支払督促とは? 債権回収での利用メリット・デメリットを解説
【監修】株式会社ジオコード マーケティング責任者
渡辺 友馬
取引先との金銭の未支払いに関するトラブルを解決するための方法として、支払い督促(以下支払督促)があります。迅速にお金を支払ってもらうために有効な手段です。
ここでは支払督促とはどのような内容なのか、手続きや流れ、その後の対応も解説します。
支払督促を行うことでのメリット・デメリットや注意点も紹介するので、取引先との未払いや未返還に関するトラブルに悩んでいる方は参考にしてください。
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支払督促とは?
取引先からお金を返してもらえない、支払ってもらえないときの解決方法として、民事訴訟・少額訴訟・民事調停・支払督促などの法的手続きがあります。
ここでは比較的容易な手続きである「支払督促」について解説します。
支払督促の定義と目的
支払督促は、取引先である債務者に対して、金銭の支払いを請求するための法的手続きです。通常、期日までに支払いが行われていない債権に対して利用され、金銭の支払いに関するトラブルの解決に役立ちます。
売掛金や貸金、家賃、損害賠償金、修理代金など幅広い種類の金銭に関する未払い・未返還が対象で、債権者が債務者に対して簡単かつ迅速に、債権を回収できるようにするのが目的です。
支払督促を利用する際は、簡易裁判所の書記官を通じて債権回収の手続きを行います。債権者からの申し立てがあれば、債務者からの同意や意見を聞くことなく発布できます。裁判所に行く必要がなく、書類審査のみで手続きが手軽です。
未払い・未返還の金銭トラブルを解決したい際に、支払督促は手軽な回収方法の1つです。
支払督促の特徴とポイント
支払督促が他の法的手続きと異なる特徴として、督促状を送付するまでの手続きが簡単かつ迅速で、かかる費用も他と比べて安価な点が挙げられます。よって、債権の金額が小規模な際の債権回収に適しています。
支払督促は債権者が簡易裁判所に申し立てすることにより、書記官が債務者に金銭の支払を命じて債権回収を行う制度です。裁判所に直接足を運ばなくても郵送やオンラインで申し立てが可能です。
支払督促であれば、2回書類を簡易裁判所に提出するだけで、比較的短期間で相手の財産を差し押えることができます。手続きが簡単な上、債権を回収するまでの期間が短いため、利用がしやすいのが特徴です。
しかし債務者が異議申立てを行うことで、訴訟に発展する可能性もあります。また金銭債権の回収に特化しているため、物品の引き渡しのような金銭が絡まない行為を促すことはできません。
他にも支払督促が利用できないケースがあるので、状況に応じて検討・判断しましょう。
入金催促との違い
支払督促と入金催促は、意味や行為が異なり、催促よりも督促の方が強い意味合いを持っています。入金催促には支払督促と同様の法的効果はありません。
簡易裁判所にて申し立てを行い、書類にて支払いを命じる督促に対して、入金催促は電話やメールで債務者に直接行います。
債務者に請求書が届いていなかったというケースも考えられるため、まずは状況を確認し「〇日までにご入金ください」という旨の内容を伝え、支払いを催促します。催促をしても未払いの状態が続く場合に、簡易裁判所で支払督促の手続きを検討するのが一般的です。
支払督促が利用される場面
支払督促が利用されるのは、取引先である債務者が支払期日を過ぎて入金催促をしても金銭を中々支払ってくれない場合です。
他にも「貸したお金を返してほしい」「売掛になったままのお金を回収できない」「滞納されている家賃を支払ってほしい」「滞っている給料を支払ってほしい」など、未払い・未返還の金銭を簡単かつ迅速に回収するための手段として利用されます。
金額の規模に関わらず、以下のような種類の金銭を回収するための手段として用いられることがあります。
- 売買代金
- 貸金
- 立替金
- 給料・報酬
- 請負代金
- 修理代金
- 家賃
- 地代
- 敷金
- 保証金 など
支払督促の手続き方法と流れ
ここでは支払督促を利用する際の、手続き方法と流れを解説します。
支払督促申立書の書き方と提出方法
支払督促を申し立てるには、支払督促申立書の作成が必要となります。
支払督促申立書とは、簡易裁判所の書記官から債務者に対して支払を命じてもらうために必要な書類です。申立書は簡易裁判所に備え付けてある他、裁判所のWebサイトからもダウンロードが可能です。
支払督促申立を行う際に提出する書類は、以下のとおりです。
- 支払督促申立書
- 請求の趣旨と原因のコピー
- 当事者目録のコピー
- 官製はがき
- 収入印紙
- 委任状
- 資格証明書
- 郵便切手を貼った無地の封筒
