど | 要お問い合わせ |
AutoBiz |
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スーパーライト:1,980円 ライト:3,520円 スタンダード:5,990円 プロ:9,900円 ハイエンド:4万9,500円 |
メール配信、LINE連携、自動化、高到達率など | 無 |
blastengine |
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メール10,000通:3,000円 メール30,000通:8,000円 メール50,000通:12,000円 メール100,000通:16,000円 メール200,000通:30,000円 |
SMTPリレー、API連携、一斉配信、トランザクションメール、IPレピュテーション管理、運用・メンテナンスなど | 有 |
Cuenote SR-S |
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ライトプラン:7万5,000円 スタンダードプラン:9万円 ※初期費用:1万50,000円 |
メールリレー、エラー解析、API提供、高セキュリティ、高速配信など | 要お問い合わせ |
acmailer |
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無料 | メール配信、空メール、デコメール、不着メール自動削除、フリーライセンスなど | 要お問い合わせ |
クラウド型メール配信システムとは?基本とオンプレミスとの違い
まず、「クラウド型メール配信システム」とは何か、その基本的な仕組みと、従来の「オンプレミス型」との違いを整理しましょう。
クラウド型メール配信システム(SaaS型)の定義
クラウド型メール配信システムとは、メール配信に必要なサーバーやソフトウェアといったシステム基盤を、サービス提供事業者(ベンダー)が用意し、ユーザーはインターネット経由でその機能を利用する形態のサービスです。
多くの場合、「SaaS(Software as a Service)」と呼ばれるサービスモデルに分類されます。ユーザーは自社でサーバー構築・管理、ソフトウェアインストールを行う必要がなく、Webブラウザ等からサービスにアクセスしてメール配信機能を利用します。利用料金は、月額または年額のサブスクリプション形式が一般的です。つまり、「所有」するのではなく「利用」する形態と言えます。
オンプレミス型との根本的な違い
従来主流だったオンプレミス型と比較すると、以下の点で根本的な違いがあります。
システム基盤の所有者
- オンプレミス型:企業が自社でサーバー等のハードウェアを購入・設置し、システムを構築・運用します。資産として保有します。
- クラウド型:システム基盤はサービス提供ベンダーが所有・管理します。ユーザーはサービスとして利用します。
ソフトウェアの導入形態
- オンプレミス型:メール配信ソフトウェアを自社で購入または開発し、自社サーバーにインストールします。
- クラウド型:ベンダー提供のソフトウェア機能をインターネット経由でサービスとして利用します。インストールは不要です。
運用管理の責任
- オンプレミス型:サーバー維持管理、OSやミドルウェアのアップデート、セキュリティパッチ適用、障害対応など、システム全体の運用管理責任は基本的に自社にあります。専門知識を持つIT担当者が必要です。
- クラウド型:サーバー管理、ソフトウェアアップデート、セキュリティ対策、インフラ障害対応といった基盤部分の運用管理は、基本的にベンダーが行います。ユーザーはサービス利用に集中できます。
クラウド型が主流になった背景
近年、クラウド型が主流となりつつある背景には、以下のようなメリットがあります。
- 初期投資の抑制
- 運用負荷の軽減
- 導入スピードの速さ
- 柔軟な拡張性
これらは、変化の速い現代のビジネス環境に合致しており、多くの企業のニーズに応えるものです。特に、専門のIT担当者の確保が難しい企業や、ビジネス変化に迅速に対応したい企業にとって、クラウド型は非常に魅力的な選択肢となります。
ただし、どちらの形態にも一長一短があり、自社の状況に合わせた選択が重要です。
なぜクラウド型が選ばれるのか?決裁者が知るべき7つのメリット
クラウド型メール配信システムが多くの企業で採用される背景には、特に管理部や決裁者の視点から見て魅力的なメリットが多数存在します。ここでは、システム導入の意思決定において重要となる、7つの主要メリットを具体的に解説します。
- 初期費用(イニシャルコスト)の大幅な抑制
オンプレミス型では、サーバーやネットワーク機器の購入・設置、ソフトウェアライセンスの購入や開発、システム構築などに多額の初期投資が必要です。一方、クラウド型はベンダーが用意するインフラやソフトウェアを利用するため、これらの初期費用が不要または大幅に低減されます。導入ハードルが低く、特に予算制約がある場合や、スモールスタートしたい場合に大きなメリットとなります。 - 迅速な導入と利用開始
