更新日:2024/10/02
売掛債権とは? メリットやデメリット、未回収を防ぐ方法まで解説
【監修】株式会社ジオコード マーケティング責任者
渡辺 友馬
「売掛債権とは何なのか」「売掛債権の具体的な種類やリスクが分からない」とお悩みの方もいるのではないでしょうか。売掛債権とは、ある期間内の取引代金を後日まとめて請求できる権利のことです。
業務効率化が図れたり、新規取引の拡大が期待できたりと多くのメリットがある売掛債権ですが、代金を回収できなくなるリスクも伴います。そのため、活用するべきか判断する前に、まずは売掛債権の理解を深めることが大切です。
本記事では、売掛債権がどのようなものなのか、種類、活用するメリットやデメリット、未回収リスクを回避する方法を解説します。
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売掛債権とは?
売掛債権とは、商品やサービスを取引先に引き渡した後に代金を一括で請求する権利です。一定期間における取引代金を期日を決めて後払いする「掛取引」の際に商品・サービスの売り手側に生じます。
取引先が複数ある場合、取引ごとに請求業務を行うのは手間が掛かりますし、コストも増える可能性があります。しかし、掛取引を行えば売掛債権で一定期間の取引代金を一括請求できるので、効率的な回収が可能です。
なお、商品やサービスの提供後すぐに入金されなくても、後からまとめて入金されることから、売掛債権の帳簿上の勘定科目は「流動資産」となります。
売掛債権の3つの形態
売掛債権といっても、実際にはいくつかの形態に分類されます。主なものは以下の3つです。
- 売掛金
- 受取手形
- 電子記録債権
売掛金
売掛金とは、商品・サービス提供の対価として将来的に受け取れる売上金のことです。売掛金の回収期限は、取引契約に基づく条件に従います。
公的な証明書は発行されず、商品やサービスを提供した企業が発行した請求書のみで取引が行われます。そのため、企業同士の信頼関係が必要となる売掛債権です。
売掛金の回収期間は「月末締め・翌月払い」「20日締め・月末払い」と請求書上で定められており、通常は売り手側(商品やサービスを提供した側)から提示されます。
製造業や卸売業、サービス業など幅広い業界での取引で適応されている売掛債権です。
受取手形
受取手形とは、商品やサービスを提供した後に取引先から受け取る支払いの証として発行される金融証書です。代金を将来的に受け取ることを意味する売掛金と共通する部分はありますが、受取手形はそこに「支払いを約束する証」が加わった売掛債権となります。
受取手形には支払日が設定されており、当日に金融機関で金銭を受け取るのが一般的です。取引先から直接振り込まれるのではなく、手形を受け取った側(取引先)が現金化する必要があります。
また、売掛金での金銭受け取りは取引先の都合に左右されますが、受取手形は手数料を支払えば支払日より前の現金化が可能です。そのため、資金繰りの面で柔軟性があります。
電子記録債権
電子記録債権とは、電子的な記録によって管理される債権のことです。請求書や手形などの従来の書面でのやり取りとは異なり、金融機関がデータ上で書面発行から決済まで行ってくれます。紙の請求書や手形を用意する必要がないため、業務効率化が図れたり、書類の紛失や破損、盗難などが軽減できたりする点がメリットです。
受取手形は、支払日に手形を受け取った側が金融機関で現金化する義務がありますが、電子記録債権では期日になると自動的に現金化されます。そのため、期日を気にせず代金の受け取りができ、迅速な資金の確保が可能です。
売掛債権で自社の経営状況を判断する基準
売掛債権は、企業の経営状況を判断する重要な指標の一つです。それでは詳しく見ていきましょう。
売上債権回転率
売上債権回転率とは、売掛債権がどれだけ効率良く回収されているかを示す数値です。売上債権が大きくなるほど売上債権回転率は低下し、逆に売上債権が小さくなると回転率は上がります。つまり、回転率が高いほど売上債権が確実に回収されていることになります。
売掛債権回転率を求める計算式は、以下の通りです。
- 売上高 ÷ 売上債権 = 売上債権回転率
経営状況が良好だと判断できる回転率は、一般的には6以上です。6以上だと、2カ月に1回以上の回収が行われていることになります。
ただし、資金の流れが不規則かつ取引金額が高い業界では、必ずしも6以上が良いとは限りません。特に小売業は在庫を多く抱えがちな業界のため、回転率が3や1.5と低くなる場合があります。このような業界では、回転率が低い時期に備えて十分な資金を確保しておき、資金繰りに支障が出ないようにすることが重要です。
売掛債権回転期間
売掛債権回転期間とは、商品やサービスの代金が回収されるまでに要する期間のことです。期間が短いほど、売掛金を回収できていると判断されます。
売掛債権回転期間を求める計算式は、以下のように日数と月数で異なります。
- 日数:売上債権(売掛金+受取手形) ÷ (売上÷365日)
- 月数:売上債権(売掛金+受取手形) ÷ (売上÷12カ月)
一般的な売掛債権回転期間は30日とされていますが、顧客が法人か個人かによって異なり、法人取引の場合は期間が長めになる可能性があります。
期間が長いと自社の経営に悪影響を及ぼす場合があるため、代金の管理方法を見直す必要があります。必要に応じて、売掛保証や請求代行サービスの活用も検討しましょう。
未回収の売掛債権を回収しないとどうなる? 原因は?
