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SFA JOURNAL by ネクストSFA

IoT時代のサイバーセキュリティ:経営層のためのファイアウォール戦略

小島 伸介

【監修】株式会社ジオコード 管理部長
小島 伸介

株式会社ジオコード入社後、Web広告・制作・SEOなどの事業責任者を歴任。
上場準備から上場まで対応した経験を生かし、サービス品質の改善を統括する品質管理課を立ち上げ。その後、総務人事・経理財務・情報システム部門を管掌する管理部長に就任。

ビジネスにおけるIoTモノのインターネット技術の導入は、生産性向上や新たなサービス開発を可能にする一方で、従来のIT環境にはなかった特有のセキュリティリスクを増大させています。工場設備、スマートオフィス機器、サプライチェーン連携システムなど、ネットワークに接続される多様なIoTデバイスは、サイバー攻撃の新たな侵入経路となり得ます。経営層や管理部門の皆様にとって、これらの潜在的な脅威を正しく理解し、適切な対策を講じることは、事業継続性や企業信頼性を維持するための喫緊かつ重要な経営課題です。本記事では、IoTセキュリティ戦略の中核をなす「ファイアウォール」に焦点を当て、その重要性、従来の仕組みとの違い、求められる機能、そして経営層が認識すべき基本的な対策について、A案・B案の内容を踏まえて包括的に解説します。IoTリスクへの適切な対応は、デジタル変革時代を勝ち抜くための基盤構築と言えます。

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シグネチャ検査(更新、設定はマネージドサービスとして提供します。)
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アクセス制御
国別フィルタ
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レポート機能
専用フォーム(各種お問い合わせは専用フォームで承ります。履歴管理も可能です。)
Amazon Web Services, Inc. AWS WAF
  • ウェブトラフィックフィルタリング
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  • アカウント乗っ取り詐欺の防止
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  • フル機能 API
  • リアルタイムの可視性
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Web ACL 月あたり (時間で案分) USD 5.00
ルール 月あたり (時間で案分) USD 1.00
リクエスト USD 0.60/100 万件のリクエスト (最大 1500 WCU およびデフォルトの本文サイズの検査*)
Bot Control と Fraud Control 上記のタブによる追加費用
ウェブトラフィックフィルタリング
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アカウント乗っ取り詐欺の防止
アカウント作成詐欺防止
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リアルタイムの可視性
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株式会社ROCKETWORKS 詳細はこちら ※IT製品の情報サイト「ITトレンド」へ遷移します。 イージスWAFサーバセキュリティ
  • Webサーバ・Webサービスへの攻撃や不審な通信を自動で徹底ブロック
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  • 人気ECサイト、Webサービスも安心の低負荷・低遅延
  • 日本人エンジニア執筆による「読んでわかる」レポートを毎月送付
イージスサーバセキュリティタイプ
月額/50,000円

イージスDDoSセキュリティタイプ
~2Mbps 初期費用/¥98,000 月額/¥40,000
~5Mbps 初期費用/¥98,000 月額/¥60,000
~10Mbps 初期費用/¥98,000 月額/¥120,000
~50Mbps 初期費用/¥198,000 月額/¥198,000
~100Mbps 初期費用/¥198,000 月額/¥250,000
~200Mbps 初期費用/¥198,000 月額/¥450,000
200Mbps以上 別途見積もり
サイバー攻撃の検出/遮断
月次レポート
サイバーセキュリティに関するアドバイザリー
法務相談(オプション)
SBテクノロジー株式会社
詳細はこちら
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Imperva WAF
  • 自動学習機能による導入運用負荷軽減
  • 細かなポリシー設定
  • 簡単に導入可能
  • Imperva 独自の研究機関『ADC』
  • 仮想パッチの適用
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~500kbps 初期費用 98,000円 月額 29,800円
~5Mbps 初期費用 98,000円 月額 59,800円
~10Mbps 初期費用 98,000円 月額 128,000円

