障害者雇用の「等級」とは?雇用率カウント・給与・評価の正しい知識と実務対応ガイド

【監修】株式会社ジオコード 管理部長
小島 伸介
株式会社ジオコード入社後、Web広告・制作・SEOなどの事業責任者を歴任。
上場準備から上場まで対応した経験を生かし、サービス品質の改善を統括する品質管理課を立ち上げ。その後、総務人事・経理財務・情報システム部門を管掌する管理部長に就任。
「応募者の障害者手帳は2級だが、給与はどう設定すべきか」「1級の人でないと、雇用率はダブルカウントされないのか」 障害者雇用を進める上で、多くの人事責任者や経営者が一度は直面するのが、この「障害等級」に関する疑問です。手帳に記載された等級を、採用の可否や処遇の判断基準としてどこまで参考にして良いのか、その取り扱いは人事・労務戦略に関わる重要な指標であり、細心の注意が求められます。
もし、等級に関する知識が曖昧なまま実務を進めてしまうと、知らず知らずのうちに法的なリスクを冒していたり、貴重な人材の採用機会を逃していたりする可能性があります。障害等級は、企業の雇用管理において非常に誤解されやすいポイントなのです。
本記事では、企業の決裁者・人事責任者の方々が安心して障害者雇用に取り組めるよう、「障害等級」の基本的な知識から、法定雇用率のカウント方法との決定的な違い、そして採用・給与・評価における適切な実務対応まで、網羅的に解説する実務対応ガイドです。
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障害者手帳の種類と「障害等級」の概要
障害者雇用について語る上で、大前提となるのが「障害者手帳」です。これは、一定の障害の状態にあることを証明するためのもので、大きく分けて3つの種類が存在します。それぞれの概要と、等級が持つ意味を正しく理解することが第一歩です。
- 身体障害者手帳 視覚、聴覚、平衡機能、音声・言語機能、そしゃく機能、肢体(上肢・下肢・体幹)、心臓、じん臓、呼吸器、ぼうこう、直腸、小腸、免疫、肝臓の機能に永続する障害がある場合に交付されます。障害の種類や程度に応じて1級から7級までの等級に区分されます。
- 療育手帳(愛の手帳など) 知的障害のある方が対象で、児童相談所または知的障害者更生相談所において、知的障害があると判定された場合に交付されます。法律で定められた制度ではないため、自治体によって名称や等級区分が異なりますが、多くは障害の程度に応じて最重度「A1」、重度「A2」、中度「B1」、軽度「B2」のように区分されます。
- 精神障害者保健福祉手帳 精神疾患(統合失調症、うつ病、てんかん、発達障害など)により、長期にわたり日常生活または社会生活への制約がある方が対象です。精神疾患の状態と能力障害の状態の両面から総合的に判断され、1級から3級までの等級に区分されます。
ここで企業の人事担当者が絶対に押さえておくべき最も重要なポイントは、これらの「等級」は、あくまで医療や福祉の観点から、日常生活や社会生活における支障の度合いを示す指標であるということです。決して、その人の「仕事の能力」や「生産性」を直接的に示すものではありません。「等級が高いから仕事ができない」「等級が低いから特別な配慮は不要」といった短絡的な判断は、大きな誤解を生む原因となり、採用のミスマッチや後の労務トラブルに発展するリスクをはらんでいます。等級はあくまで参考情報の一つと捉え、その数字の裏にある個人の状況を理解しようとする姿勢が求められます。
【担当者必見】「手帳の等級」と「雇用率のカウント」は全くの別物!
障害者雇用において、人事担当者が最も混同しやすく、そして最も正確な理解が求められるのが、障害者手帳の「等級」と、法定雇用率制度における「カウント方法」の違いです。この二つを同一視してしまうと、雇用計画に大きな齟齬が生じるため、明確に区別して理解する必要があります。
法定雇用率制度では、障害の程度が特に重いと認められる「重度障害者」を雇用した場合、企業への負担に配慮し、その1人の雇用を2人分としてカウントできる「ダブルカウント制度」が設けられています。多くの担当者が「等級が高い人=重度障害者(ダブルカウント対象)」とイメージしがちですが、これは必ずしも正しくありません。
雇用率制度上の「重度障害者」の定義は、手帳の種類ごとに以下のように明確に定められています。
- 重度身体障害者:身体障害者手帳の等級が1級または2級の方。
- 重度知的障害者:療育手帳の等級区分が「A」(または同等の判定)の方。
- 重度精神障害者:精神障害者保健福祉手帳の等級が1級の方。
この定義からも分かる通り、例えば身体障害者手帳3級の方は等級上は重度ではありませんが、雇用率上は1カウントとして算定できます。逆に、精神障害者保健福祉手帳2級の方は、日常生活での支障は小さくないかもしれませんが、雇用率のカウント上は「重度障害者」には該当せず、ダブルカウントの対象にはなりません(1カウントとして算定)。
さらに、雇用率の算定は、「労働時間」との組み合わせで決まります。等級と労働時間を組み合わせたカウント基準の基本パターンは以下の通りです。
- 週30時間以上勤務
- 重度身体・知的障害者:2.0人
- 上記以外の身体・知的障害者、および精神障害者:1.0人
- 週20時間以上30時間未満勤務
- 重度身体・知的障害者、および精神障害者:1.0人(※精神障害者は特例)
- 上記以外の身体・知的障害者:0.5人
