労務管理システムの選定ポイント|買い切り型を選ぶメリット・デメリットと注意点を徹底解説

【監修】株式会社ジオコード 管理部長
小島 伸介
株式会社ジオコード入社後、Web広告・制作・SEOなどの事業責任者を歴任。
上場準備から上場まで対応した経験を生かし、サービス品質の改善を統括する品質管理課を立ち上げ。その後、総務人事・経理財務・情報システム部門を管掌する管理部長に就任。
現代企業において労務管理の重要性は増しています。頻繁な法改正、多様化する働き方、高まるコンプライアンス要求への対応は、経営の根幹に関わる課題です。これらに的確に対応するには、正確かつ効率的な労務管理体制が不可欠と言えます。
しかし、紙やExcelによる手作業管理には限界があり、ヒューマンエラーや業務非効率を招きがちです。入力ミス、計算間違い、書類の紛失、法改正への対応遅延などは、労務トラブルや行政指導のリスクを高めます。
この解決策として労務管理システムの導入が有効です。システムは、入退社手続き、従業員情報管理、社会保険手続き、勤怠連携、給与計算連携、年末調整といった業務を自動化・効率化し、ペーパーレス化を促進します。これにより、管理部門は付加価値の高い業務に注力でき、コンプライアンス強化にも繋がります。
システム選定時には提供形態が重要で、主に「買い切り型(オンプレミス/パッケージ)」と「クラウド型(SaaS)」があります。「買い切り型」は自社サーバー等に導入、「クラウド型」はインターネット経由で利用する形態です。それぞれにメリット・デメリットがあるため、自社の状況に合わせた選択が求められます。
本記事では、特に「買い切り型」に焦点を当て、その特徴、メリット・デメリット、クラウド型との比較、そして失敗しないための選定ポイントや導入プロセスを、管理部門や決裁者向けに解説します。最適なシステム選びの一助となれば幸いです。
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労務管理システムとは?主な機能と役割
労務管理システムは、従業員の入社から退職までに関わる人事労務業務を電子化し、一元管理するツールです。多岐にわたる機能を持ち、業務効率化とリスク低減を実現します。
主な機能
- 従業員情報管理: 氏名・住所等の基本情報から、雇用情報、社会保険情報、扶養家族、給与情報、スキル、評価情報まで、従業員データをデータベースで一元管理します。必要な情報を迅速・正確に検索・参照でき、情報管理の手間を削減します。
- 入社・退社手続きサポート: 雇用契約書、社会保険資格取得届、離職票、源泉徴収票などの定型書類作成を支援、またはシステム上で手続きを完結させます。手続きの迅速化とミス削減に貢献します。
- 社会保険・労働保険関連手続き: 算定基礎届、月額変更届、年度更新などの複雑な手続きをシステムがサポートします。電子申請(e-Gov連携等)にも対応し、行政手続きを効率化。法改正にも追随し、正確な処理を担保します。
- 勤怠管理・給与計算システム連携: 勤怠データを自動で取り込み、残業時間等を把握。その情報を給与計算システムへスムーズに連携します。手入力によるミスを防ぎ、給与計算の正確性とスピードを向上させます。
- 年末調整業務の効率化: 従業員からの申告情報(Web入力等)を基に、年税額の自動計算、還付・徴収額算出、源泉徴収票作成・電子交付などをシステム化。煩雑な年末調整業務の負担を大幅に軽減します。
- 申請・承認ワークフロー: 住所変更、休暇申請などを従業員がシステムから申請し、上長等がシステム上で承認。ペーパーレス化を促進し、申請・承認プロセスを迅速化・可視化します。
労務管理システムの役割 これらの機能を通じて、システムは以下の重要な役割を果たします。
- 生産性向上: 定型業務自動化で高付加価値業務へシフト
- コンプライアンス強化: 法令準拠を支援し労務リスク低減
- ヒューマンエラー削減: 自動化でミスのない正確な処理を実現
- ペーパーレス化: コスト削減と情報検索性向上
- データ活用: 戦略的な人事施策立案を支援
適切な労務管理システムの導入は、企業の健全な発展に不可欠な投資です。
買い切り型の労務管理システムとは?