~50Mbps 初期費用 198,000円 月額 148,000円
~100Mbps 初期費用 198,000円 月額 198,000円
~200Mbps 初期費用 198,000円 月額 298,000円
200Mbps 初期費用198,000円 100Mbps毎に100,000円加算
1 ブロック機能 Webサイトに対する攻撃と思われる通信を遮断する機能
2 モニタリング機能 Webサイトに対する攻撃と思われる通信を記録する機能 (通信自体は遮断されません)
3 防御ログ閲覧機能 ブロック(モニタリング)した通信をログとして保存し、閲覧できる機能
4 レポート機能 下記の内容を管理画面上で報告する機能
 ・攻撃元(IPアドレス)top5
 ・攻撃種別top5
 ・防御ログの月別ダウンロード
5 ソフトウェア更新機能 防御機能等を向上させるため、ソフトウェアを更新する機能
6 防御ロジック更新機能 防御効果の向上を図るため、不正な通信パターンを随時最新の状態に更新する機能
7 特定URL除外機能 Webサイト中のWAF機能を利用したくない箇所を防御対象から除外する機能
8 IPアドレスの拒否/許可設定機能 特定のIPアドレスからの通信を拒否、もしくは特定のIPアドレスからの通信のみ許可する機能
9 脆弱性検査用IPアドレス管理機能 Webサイトへの脆弱性診断等を行う際、設定したIPアドレスからの通信についてブロック/モニタリングを行わない機能
10 SSL/TLS通信機能 暗号化された通信についても解読し、防御する機能
11 API機能 Scutumで検知した防御ログや詳細な攻撃リクエスト内容をAPI経由で取得できる機能
エヌ・ティ・ティ・スマートコネクト株式会社 SmartConnect Network & Security
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  • 変化するビジネス要件に、柔軟に対応できる
  • 安心・セキュアを継続できる品質と実績
- UTM
WAF
DDoS
Webプロキシ
メールセキュリティ
ロードバランサ
VPN
株式会社モニタラップ AIONCLOUD WAAP
  • ひとつのコンソールで提供する統合セキュリティ
  • 進化する脅威に対応するアプリケーションセキュリティサービス
- WAF
Webアプリケーションを既存の攻撃、ゼロデイ攻撃などから防御します。

APIセキュリティ
企業のAPIに対する可視性を提供し脅威を遮断します。

ボット緩和
ボットのトラフィックを管理し、Webサイトを保護します。

DDoS保護
アプリケーション階層のDDoS攻撃から企業のWebサイトを守ります。
フォーティネットジャパン合同会社 FortiWeb
  • WEBアプリケーション保護
  • 機械学習に基づいた脅威検知
  • セキュリティ ファブリックの統合
  • 高度な分析
  • 誤検知の減災
  • ハードウェアベースのアクセラレーション
- アプリケーションのセキュリティ
コンテンツセキュリティ
デバイスのセキュリティ
NOC/SOC セキュリティ
ウェブセキュリティ
管理された検出と対応
SOC-as-a-Service
インシデント対応サービス
サイバーセキュリティの評価と準備状況
バラクーダネットワークス Barracuda Web Application Firewall
  • Web攻撃とDDoSを確実に防止
  • 悪意のあるボットの動きを完全に静止
  • APIとモバイルアプリの保護
  • きめ細かなアクセス制御と安全なアプリ配信を実現
  • セキュリティの自動化と統合
  • 攻撃とトラフィックパターンの可視化
- WebアプリケーションとAPIの保護

+ OWASPおよびゼロデイ攻撃に対する保護
+ 高度なボット攻撃からアプリケーションを保護
+ API保護
+ サーバクローキング
+ URL暗号化
+ GEO IPとIPレピュテーションチェック
+ マルウェア対策とウィルス対策
+ マルチプロトコルサポート
+ アプリケーションDDoS対策
+ 大規模なDDoSの防止
+ JSONセキュリティ
+ XMLファイアウォール
+ アクティブ脅威インテリジェンス
+ クライアントサイドプロテクション