売掛債権の未回収は、企業経営に大きな影響を与える問題です。特に取引先が少ない場合、どれか一つの企業から代金が支払われないと資金操りが難しくなります。財務諸表上でも大きな損失となり、銀行から融資を受けにくくなったり、企業の信用度が落ちたりするデメリットもあります。
売掛債権の未回収が起こる主な原因は、以下の通りです。
- 請求漏れ
- 経理上のミス
- 入金確認の見逃し
- 取引先の入金処理不足
- 取引先の経営悪化や倒産による支払能力の低下
このように、原因は取引の処理上で起きた人的ミスが関与しています。自社以外で起きた問題は、例えば取引先の担当者が請求書の処理を忘れていた、期日までに処理を行っていなかったなどです。この場合は、社内で管理や確認の方法を見直す必要があります。
また、自社で請求漏れなどの人的ミスはなかったものの、取引先の経営悪化や倒産によって代金の支払いができなくなると、未回収の売掛債権が発生します。調査事業を展開している株式会社東京商工リサーチの調査結果によると、2023年の全国企業倒産家数は8,690件と前年より35.18%増加傾向です(※)。
倒産件数が増えている現状を踏まえると、取引先の倒産や経営悪化によって発生する未回収リスクへの備えが今後より重要となります。
※参考:株式会社東京商工リサーチ.「全国企業倒産状況」.
https://www.tsr-net.co.jp/news/status/detail/1198286_1610.html ,(2024-01-05).
売掛債権が未回収となる前兆
売掛債権が未回収になる可能性がある前兆は、主に以下の3つです。取引時に以下の変化が身の回りで起こっていないか振り返ってみましょう。
- 従業員の離職率が高い
- 支払遅延や不履行が頻繁に起こる
- 取引先の銀行や契約状況の変化
従業員の離職率が高い場合は、業績悪化でリストラや退職の申し出が続いている可能性があります。
また、支払遅延や不履行が頻繁に起こっている場合も注意しましょう。取引先の経営が悪化しているか、資金操りに問題がある可能性があるためです。ただし、会計上で問題がある場合もあるため、一概には言えません。不履行の中でも、支払日の変更が繰り返される場合は、未回収リスクが高まるため警戒しましょう。
取引先の銀行変更や契約状況の変化も考えられる予兆です。銀行を変更した背景には、融資を断られたなどの理由が潜んでいる可能性があります。また、取引先で自社以外の他の契約に問題が生じている場合、自社への売掛金の支払いが遅れる可能性があります。
なお、これらの問題があるからといって売掛債権が未回収になるとは限りません。あくまで考えられる予兆のため、自社の取引管理体制も含めてリスク管理を行う必要があります。
売掛債権を活用するメリット
売掛債権を活用するメリットは、以下の3つです。
- 請求業務が一括で完了する
- 新規取引の拡大が期待できる
- 資金がなくても取引できる
請求業務が一括で完了する
売掛債権を活用すると、請求業務が一括で完了します。締め日に合わせて期間内の取引をまとめて請求することで、入金管理の一元化が可能です。また取引案件ごとに管理を行う必要がないため、取引に伴う事務作業の効率化が期待できます。さらには請求書の受け取りや支払手続きが一回で完了するため、取引先の管理もこれまでより簡略化されます。
新規取引先の獲得が期待できる
売掛債権で代金のやり取りを行うことで、新規取引先の獲得が期待できます。案件ごとに個別で現金取引をする必要がない売掛債権は、スムーズな取引を求める企業にとって魅力的です。現金取引のみで取引を行うよりも、売掛債権を活用することで取引先の購買意欲を引き出し、ビジネスの発展につなげることができます。
また、取引先にとって支払方法は異なり、現金決済を好む企業もあれば後払いを希望する企業もあります。支払方法の選択肢が多いほど、幅広い取引先の支払いニーズに対応可能です。結果的にあらゆる企業と関われるようになり、市場シェアの拡大や売上増加につながる可能性が高まります。
資金がなくても取引できる
売掛債権を活用すれば、手元資金が十分になくても取引が可能となります。現金取引のみだと、通常は資金がなければ取引できません。しかし、売掛債権は後からまとめて代金を請求できるため、一時的な資金不足の際でも取引可能です。
ただし、資金がない状態で取引を過剰に行うと、経費などの支払いが難しくなるリスクを伴うため、注意が必要です。十分に検討しながら仕入れや発注を行いましょう。
売掛債権を活用するデメリット
売掛債権の活用には、以下の3つのデメリットが生じます。自社の経営状況や取引先との信頼関係に応じて、活用するかどうか判断しましょう。
- 債権が回収できないと経営が不安定になる場合がある
- 売掛債権の時効を過ぎると回収不可となる可能性がある
- 取引先と信頼関係を築かなければならない
債権が回収できないと経営が不安定になる可能性がある
売掛債権の回収が滞ると、自社の経営が不安定になる可能性があります。売掛債権を用いた取引は、双方の信頼関係があってこそ成り立つためです。