オンプレミス型では、ハードウェア調達からシステム構築、テストまでに数ヶ月単位の期間がかかることもあります。クラウド型は、既に稼働しているサービスを利用するため、契約後すぐにアカウントが発行され、短期間で利用開始できるケースがほとんどです。市場変化へのスピーディーな対応や、迅速なメール施策開始ニーズに応えられます。 - 運用・保守管理の負担軽減
オンプレミスシステムは、サーバー監視、OS・ミドルウェアのアップデート、セキュリティパッチ適用、ハードウェア障害対応、バックアップなど、専門知識を要する煩雑な作業が常に発生します。クラウド型では、これらインフラ基盤に関する運用保守作業は、基本的にサービス提供ベンダーが行います。そのため、情報システム部門の担当者は本来業務に集中でき、運用負荷と人件費を大幅に削減できます。属人化リスクも低減します。 - 高いスケーラビリティ(拡張性・縮小性)
ビジネス成長やキャンペーン実施に伴い、メール配信数やリスト数が大きく変動することは珍しくありません。オンプレミス型では、将来の最大負荷を見越したサイジングが必要で、リソース過剰や不足時にはハードウェア増設が求められます。クラウド型は、必要に応じてプラン変更やオプション追加で、配信性能・リスト上限などを柔軟に調整できます。 - 常に最新機能を利用可能
メールマーケティング手法や関連技術は日々進化しています。クラウド型では、ベンダーが継続的に機能改善や新機能追加を行い、それらが自動で反映されるため、常に最新機能を利用できます。オンプレミス型のようなバージョンアップのための追加費用や作業は基本的に不要です。 - 場所を選ばない利便性とアクセス性
インターネット接続環境があれば、オフィスだけでなく、自宅や外出先など、場所を問わずにWebブラウザ等からアクセスし、メール作成・配信・効果測定などが可能です。テレワークや多様な働き方に対応しやすい点も大きなメリットです。 - BCP(事業継続計画)対策としての有効性
クラウド型サービスは、通常、災害対策やセキュリティ対策が施された堅牢なデータセンターで運用されています。サーバー冗長化やバックアップ体制も整っており、自社オンプレミスと比較して、災害時や自社設備障害時でも、サービス停止リスクを抑えることが可能です。
これらのメリットは、企業の生産性向上、コスト最適化、リスク管理強化に直結します。多くの決裁者がクラウド型導入を選ぶのは、こうした理由によるものです。
クラウド型メール配信システムの注意点・デメリット
多くのメリットを持つクラウド型メール配信システムですが、導入検討時には注意すべき点や潜在的デメリットも理解しておく必要があります。メリット・デメリット双方を把握し、自社の状況と照らし合わせて判断することが重要です。
- 継続的なランニングコストの発生
初期費用は抑えられるものの、クラウド型は月額または年額の利用料(サブスクリプション費用)が継続的に発生します。利用プラン、配信数、リスト数によっては、長期的に見るとオンプレミス型より総コストが高くなる可能性もあります。契約前に、自社の利用規模に基づいた料金シミュレーションを行い、将来的なコスト変動も考慮する必要があります。隠れたオプション費用がないかも確認しましょう。 - カスタマイズ性の制限
クラウド型は、多数のユーザーが共通基盤を利用するサービスモデルのため、オンプレミス型ほどの自由なカスタマイズは行えないのが一般的です。自社の特殊な業務フローに合わせた機能追加や、基幹システムとの独自連携開発など、特定要件がある場合は、クラウドサービスで対応可能か、API連携等で代替できるかを事前に確認する必要があります。 - セキュリティへの懸念(ただし対策は可能)
データを自社管理下に置かないクラウドサービスに対して、「外部にデータを預けて大丈夫か」「情報漏洩リスクは?」といった不安を抱く企業もあります。確かに、ベンダー側のセキュリティ対策が不十分であればリスクは存在します。
しかし、信頼できるベンダーであれば、多くの場合、自社オンプレミス運用よりも高度なセキュリティ対策、専門人材、最新設備、第三者認証(ISOなど)を備えています。重要なのは、ベンダーのセキュリティ体制を厳しく評価し、契約内容・データ取り扱いの責任範囲などを明確に確認することです。
- ベンダー依存のリスク
クラウドサービスは、サービス提供ベンダーに依存する側面があることも認識すべきです。
- サービス障害・停止:ベンダーのシステム障害やメンテナンスにより、一時的にサービス利用ができない可能性があります。SLA(サービス品質保証)の内容や、障害時の対応体制の把握が重要です。
- 仕様変更・機能廃止:ベンダー都合で仕様変更や機能廃止が起こる可能性もあります。
- サービス終了:万が一、ベンダーがサービス提供を終了した場合、他のサービスへの移行が必要です。事業継続性や信頼性も評価ポイントとなります。
- インターネット接続の必須性