アプリケーションデリバリ
+ アプリケーションの負荷分散と監視
+ コンテンツルーティング
+ キャッシュ、圧縮、トラフィックの最適化

データ保護とコンプライアンス
+ アウトバウンドDLP
+ コンプライアンス認証

IAM
+ SAMLサポートとSSO
+ クライアント証明書ベースの認証
+ AD FSとの統合
+ LDAP、Kerberos、およびRADIUSとの統合
+ 2要素認証

レポート
+ Barracuda Active Threat Intelligenceダッシュボード
+ 直感的なドリルダウンレポート
+ 包括的なログ
+ SIEMとの統合

管理
+ HAクラスタリング
+ ロールベースの緻密なアクセス制御
+ REST APIによる自動化とスケーラビリティ
+ 統合的なDevSecOpsの有効化
+ デフォルトのセキュリティテンプレート

中央管理
+ 単一コンソール
+ 証明書の中央管理
+ 中央管理通知とアラート

使いやすさ
+ アプリケーション学習(アダプティブプロファイリング)
+ 仮想パッチと脆弱性スキャナとの統合
+ 自動構成エンジン
セコムトラストシステムズ株式会社 マネージドWAFサービス
  • AWS、Azure 等の、各種クラウド環境でも利用することができます。
  • メーカーシグネチャに加え、個別シグネチャを迅速に作成することができます。
  • クラウド型なので直ぐにご利用いただけます。(※大規模システム向けにはオンプレミス型(マネージドWAFサービス標準型)も提供できます)
  • ストラッツ(Struts)の脆弱性対策も実施することができます。
  • クレジットカード番号の外部流出を検知し防止することができます。
  • DDoS攻撃対策も実施することができます。(オプション)
- DDoS対策
ファイアウォール
IPS
WAF
Amazon Web Services, Inc. AWS Shield
  • AWS Shield Standard
    ↳基盤となる AWS サービスの静的しきい値 DDoS 保護
    ↳インラインの攻撃緩和
  • AWS Shield Advanced
    ↳アプリケーショントラフィックパターンに基づいてカスタマイズされた検出
    ↳正常性に基づく検出
    ↳高度な攻撃緩和機能
    ↳自動アプリケーションレイヤー DDoS 緩和策
    ↳積極的なイベント応答
    ↳保護グループ
    ↳可視性と攻撃の通知
    ↳DDoS コスト保護
    ↳専門サポート
    ↳グローバルな可用性
    ↳一元化された保護管理
- AWS Shield Standard
基盤となる AWS サービスの静的しきい値 DDoS 保護
インラインの攻撃緩和

AWS Shield Advanced
アプリケーショントラフィックパターンに基づいてカスタマイズされた検出
正常性に基づく検出
高度な攻撃緩和機能
自動アプリケーションレイヤー DDoS 緩和策
積極的なイベント応答
保護グループ
可視性と攻撃の通知
DDoS コスト保護
専門サポート
グローバルな可用性
一元化された保護管理

1. IoT環境がもたらす新たなリスクと従来の防御の限界

IoTデバイスの普及は、企業ネットワークの境界を曖昧にし、攻撃対象領域を飛躍的に拡大させています。これらのデバイスは、スマートフォンやPCのような一般的なIT資産とは異なり、設計段階でのセキュリティ考慮が限定的であったり、リソース制約から高度なセキュリティ機能を搭載できなかったりするケースが多く見られます。具体的な脆弱性としては、工場出荷時のまま放置されたデフォルトパスワードや、更新されない旧バージョンのファームウェアに潜む既知の脆弱性が挙げられます。また、多くのIoT機器には十分な認証機能や通信の暗号化が実装されておらず、平文での情報漏洩や通信の改竄リスクを高めます。物理的な設置場所によっては、デバイス自体への不正アクセスや改変も容易になる場合があります。