ただし、支払督促を行う内容や申立人によって用意する書類の内容が異なるので、事前に確認しておきましょう。
申立書には、債務の内容・金額・債務者の住所などを記載します。
書き方のポイントとしては、債務者でも分かりやすい表現にすることや用紙からはみ出さないことなどが挙げられます。フォーマットを基に分かりやすさを心がけた記載が必要です。
債務者の住所地を管轄している簡易裁判所に直接または郵送で書類を送り申し立てを行うため、債務者の所在地が分からなければ支払督促を利用できません。事前に債務者の住所を確認しておきましょう。
簡易裁判所での支払督促の流れ
簡易裁判所での支払督促は、以下の流れで行われます。
1.申し立て
2.申し立て内容の審査
3.支払督促の送付
まずは債権者が支払督促申立書や必要書類を用意した上で簡易裁判所に申し立てを行います。
申し立て内容の審査では、簡易裁判所の書記官が受理した申立書の内容を基に形式的な審査をします。支払い請求に正当性があれば、債務者に対して簡易裁判所の書記官から支払督促を送付します。
支払督促が送付された場合、督促を送付した旨は債権者にも通知されます。債務者は債権者の対応次第で迅速な対応が求められるため、あとで説明する必要なスケジュールを把握しておきましょう。
支払督促にかかる費用と手数料
支払督促にかかる費用は、申立手数料や郵便切手代などです。
支払督促申立にかかる手数料は通常訴訟の手数料額の半額です。ただし申立の種類や請求の金額によって、必要な申立手数料の金額は異なります。10万円まで請求で申立手数料500円、100万円請求で5,000円など金額はさまざまです。どのくらいの手数料になるのか不安な場合は、裁判所に直接問い合わせをすると安心でしょう。
なお申立手数料は収入印紙で納めます。申立書に貼り付けて納付しましょう。
ちなみに通常訴訟は裁判所に納める訴訟費用が5万円、支払督促は2万5千円、弁護士費用(着手金)通常訴訟は約59万円が一般的な目安となります。
支払督促のメリットとデメリット、注意点
支払督促は債権回収を行う上で便利な手続きです。しかしデメリットも大きいため、支払督促したほうが良いケースは実はそれほど多くはありません。
支払督促を行うことが適切かどうかは、その事案ごとに慎重に判断する必要があります。支払督促手続きのメリットとデメリット、注意点を理解した上で利用するかどうかの判断をしましょう。
支払督促を利用する効果やメリット
支払督促を利用するメリットとして、手続きの手軽さが挙げられます。直接裁判所に行かなくても、郵送やオンラインで申し立てが可能で、債務者が支払督促にすぐ応じてくれれば、一度も裁判所に行かずに債権を回収できます。
他の法的手続きよりも簡単であることに加え、費用を比較的安く済ませられます。
裁判所の名前で支払督促が届くため、債務者に対して支払いのプレッシャーを与えることで債権回収がスムーズになる効果もあります。債務者が支払督促を無視し何も対応がなければ、債務者の財産に対して強制執行をして債権回収することも可能です。
また2020年4月の民法改正により、債権は原則として当初の支払期限から5年で消滅時効を迎えることになりました。しかし支払督促をすると時効を更新できるため、時効によって債権が回収できなくなる事態を避けられるメリットもあります。
支払督促のデメリットとリスク
支払督促を利用するデメリットとして、支払督促をするだけで債務者が支払いに応じるケースばかりではないことが挙げられます。
支払督促を送っても無視されてしまうか、異議申し立てが行われるケースも多いです。支払督促には異議申立書も同封されているので、債務者も簡単に異議申し立てが可能です。
異議申し立てがあった場合、債務者の住所地を管轄する裁判所での訴訟となるので、場合によっては遠方まで足を運ばなければならず、手間がかかってしまう場合は注意が必要です。
債務者の財産が分からない場合は、強制執行ができない可能性もある点にも留意しましょう。
また、支払督促は債務者の住所地を管轄する裁判所に申し立てを行います。そのため債務者が行方不明となっている場合は、支払督促ができず債権も回収できないことも知っておきましょう。
デメリットを回避するための注意点
支払督促をする上で生じるデメリットを回避し、債権を回収するには支払督促以外の選択肢も検討しましょう。
例えば相手から異議申し立てを起こされそうだと事前に予想できるのなら、支払督促はベストな選択肢とはいえません。通常訴訟に移行されてしまえば、裁判所に出廷しなければならず、証拠も揃える必要があり、手間も費用もかかってしまいます。
その場合は、最初から債権者の住所に近い裁判所で民事訴訟や民事調停を行うなどの方法を検討した方が良いでしょう。
支払督促が異議申し立てされたら?