もし取引先が業績悪化で代金の支払いが遅延または不可能となった場合は、売上が確保できないことになるため、自社の経営に影響を及ぼす可能性があります。
特に、取引金額の大きい案件でこのようなトラブルが起こった場合は、キャッシュフローを著しく悪化させてしまいます。頻繁に起こる可能性は少ないものの、万が一のリスクに備えた対策が重要です。
売掛債権の時効を過ぎると回収不可となる場合がある
売掛債権には、法的に定められた時効期間があります。時効を過ぎると、たとえ取引先に請求書を送付していても、法的に回収ができない可能性があるため注意しましょう。
売掛債権の時効は2020年の民法改正によって2年から5年に変更されました(※)。全ての取引が5年ではなく、売掛金が発生した時期によって異なります。具体的には以下のように定められています。
- 2020年4月以降に発生した売掛金:支払期日から5年
- 2020年3月以前に発生した売掛金:支払期日から2年
時効が成立する日はサービスを提供した日ではなく、売掛金の支払期日から数えて算出するため、間違えないように注意しましょう。日頃から売掛金の発生日や取引履歴などを正確に記録するなどの与信管理を徹底的に行うのが大切です。
※参考:e-Gov法令検索.「民法((明治二十九年法律第八十九号))」.“第百七十三条”.https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089/20200301_429AC0000000044#Mp-Pa_1-Ch_7-Se_3-At_173 ,(2024-09-17).
※参考:法務省.「民法(債権法)改正 2020年4月1日から債権法(民法の契約等に関する部分)が変わります」P8.
https://www.moj.go.jp/content/001254263.pdf ,(2024-09-17).
取引先と信頼関係を築かなければならない
売掛債権の活用には、取引先との信頼関係が重要です。信頼関係が築けていないと、支払いの遅延や未払いが発生したり、取引が円滑に進まなくなったりする可能性があります。
新規で取引を行う際は、双方がまだ手探りな状態で取引を進めているため、特に注意が必要です。商品やサービスを提供する側の企業は、契約を締結する際に信頼関係が築けそうな相手かどうかを見極める必要があります。お互いに相違点がないように、契約条件や支払方法などを確認しておきましょう。
売掛債権の未回収リスクを抑える方法
売掛債権は双方の信頼関係に基づく取引のため、代金が未回収になるリスクを完全には排除できません。リスクを最小限に抑えるためにも、対策を講じる必要があります。
未回収を防ぐためには、以下の方法を検討してみましょう。
- 売掛保証を掛ける
- ファクタリングを利用する
- 請求書代行会社に依頼する
売掛保証を掛ける
売掛保証とは、取引先が倒産や経営悪化によって代金を支払えなくなった際に、保証会社が未回収分の売掛金を保証してくれる制度です。取引先が審査に通過する必要がありますが、自社へのダメージを軽減する役割を果たすため、前向きに検討しましょう。
保険料や手数料は各保険会社によって異なるため、自社の経営状況や予算に合わせて選びましょう。
ファクタリングを利用する
ファクタリングとは、取引先が持っている売掛債権をファクタリング会社に売却するサービスです。取引先が支払う前にファクタリング会社から資金が入るため、現金がすぐに必要な場合に適しています。
主な形態は、自社とファクタリング会社との間で行う2社間ファクタリングと、自社とファクタリング会社、取引先で行う3社間ファクタリングの2つです。最短で現金が欲しい場合は、手続きがシンプルで素早い資金調達が可能な2社間ファクタリングをおすすめします。
売掛保証と同じく取引先の審査がありますが、早めに現金化できる利点を持っています。
請求代行会社に依頼する
請求代行会社に請求書の発行から入金確認までを代行してもらうことで、業務の負担が減り、効率的な債権回収が可能となります。中には、取引先からの入金確認が取れず未回収となった場合に、売掛金を全額保証してくれる会社もあります。
また、依頼によって空いたリソースを他の業務に回せるようになる点も請求代行会社を利用するメリットです。なお、代行範囲は会社によって異なるため、ホームページや比較サイトなどで確認しましょう。
売掛債権で業務効率化を図ろう
売掛債権は、一定期間内の取引の代金を後からまとめて請求できる権利です。個別で請求書を発行する必要がないため、業務効率化が期待できます。また、新規取引が獲得できる可能性が広がったり、一時的な資金不足でも取引ができたりする点もメリットです。一方で、代金が支払われないなどのデメリットも存在します。万が一のリスクに備えて、売掛債権や請求代行、ファクタリングなどの利用を考えましょう。
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