これらの複数の脆弱性が複合することで、Miraiボットネットに代表されるような、大量のIoTデバイスが悪用された大規模なサイバー攻撃を招く土壌が生まれています。従来のネットワークセキュリティは、主にPCやサーバーを中心とした標準的なIT資産間の通信を制御することに重点が置かれていました。特定のポートやプロトコルに基づいた境界防御が主流でしたが、IoT特有の多様な通信プロトコルやデバイス挙動を正確に識別し、制御することには限界があります。また、一度ネットワーク内部に侵入したデバイスや、正規の通信に見せかけた不正な活動を検知・阻止する能力も限定的です。IoTデバイスはしばしば社内ネットワークの末端や、管理が行き届きにくい場所に分散配置されるため、従来の画一的なセキュリティポリシー適用や集中管理が困難です。このように、IoT環境では「内部は安全」という従来の前提が通用せず、デバイスレベルでの不正や異常通信を捉える新たな防御策が不可欠となっています。従来のセキュリティモデルだけでは、IoTデバイスがセキュリティチェーンの弱点となり、サイバー攻撃リスクを大幅に増加させてしまうのです。経営層は、このセキュリティモデルの転換点を理解し、新たな防御戦略の必要性を認識する必要があります。

IoTデバイスの主な脆弱性

  • ファームウェア更新の遅延: 既知の脆弱性が修正されず放置される。
  • 脆弱なデフォルト認証情報: 容易に推測・突破されるパスワードや共通鍵。
  • 不十分な組み込みセキュリティ: デバイス単体での防御機能が限定的。
  • 非暗号化通信の利用: 通信内容の盗聴や改竄リスク。
  • 物理的アクセスの容易さ: デバイスへの直接的な不正操作の可能性。

2. IoT時代に求められるファイアウォールの機能と役割

IoT時代のファイアウォールは、従来の基本的な通信制御に加え、IoTデバイス特有のリスクに対応するための高度な機能と役割を担います。最も基本的な役割は、ネットワークに接続されているIoTデバイスを正確に識別し、「見える化」することです。どのようなデバイスがどこにあり、どのような通信を行っているかを把握できなければ、適切なセキュリティポリシーを適用することは不可能です。

次に、IoT環境で多用されるMQTT、CoAP、AMQPといった多様な軽量通信プロトコルを解析し、その内容を検査できる能力が求められます。これにより、標準的な通信に見せかけた不正なコマンドやデータ転送を検知し、ブロックすることが可能になります。さらに、セキュリティインシデント発生時の被害拡大を最小限に抑えるための「マイクロセグメンテーション」機能が極めて重要です。これは、IoTデバイスや機能グループを細かくネットワーク分割し、それぞれのセグメント間の通信を必要最低限に制限する手法です。これにより、たとえ一つのデバイスが侵害されても、攻撃がネットワーク全体に水平展開するのを効果的に防ぐことができます。

また、通常の挙動から逸脱した異常な通信パターンや不審なデバイス挙動をリアルタイムに検知する機能も不可欠です。例えば、特定のセンサーデバイスが通常とは異なる大量の外部通信を開始した場合などに、これを異常として即座に警告または遮断します。これらの機能を効果的に運用するためには、多数の分散したIoTデバイスとネットワークを効率的に管理できる集中管理プラットフォームが必須です。ポリシーの一元管理、設定の自動適用、ログ収集・分析機能により、運用負荷を軽減しながらセキュリティレベルを維持・向上させます。

IoTファイアウォールの導入形態には、ネットワークのゲートウェイに設置する「ネットワーク型」と、各デバイスに軽量なエージェントを導入する「組み込み型(エージェント型)」が主要です。ネットワーク型は広範な可視化とマクロなセグメンテーションに適しており、組み込み型はデバイス単体での詳細な通信制御や異常検知に強みがあります。これらを組み合わせることで、より強固な多層防御体制を構築できます。IoTファイアウォールは、単なる通信フィルタリングツールではなく、IoT環境全体のセキュリティアーキテクチャの中核として、リスクの抑制とビジネス継続性の確保に不可欠な役割を果たします。