支払督促が異議申し立てされてしまった場合、債権者はどのような対応が求められるのでしょうか。手続きの流れや通常訴訟への移行について解説します。
支払督促から通常訴訟へ移行する場合
支払督促は「特別送達」という形式で簡易裁判所から送付されます。郵便職員から名宛人である債務者に、直接手渡しすることが原則です。
支払督促の書類と一緒に、督促の内容に対する異議申し立てについての案内・説明書・異議申立書も同封されています。債務者は支払督促の内容に不服があれば「異議申立書」に必要事項を記入し、支払督促が送られてきた簡易裁判所に直接持参または郵送して提出します。
裁判所が異議申し立てを受理すると、支払督促は通常訴訟へ移行し、両者が裁判所に出廷する必要が生じます。
異議申し立てされると支払督促の効力はなくなります。債権者が再度申し立てをしても効力が失われているため、仮執行宣言を出せず、強制執行で債務者の財産を差し押えもできないので、債権回収が難しくなるでしょう。
異議申し立てへの対応方法
債務者から異議申し立てがなされた場合は、前述のように民事訴訟の手続きに移行するのが一般的です。
民事訴訟は、紛争の対象とされる金額が140万円以下であれば簡易裁判所、140万円以上であれば地方裁判所で民事裁判が行われます。
支払督促が無視されたら?仮執行宣言後に強制執行
支払督促を送ったにも関わらず債務者に無視され、債務者が債務の履行を行わない場合は債権者が債務名義を取得することで、強制執行の申し立てが可能になります。
債務者が支払督促を受領してから2週間以内に、異議申し立ても支払いも行われなかった場合、債権者は「仮執行宣言の申し立て」の手続きをとれます。「仮執行宣言の申し立て」は、強制執行を行う上で必要な手続きです。
「仮執行宣言の申し立て」の内容に不備がなければ「仮執行宣言付支払督促」を裁判所から債務者に送付します。仮執行宣言付支払督促を債務者が受領してから2週間以内に何のアクションもなければ強制執行が可能となります。
債権者は、仮執行宣言の申し立てが可能になった日から30日以内に仮執行宣言の申し立てをしなければ支払督促は失効してしまうため注意が必要です。
支払督促以外の債権回収方法や注意点
債権回収とは支払期限までに入金されなかった債権を回収するために、債権者が起こす行動のことです。例えば債務者である取引先の企業が経営悪化を理由に、売掛金の支払いを期日までに行わず滞っている場合、債権者は交渉・催促など回収のための行動を起こさなければなりません。
支払督促以外に可能な債権回収の方法と注意点を解説します。
内容証明郵便を使った催告の効果
法的手段による債権回収を行う前に、電話やメール、面会での交渉や内容証明郵便を利用した催促をしましょう。取引先との関係性を大切にするためにも、交渉や催促を行った上で法的手続きによる債権回収方法を試みるのがおすすめです。
催告書とは、債権者が債務者に対して債務を履行するように求める書類を指します。
内容証明郵便を利用して催告書を送ることで催告書の内容や送付日を客観的な記録として残すことが可能です。いつ・どのような内容を伝えたかを証明する証拠として利用できるため、有効な方法です。
債権には時効がありますが、内容証明郵便で催告書を送付することで、催告から時効まで6カ月間の猶予ができます。ただし支払を求める訴訟を起こすことを示さなければ、時効は完成してしまうため注意が必要です。
民事訴訟・民事調停・少額訴訟などの法的手続
支払督促以外の債権回収方法は、民事訴訟や民事調停、少額訴訟などの法的手続きの選択肢があります。
民事訴訟は、裁判官が両者の言い分や証拠を基に判決を下して解決に導く方法です。
民事調停は、裁判所の調停委員会のあっせんによって話し合いを行い、解決に導くもので、話し合いによる円満な解決の見込みがある場合に有効な方法とされています。
紛争の対象金額が60万円以下なら少額訴訟を利用する方法もあります。
少額訴訟と支払督促の違い
少額訴訟も支払督促は、簡単かつ迅速に債務名義の取得ができる点は共通しています。
支払督促と少額訴訟が異なる点は、支払督促は紛争の対象となる金額に制限がありませんが、少額訴訟では60万円以下と限定されている点です。また1年間に債権回収に利用できる回数も支払督促は制限がありませんが、少額訴訟では10回と制限が設けられています。
さらに少額訴訟は、1回の期日で審理を終了し、即日判決の言渡しをするという原則があります。1回の期日で判決まで言い渡されるため、少額訴訟は支払督促より債権回収までスピーディーなのも特徴です。
効率的な債権回収のためのポイント
債権回収を的確に行うためのポイントは、債権の状況を常に正確に把握しておくことです。その上で、契約内容や消滅時効を確認し、適切な対応をいち早く検討しましょう。債権の消滅時効が成立しそうな場合は、阻止するために支払い催告や督促を行うなどの対応も必要です。
スムーズな債権回収のためには、適切な手段を適切なタイミングで上手に行うことが、回収率を上げるコツとなります。
また、債権回収について悩む場合は、早めに弁護士へ依頼・相談することも重要です。
まとめ
支払督促は、簡単かつ迅速に債権回収ができる反面、債務者に無視をされたり異議を申し立てられたりとトラブルも発生しやすいです。
債権管理ツールのようなツールを使用して、入金状況や債権状況を的確かつ迅速に把握しておけば、このような法的手段を取らずに済むかもしれません。その場合は債権回収の手間やコストもかかりません。
債権管理ツールの導入を検討するのであれば、複数社のサービスを比較して、特徴を把握することが大切です。自社に合った請求管理ツールを選んで、効率的に債権管理をしましょう。
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