労務管理システムの提供形態の一つ、「買い切り型」とは、ソフトウェアの利用ライセンスを初期に購入し、自社管理下のITインフラ(サーバーやPC)にインストールして利用する方式です。「オンプレミス型」や「パッケージ型」とも呼ばれます。利用料を払い続けるクラウド型とは異なり、ソフトウェア自体を資産として保有する点が特徴です。
買い切り型の主な特徴
- 費用構造:
- 初期費用が高額になる傾向があります(ライセンス費、サーバー費、構築費等)。
- 導入後の月額・年額利用料は基本的に発生しません(※保守・運用コストは別途発生)。
- システム環境:
- 自社内のサーバー等にシステムを構築・設置します。
- カスタマイズ性:
- クラウド型に比べ、自社の独自業務に合わせてシステムを改修・機能追加する自由度が高い傾向にあります。ただし、追加の開発費用・期間が必要です。
- セキュリティ:
- 自社のネットワーク内で運用できるため、自社のセキュリティポリシーを厳格に適用・管理しやすいメリットがあります。
- 導入形態:
- パッケージ型: 既製ソフトを購入し、比較的容易に導入可能。
- オンプレミス型: 自社要件に合わせて個別に設計・構築する、オーダーメイドに近い形式。
- 運用体制:
- サーバー管理、OSアップデート、バックアップ、障害対応などの保守・運用業務が発生します。これに対応する社内のITスキル・人員、または外部委託予算が必要です。
買い切り型は、初期投資は大きいものの、長期的なコスト管理、業務への高い適合性(カスタマイズ)、セキュリティ管理の自由度を重視する場合に適した選択肢です。ただし、導入・運用には相応のITリソースと計画性が求められます。
買い切り型労務管理システムのメリット
買い切り型(オンプレミス型/パッケージ型)労務管理システムには、クラウド型とは異なる独自のメリットがあります。導入検討時にはこれらの利点をしっかり把握しましょう。
1. 長期的なコスト削減と予算の安定化
- ランニングコスト不要: 最大のメリットは、導入後に月額・年額のシステム利用料が基本的にかからない点です。
- トータルコスト低減の可能性: 初期費用は高額ですが、長期間(5年以上など)利用する場合、クラウド型の利用料総額よりも総所有コスト(TCO)を低く抑えられる可能性があります。
- 予算管理の容易さ: 毎月の変動費用が少ないため、将来コストの見通しが立てやすく、予算計画が安定します。(※サーバー維持費、保守費は別途考慮)
2. 高いカスタマイズ性と業務への適合力
- 柔軟なシステム改修: 独自の業務フローや特殊な就業規則など、自社の事情に合わせてシステムを柔軟にカスタマイズしやすいのが特徴です。標準機能では対応できない要件に応えられます。
- 既存システムとの連携自由度: 会計システムなど、社内の他の基幹システムとの連携を、より詳細かつ自社の仕様に合わせて構築しやすい場合があります。
3. 厳格なセキュリティ管理の実現
- 自社ポリシーの徹底: システムとデータが完全に自社の管理下にあるため、自社の厳格なセキュリティポリシーを直接適用・管理できます。
- 情報管理のコントロール: 機密情報を社外サーバーに置かずに済むため、情報管理に高いレベルを求める企業にとっては安心材料となります。
4. ネットワーク環境への依存度の低減(製品による)
- 安定稼働の可能性: 主要機能が社内ネットワークで完結する場合、インターネット回線障害時でも業務停止リスクを低減できる可能性があります。(※外部連携機能利用時は接続が必要)
これらのメリットから、買い切り型は、長期的なコスト効率、業務への高い適合性、厳格なセキュリティ管理を重視し、かつITインフラの管理・運用体制が整っている(または整備可能な)企業にとって、有力な選択肢となります。
買い切り型労務管理システムのデメリット・注意点
買い切り型(オンプレミス型/パッケージ型)労務管理システムにはメリットがある一方で、導入・運用にあたっては注意すべきデメリットも存在します。これらを理解せずに導入すると、後々大きな負担となる可能性があります。
1. 高額な初期費用
- 多額の導入コスト: ソフトウェアライセンス費用に加え、サーバー機器購入費、ネットワーク構築費、インストール・設定費、カスタマイズ開発費など、導入時にまとまった初期投資が必要です。多くの場合、クラウド型の初期費用より大幅に高額です。
2. 導入期間の長期化と手間
- 利用開始までの時間: 要件定義、インフラ準備、設計・構築、テスト、データ移行といった工程が必要なため、利用開始までに数ヶ月以上かかることが一般的です。
- 社内工数の発生: 導入プロジェクト推進のための担当者のアサインや関係部署との調整、ベンダー連携に相応の時間と労力がかかります。
3. 保守・運用の負担と継続コスト