IoTファイアウォールに求められる主な機能

  • デバイス識別・可視化: 接続デバイスの種類、設置場所、通信状況の把握。
  • IoTプロトコル解析: 軽量プロトコルに対応した深い通信内容検査。
  • マイクロセグメンテーション: デバイスやグループ単位での詳細なアクセス制御。
  • 異常通信検知: 定常挙動からの逸脱や不審なパターンの検出。
  • 集中管理・運用: 多数デバイスのポリシー管理、設定、監視の一元化。

3. IoTファイアウォール導入が必須となる経営的理由

IoTファイアウォールの導入は、技術的な必要性だけでなく、企業の持続的な成長とレジリエンス(回復力)に直結する重要な経営判断です。第一に、ビジネス資産の保護という観点からその重要性は疑いの余地がありません。IoTデバイスを起点としたサイバー攻撃により、顧客情報や製造ノウハウといった機密データが漏洩した場合、損害賠償や復旧コストに加え、企業イメージの失墜は避けられません。IoTシステムが停止すれば、生産ラインやサービス提供が中断し、直接的な収益損失だけでなく、機会損失や顧客離れといった壊滅的な影響を招く可能性があります。堅牢なIoTファイアウォールは、これらの致命的なインシデントを防ぐための最前線となり、ビジネス資産を守る盾となります。

第二に、法規制やコンプライアンスへの対応強化が挙げられます。近年、産業制御システムや重要インフラを対象としたサイバーセキュリティに関する法規制(例:EUのNIS2指令)やガイドライン(例:サイバーセキュリティ経営ガイドライン)の整備が進んでいます。これらの規制は、適切なセキュリティ対策を講じることを企業に義務付けており、怠った場合には罰則や事業停止命令、あるいは訴訟リスクが発生する可能性があります。IoTファイアウォールによるネットワークの可視化、アクセス制御、通信ログの取得は、これらのコンプライアンス要求を満たすための基盤となります。

第三に、サプライチェーン全体のセキュリティ確保という視点です。IoTデバイスは、自社内だけでなく、サプライヤーや顧客との連携にも活用されます。もし自社のIoTデバイスが攻撃の踏み台となり、取引先や顧客に被害が及んだ場合、単なる技術的な問題にとどまらず、サプライチェーン全体の信頼性を揺るがし、ビジネス関係の断絶を招く可能性さえあります。自社のIoTセキュリティを強化することは、サプライチェーンリスク低減に貢献し、パートナーからの信頼獲得にも繋がります。

最後に、企業信頼性の向上と競争優位性の確立です。セキュリティ対策に積極的に投資し、顧客やパートナーに対して安全なビジネス環境を提供できる企業は、高い信頼性を得ることができます。特に、セキュリティへの懸念がIoT導入の障壁となっている顧客に対し、強固なセキュリティ体制をアピールすることは、差別化要因となり、新たなビジネス獲得に繋がります。IoTファイアウォールへの投資は、単なるコストではなく、将来的なリスクを回避し、企業価値と競争力を高めるための戦略的な投資と言えます。経営層は、これらの経営リスクとビジネス機会の両面から、IoTファイアウォール導入の優先順位を判断する必要があります。

経営層が認識すべき導入の重要性

  • ビジネス資産の保護: 機密情報漏洩やシステム停止による損害防止。
  • コンプライアンス対応: 法規制遵守、罰則・訴訟リスクの低減。
  • 事業継続性の確保: インシデント発生時のダウンタイム最小化。
  • サプライチェーンリスク低減: 取引先や顧客への被害拡大防止。
  • 企業信頼性向上: セキュリティ投資によるブランドイメージ強化。