クラウドサービスはインターネット経由で利用するため、安定したネットワーク環境が不可欠です。社内ネットワークや回線に障害が発生した場合、システム利用自体が不可能になります。オフライン環境では基本的に使用できません。
導入前に整理すべき要件:自社に最適なシステムを見つけるために
クラウド型メール配信システムの導入を成功させるためには、具体的なツール選定に入る前に、「自社がシステムに何を求め、どのような目的で利用するのか」という要件を明確化しておくことが非常に重要です。要件が曖昧なままでは、適切なツールを選べず、導入後のミスマッチや形骸化を招きかねません。以下の4つの視点で、自社の要件を整理しましょう。
1. 配信規模とトラフィック予測
- 月間または年間の平均的な配信通数
- キャンペーン時などのピーク配信数
- 管理するアドレス数(リストサイズ)
- 配信頻度(定期メルマガ or トランザクションメール)
- 将来のスケール拡張の必要性(自動リソース拡張の有無)
2. 運用体制と権限設計
- 担当者と役割(作成、承認、配信、分析)
- 権限設定の必要性(閲覧・作成・配信・管理など)
- 承認フローの有無と必要な機能
3. KPIと効果測定指標
- 到達率、開封率、クリック率、コンバージョン率、配信停止率など
- レポート要件(セグメント別、ABテストなど)
- アラート通知(異常値の自動検知)機能の有無
4. システム連携要件
- CRM、SFA、MA、ECなど他システムとの連携ニーズ
- 連携方法(手動 or API/Webhook等)
- APIの有無と開発のしやすさ
これらの要件を事前に整理し、可能であればドキュメント化しておくことで、ベンダーとのやり取りもスムーズになり、比較検討もしやすくなります。
クラウド型 vs オンプレミス型 比較:自社に合うのはどちらか?
導入形態として「クラウド型」か「オンプレミス型」か、どちらを選ぶべきかは企業ごとに異なります。以下に、主要な7つの観点で両者を比較します。
比較軸 | クラウド型 | オンプレミス型 |
---|---|---|
初期費用 | 低い(月額・年額制) | 高い(サーバー等の購入) |
運用費用 | 継続的に発生 | 保守人件費など別途発生 |
導入スピード | 数日〜数週間で可能 | 数ヶ月単位の導入期間 |
運用管理 | ベンダー管理で負担軽 | 自社管理、要専門知識 |
カスタマイズ性 | 低め(API拡張で対応) | 高い(自由に改修可能) |
セキュリティ管理 | 一部はベンダー依存 | 全て自社で管理 |
拡張性・柔軟性 | 高い(簡単にスケール可) | 低め(ハードの追加必要) |
機能更新 | 自動・定期的アップデート | 自社で実施、作業負荷あり |
判断指針
- クラウド型が向いている企業:初期費用を抑えたい、早期導入したい、専門人材が少ない、スケーラビリティ重視
- オンプレミス型が向いている企業:自社での高度なカスタマイズが必要、セキュリティ要件が厳しい、他システムとの密な連携が求められる
クラウド型メール配信システム選定で失敗しないための重要ポイント
数多くのクラウドサービスから自社に合うものを選ぶためには、以下6つの観点での比較・確認が不可欠です。
- 機能の適合性
目的達成に必要な機能(セグメント配信、ABテスト、効果測定、自動配信など)があるか。 - セキュリティと信頼性
データ暗号化、WAF、MFA、認証取得(ISO、SOC2など)を含むセキュリティ体制。 - サポートとSLA
日本語対応、導入支援、ナレッジベース、稼働率保証(99.9%など)の有無。 - 料金体系とコストパフォーマンス
料金プランが分かりやすく、自社の規模や成長に合ったプランがあるか。 - 操作性とUI/UX
画面設計が直感的で操作しやすいか。無料トライアルで現場担当者が使いやすいと感じるか。 - システム連携・拡張性
APIの有無や連携先の実績、将来的なスケールアップのしやすさ。
まとめ:自社に最適なクラウド型メール配信システムで成果を最大化
本記事では、BtoB企業の管理部や決裁者に向けて、クラウド型メール配信システムの基礎から、メリット・デメリット、オンプレミス型との違い、選定ポイントまでを網羅的に解説しました。
クラウド型は、初期費用の抑制、運用負荷の軽減、迅速導入、高い拡張性、常に最新機能を利用できる点などが大きな魅力です。一方で、継続的なランニングコスト、カスタマイズの制限、ベンダー依存などの課題も存在します。
重要なのは、「クラウド型 or オンプレミス型」という二元論ではなく、自社のビジネス目標、ITリソース、セキュリティポリシー、今後の成長計画などを総合的に考慮した上で、最適な導入形態とサービスを選定することです。
特に、セキュリティと信頼性に関しては妥協せず、ベンダーの体制や第三者認証などを丁寧にチェックしましょう。
最適なクラウド型メール配信システムを導入し、定期的な効果測定と改善を行うことで、マーケティング効果の最大化、業務効率化、コスト削減、そしてビジネスの成長につながるはずです。