- 専門知識・体制が必須: サーバー監視、OSアップデート、セキュリティ対策、バックアップ、障害対応など、継続的な保守・運用業務が自社に発生し、専門知識を持つIT担当者や体制が不可欠です。
- 見えにくい継続コスト: 担当者の人件費に加え、サーバー維持費、ライセンス更新費(OS等)、保守委託費用、数年ごとのサーバーリプレイス費用など、継続的なコストが発生します。
4. 法改正への対応リスク
- 自社での対応責任: 頻繁な法改正にシステムを対応させる責任は基本的に自社にあります。自社で情報収集・改修するか、ベンダーに対応を依頼する必要があります。
- 保守契約の確認が重要: 保守契約に法改正対応が含まれるか、その範囲、費用、スピードは契約前に必ず確認が必要です。対応遅延や追加費用のリスクがあります。
5. 機能の陳腐化リスク
- アップデートが限定的: クラウド型のように新機能が自動追加されることは少なく、導入時の機能が基本となるため、数年でシステムが時代遅れになる可能性があります。
- バージョンアップ費用: 最新機能を利用するためのメジャーバージョンアップには別途費用がかかることが一般的です。
6. 外部からのアクセス制限
- リモートワークへの課題: 社内利用が基本のため、社外からのアクセスにはVPN環境構築など追加対応が必要になる場合があります。
これらのデメリットを理解し、自社の予算、ITリソース、運用体制などを考慮した上で、買い切り型のリスクを管理できるか慎重に判断することが重要です。
【徹底比較】買い切り型 vs クラウド型 労務管理システム
労務管理システムを選ぶ上で、買い切り型(オンプレミス/パッケージ)とクラウド型(SaaS)のどちらが自社に適しているか、主要な項目で比較してみましょう。
1. 費用(コスト構造)
- 買い切り型: 初期費用は高額ですが、月額・年額費用は基本的に発生しません(保守費等除く)。長期利用でトータルコストが有利になる可能性があります。予算計画は立てやすい傾向にあります。
- クラウド型: 初期費用は低額または無料が多く、導入しやすい反面、月額・年額費用が継続的に発生します。利用者数等で変動するため、コスト予測がやや複雑になる場合があります。
2. 導入スピードと手軽さ
- 買い切り型: サーバー準備や設定、カスタマイズが必要なため、導入には数ヶ月以上かかることが一般的です。計画性と専門知識が求められます。
- クラウド型: インターネット環境があれば比較的短期間で利用開始でき、導入の手間は少ない傾向にあります。
3. カスタマイズ性と柔軟性
- 買い切り型: カスタマイズの自由度が高いのが特徴で、自社の独自要件に柔軟に対応できます。
- クラウド型: 標準機能の範囲での利用が基本となり、カスタマイズは限定的です。ただし汎用的な機能は豊富です。
4. 機能アップデートと法改正対応
- 買い切り型: 機能追加や法改正対応は、自社または保守契約に基づき実施する必要があり、手間やコスト、時間がかかる可能性があります。
- クラウド型: サービス提供事業者が継続的にアップデートや法改正対応を行うことが一般的で、ユーザーは常に最新状態で利用できます。
5. セキュリティ管理
- 買い切り型: 自社管理下で運用するため、自社のセキュリティポリシーを厳格に適用できます。
- クラウド型: セキュリティはサービス提供事業者に依存します。信頼できる事業者を選べば高レベルな対策が期待できます。
6. サーバー管理と保守・運用の手間
- 買い切り型: サーバー管理や保守・運用は自社で行う必要があり、専門知識・体制または外部委託が必要です。
- クラウド型: サーバー管理等は基本的に事業者が行うため、ユーザー側の運用負荷は大幅に軽減されます。
7. 外部アクセスと利用場所
- 買い切り型: 社外からのアクセスには別途VPN等の設定が必要になる場合が多いです。
- クラウド型: インターネット経由で場所を選ばず利用可能なものが多く、テレワークに適しています。
8. 資産計上
- 買い切り型: ソフトウェアやサーバーを資産として計上できます。
- クラウド型: 利用料は基本的に経費処理となります。
9. 契約とベンダー依存度
- 買い切り型: 長期利用前提で、ベンダーへの依存度は導入後比較的低くなります(保守除く)。
- クラウド型: 月/年単位契約で柔軟性がありますが、サービス継続等でベンダーへの依存度は高くなります。
どちらを選ぶべきか? これらの違いを理解し、自社の優先順位(コスト、スピード、機能、運用負荷、セキュリティ等)と現状(企業規模、ITリソース、業務要件等)を照らし合わせて、総合的に判断することが最も重要です。
買い切り型 失敗しないための【重要選定ポイント】
買い切り型(オンプレミス型/パッケージ型)労務管理システムの導入は大きな投資です。後悔しないために、以下の8つの重要ポイントを選定時に必ず確認・評価してください。
Point 1:導入目的とゴール(KPI)の明確化