4. IoTセキュリティを強化するための基本対策とファイアウォールの位置づけ

IoT環境全体のセキュリティは、ファイアウォールによるネットワークレベルの防御に加え、デバイス自体や運用管理を含む多層的なアプローチによってのみ実現可能です。ファイアウォールは中心的な防御壁となりますが、以下の基本的な対策と組み合わせて実施されることで、その効果を最大限に発揮します。

まず、セキュアなIoTデバイスの選定と導入基準の策定です。導入段階でセキュリティ機能(例: セキュアブート、暗号化機能、アクセス制御)を標準搭載した製品や、メーカーがセキュリティアップデートを継続的に提供する製品を選びます。次に、厳格な認証・認可の仕組みを導入し、デバイスへの不正アクセスを防ぎます。工場出荷時のデフォルトパスワードは必ず変更し、二要素認証や証明書認証を活用するなど、より強力なアクセス制御を実装します。

導入後の運用においては、デバイスのファームウェアやソフトウェアを定期的にアップデートする体制を構築することが不可欠です。既知の脆弱性を放置しないよう、メーカーからのセキュリティ情報を迅速に入手し、計画的かつ継続的にパッチ適用を行います。また、ネットワークセグメンテーションは、ファイアウォールと連携して被害拡大を防ぐ上で極めて重要な対策です。PurdueモデルやISA/IEC 62443といった産業制御システムのセキュリティ標準を参照し、OTネットワークとITネットワークの分離、さらには機器の種類や機能に応じた詳細なゾーン分割(マイクロセグメンテーション)を実施します。各セグメント間の通信はゼロトラストの原則に基づき、必要最低限のアクセスのみを許可します。

最後に、セキュリティ監視体制の構築とインシデント対応計画です。ファイアウォールを含む各種セキュリティ機器やIoTデバイスから生成されるログを一元的に収集・分析するSIEMセキュリティ情報イベント管理システム等と連携し、異常な通信や不審な挙動を早期に検知できるようにします。事前にインシデント発生時の対応計画を策定し、訓練しておくことで、万が一攻撃が発生した場合でも迅速かつ適切に対処し、被害を最小限に抑えることができます。

これらの対策は、ファイアウォールと相互に補完し合うことで、IoT環境のセキュリティレベルを総合的に向上させます。経営層は、これらの対策全体を俯瞰し、セキュリティ対策に必要なリソース配分と、関係部署が連携して取り組める体制構築を主導する必要があります。ファイアウォールは単体で完結するものではなく、より広範なセキュリティ戦略の中で位置づけられるべきものです。

IoTセキュリティの主な基本対策

  • セキュアデバイス選定: セキュリティ機能を持つ製品選び。
  • 厳格な認証・認可: デフォルトPW変更、多要素認証導入。
  • 定期的なアップデート: ファームウェア等の脆弱性修正。
  • ネットワークセグメンテーション: ネットワークの分離・分割による被害限定。
  • セキュリティ監視・対応: ログ分析、異常検知、インシデント計画。

5. IoTファイアウォール選定・導入を検討する際のポイント

IoTファイアウォール製品の選定にあたっては、単に機能リストを比較するだけでなく、自社のIoT環境や将来的な拡張計画、運用体制などを考慮した総合的な評価が必要です。経営層・管理部門としては、以下の重要なポイントを踏まえ、適切な製品やソリューションを見極めるべきです。

第一に、スケーラビリティとパフォーマンスです。現在だけでなく、将来的に増加する可能性のあるIoTデバイス数や通信量を考慮し、ネットワーク全体の処理性能に影響を与えることなく、必要なセキュリティ検査を実行できる製品を選定する必要があります。実際の環境に近い条件下での評価(PoC概念実証など)を通じて、処理能力や遅延の影響を確認することが推奨されます。

第二に、管理コンソールの操作性と運用自動化機能です。多数の分散したIoTデバイスや細分化されたネットワークセグメントに対し、セキュリティポリシーの設定や変更を効率的に行うことができるかどうかが重要です。直感的で使いやすいGUIに加え、REST APIやInfrastructure as Code (IaC) ツールとの連携機能があると、ポリシー管理の自動化や大規模環境での運用負荷軽減に繋がります。アラート機能のカスタマイズ性やレポーティング機能の充実度も評価ポイントとなります。

第三に、既存のセキュリティ環境との統合性です。現在導入しているNGFW、IDS/IPS、EDRエンドポイントでの検知応答、SIEMといった他のセキュリティツールとシームレスに連携できるかを確認します。ログフォーマットの互換性や、共通の管理プラットフォームで統合管理できるソリューションであれば、運用効率が大幅に向上し、インシデント発生時の状況把握や対応も迅速に行えます。

第四に、総所有コストTCOとベンダーのサポート体制です。初期導入費用だけでなく、ライセンス更新費用、運用にかかる人件費、そしてベンダーの保守サポート費用を含めた長期的なコストを算出し、予算計画に反映させます。特にIoT環境は特殊性が高いため、24時間365日の技術サポートが提供されているか、専門知識を持つエンジニアによるオンサイト支援や導入コンサルティングが可能かなど、ベンダーのサポート体制は非常に重要な選定基準となります。

これらの観点から複数の製品やソリューションを比較検討し、必要であれば異なるベンダーの製品を組み合わせたハイブリッドな構成も視野に入れることで、自社にとって最適なIoTファイアウォール戦略を確立することができます。

選定・導入時の重要ポイント

  • スケーラビリティ: デバイス数・通信量増加への対応能力。
  • 運用管理性: 管理コンソールの使いやすさ、自動化機能。
  • 既存システム連携: 他のセキュリティツールとの統合性。
  • コストとサポート: TCO、ベンダーのサポート体制評価。

6. まとめ:IoTセキュリティ対策への経営視点からのアプローチ

IoT技術の進化はビジネスに新たな機会をもたらす一方で、これまでのITセキュリティの常識では対応しきれないリスクを顕在化させています。多様なデバイス、特有のプロトコル、そして分散された環境といったIoTの特性は、従来の境界防御型ファイアウォールだけでは防御できない新たな脅威を生んでいます。IoT時代のファイアウォールは、デバイスの可視化、プロトコル解析、マイクロセグメンテーションといった機能を備え、IoT環境の防御において中心的な役割を担います。

その導入は、データ漏洩やシステム停止といった直接的なビジネス資産の損害を防ぎ、法規制やコンプライアンス要求を満たし、事業継続性を確保し、さらにはサプライチェーン全体の信頼性を高める上で不可欠な、経営的な意義を持つ投資です。しかし、IoTセキュリティはファイアウォール単体で完結するものではありません。セキュアなデバイスの選定、厳格な認証、継続的なアップデート、ネットワークセグメンテーション、そして常時監視と迅速なインシデント対応計画といった基本的な対策と組み合わさることで、初めて真に堅牢な防御体制が実現します。

経営層および管理部門の皆様は、自社のIoT活用状況と潜在的なセキュリティリスクを正しく評価することから始めるべきです。そして、ビジネス目標達成のために必要なセキュリティレベルを定義し、ファイアウォールを含む多層的な対策への投資を戦略的に計画・実行することが求められます。製品選定においては、機能だけでなく、スケーラビリティ、運用管理性、既存環境との連携、そしてコストやベンダーサポートといった経営視点での評価が重要になります。IoTセキュリティへの適切な投資と戦略的な取り組みこそが、デジタル時代におけるビジネスの安全性と持続的な成長を確実にするための鍵となります。未来のビジネス環境において競争力を維持するためにも、今すぐIoTセキュリティ戦略の見直しと強化に着手することが強く推奨されます。

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