- 「なぜ導入するのか」、「何を解決したいのか」、そして「具体的な達成目標(KPI)」を明確にし、関係者間で共有します。これがシステム選びの全ての基礎となります。
Point 2:必須機能の特定と優先順位付け
- 現状業務を整理し、システムに必要な機能(Must)とあると望ましい機能(Want)をリストアップし、優先順位をつけます。将来性も考慮しましょう。
Point 3:カスタマイズ要件の具体化と妥当性
- どの程度のカスタマイズが必要か具体的に定義し、その費用・期間、そして本当に必要か(費用対効果)を慎重に評価します。過度なカスタマイズはリスクも伴います。
Point 4:セキュリティ要件の適合性確認
- 自社のセキュリティポリシーをシステムが満たせるか、ベンダーの対策は十分か、詳細な要件をリストアップして確認します。自社サーバー運用の場合、物理セキュリティも重要です。
Point 5:ベンダーのサポート体制(導入・保守)
- 導入支援の内容と、導入後の保守サポート範囲(障害対応、法改正対応等)、対応時間、費用などを詳細に確認します。ベンダーの信頼性と実績は極めて重要です。
Point 6:法改正への対応方針と費用負担
- ベンダーが法改正にどのように対応するか、そのスピード、費用負担(保守内か別途か)を契約前に必ず明確に確認します。
Point 7:既存システムとの連携
- 給与計算、勤怠等、連携が必要なシステムとの連携実績や方法(API, CSV等)を確認し、スムーズな連携が可能か見極めます。
Point 8:トータルコスト(TCO)の把握
- 初期費用だけでなく、サーバー維持費、保守費、リプレイス費、バージョンアップ費、運用人件費などを含めた長期的な総所有コスト(TCO)を試算し、比較検討します。
これらのポイントを客観的な評価基準に基づきチェックすることで、自社に最適な買い切り型システムを選定できる可能性が高まります。デモやトライアルの活用も有効です。
買い切り型労務管理システムの導入プロセスと成功の秘訣
買い切り型(オンプレミス型/パッケージ型)労務管理システムの導入は、計画性と段階的な進行が不可欠なプロジェクトです。一般的なプロセスと成功の秘訣を解説します。
一般的な導入プロセス
- 企画・計画: 目的設定、体制構築、予算確保、情報収集
- 要件定義・ベンダー選定: 機能・非機能要件定義、RFP作成、ベンダー評価・選定、契約
- 設計・構築: 詳細設計、カスタマイズ開発、インフラ構築、システム構築・インストール
- テスト・データ移行: 各種テスト実施・修正、データ移行計画・実施・検証
- 導入準備・本稼働: 利用者研修、マニュアル整備、運用体制準備、最終確認、本稼働開始
- 運用・保守・評価: 安定稼働監視、定常運用・保守、効果測定・改善活動
導入成功の秘訣
- 経営層のコミットメント: 経営層の理解と強力な支援がプロジェクトを推進します。
- 明確な目的共有: 関係者全員が導入目的とゴールを理解し、協力することが重要です。
- 現場部門の巻き込み: 実際にシステムを使う現場の意見を反映させることが、スムーズな導入と定着の鍵です。
- 現実的な計画とリソース: 無理のないスケジュールと十分な予算・人員・時間を確保しましょう。テストや研修は特に重要です。
- ベンダーとの良好な関係: ベンダーをパートナーとして捉え、密なコミュニケーションと協力体制を築きましょう。
- 変化への丁寧な対応: 新システム導入に伴う業務変化に対し、従業員の不安を取り除き、前向きな移行を支援する取り組み(説明、研修、フォローアップ)が大切です。
買い切り型システムの導入は時間とコストがかかりますが、計画的に進め、関係者間の連携を密にすることで、その効果を最大限に引き出すことが可能です。
まとめ:自社の状況に最適な労務管理システム選択のために
労務管理システムの「買い切り型」は、長期的なコストメリット、高いカスタマイズ性、厳格なセキュリティ管理を重視する場合に有力な選択肢となります。特に、従業員規模が大きく独自の業務要件を持ち、IT運用体制が整っている企業に適しています。
しかし、高額な初期投資や導入期間、継続的な保守・運用の負担といった側面も理解しておく必要があります。
一方、「クラウド型」は導入の手軽さや運用負荷の低さ、自動アップデートが魅力で、初期費用を抑えたい、ITリソースが限られる、あるいは迅速な導入やテレワーク対応を重視する企業に向いています。
どちらが良いかは一概には言えず、自社の事業規模、予算、業務特性、IT環境、セキュリティ方針、将来計画などを総合的に評価し、メリット・デメリットを比較した上で、最も合理的な選択をすることが重要です。
本記事で解説した選定ポイントを参考に、複数のシステムを比較検討し、デモや試用を通じて機能や操作性を吟味してください。最適な労務管理システムの導入は、業務効率化、コンプライアンス強化、そして従業員の働きがい向上に繋がるはずです。