このように、法定雇用率の算定は、手帳の等級だけで機械的に判断できるものではなく、手帳の種類、等級、そして労働時間といった複数の要素を組み合わせて、法律上の定義に当てはめて確認する必要があります。雇用計画を立てる際には、この制度を正確に理解し、誤ったカウントで未達成とならないよう、細心の注意を払いましょう。
障害等級を理由にした採用・処遇決定の法的リスク
「等級が高いと、業務遂行が難しいのではないか」「重い等級の人を採用するのは、リスクがあるのでは」といった懸念から、採用の判断や入社後の処遇に等級を反映させたいと考える担当者もいるかもしれません。しかし、こうした対応は、企業のコンプライアンス上、極めて重大な法的リスクを伴うことを理解しなければなりません。
その根拠となるのが、障害者差別解消法および改正障害者雇用促進法です。これらの法律では、事業者に対し、障害を理由とする「不利益な取り扱いの禁止」と、「合理的配慮の提供義務」を課しています。
「不利益な取り扱いの禁止」とは、障害があることのみを理由に、採用の機会を与えなかったり、賃金や昇進で不利な条件をつけたりすることを禁じるものです。例えば、以下のような対応は、この「不利益な取り扱い(差別)」と見なされる可能性が非常に高いと言えます。
- 採用選考において「手帳が〇級以上の人は一律で不採用」と内部基準を設ける。
- 等級に応じて基本給のテーブルを分け、等級が高いという理由だけで低い給与を設定する。
- 昇進・昇格の基準に「障害等級」を盛り込み、等級を理由にキャリアアップの機会を制限する。
これらの行為は、等級という一面的な情報のみで個人を判断し、合理的な理由なく不利益を与えることに他なりません。万が一、こうした対応が原因で労働紛争に発展した場合、企業は損害賠償責任を負うだけでなく、社会的信用を大きく損なうことになります。
また、「合理的配慮の提供義務」は、障害のある従業員が他の従業員と平等に働けるよう、企業が個々の状況に応じて必要な調整や支援を行うことを求めるものです。この合理的配慮の必要性や内容は、等級の重さで機械的に決まるものではありません。あくまで、本人からの申し出に基づき、企業にとって「過重な負担」にならない範囲で、個別具体的に検討されるべきものです。等級を理由に、必要な配慮の提供を一方的に拒否したり、逆に本人が求めていない過剰な配慮を行ったりすることも、適切な対応とは言えません。
【実務ガイド】等級情報の適切な取り扱いと公正な人事評価・給与制度
法的リスクを回避し、障害のある社員が公正な環境で能力を発揮するためには、等級情報を適切に取り扱い、全社員に共通する公平な人事制度を構築することが不可欠です。ここでは、採用から給与・評価に至るまでの具体的な実務ポイントを解説します。
採用時の対応と等級の確認
採用選考において、企業が知るべきなのは等級そのものではなく「その人が入社後、問題なく業務を遂行できるか」そして「そのために必要な配慮は何か」です。したがって、面接で「手帳は何級ですか」と直接的に聞くことは避けるべきです。代わりに、「差し支えなければ、業務を遂行する上で、当社に配慮してほしいことはありますか」といったオープンな質問をすることが望ましいでしょう。応募者が任意で等級を開示したとしても、その情報はあくまで合理的配慮を検討するための参考とし、合否判断の直接的な理由としないことが鉄則です。採用を決定した後、雇用率の算定や必要な手続きのために、本人に同意を得た上で手帳の種別や等級を確認し、正確に記録します。
給与制度の考え方:等級ではなく「職務・役割」で決定する
給与は、等級ではなく、その人が担う職務の価値や責任、本人のスキルや経験に基づいて決定するのが大原則です。これは、障害の有無にかかわらず、すべての従業員に適用されるべき考え方であり、「同一労働同一賃金」の精神にも合致します。具体的には、社内の職務を分析・評価し、その難易度や責任の重さに応じて等級を定める「職務等級制度」や、役職や役割に応じて処遇を決定する「役割等級制度」を導入することが有効です。このような公平な制度があれば、等級を理由に給与を決めるという発想自体がなくなります。
人事評価のポイント:評価基準を全社員で統一する
人事評価も給与と同様に、障害の有無や等級によって評価制度を分けるべきではありません。全社員に共通の評価基準、評価項目を用いることが基本です。重要なのは、評価の前段階である「目標設定」のプロセスです。上司と本人が十分に話し合い、障害特性や必要な配慮を踏まえた上で、双方が納得できる現実的かつ挑戦的な目標を設定します。例えば、目標達成のためのプロセスや手段については、柔軟性を認めるといった配慮が考えられます。評価そのものは公平に行い、その結果としてのフィードバックを通じて、本人の成長を支援していくことが求められます。
企業が本当に重視すべきは「等級」ではなく「個人との対話」
これまで、障害等級と雇用管理に関するテクニカルな側面を中心に解説してきましたが、最も本質的で重要なことは何でしょうか。それは、企業が「等級」というラベルに囚われず、目の前の「個人」と真摯に向き合う姿勢を持つことです。
企業が採用・育成において本当にフォーカスすべきは、手帳に記載された等級という「静的な情報」ではありません。その人がこれまでに培ってきた「能力・経験」、そしてこれから自社で貢献したいと考える「意欲」といった、個人の実像を見ることです。等級は、その人の一部分に過ぎず、その人の可能性をすべて表すものではありません。等級が高いからといって能力が低いわけではなく、等級が低いからといって高い能力を持っているとも限りません。画一的なラベリングは、貴重な才能を見過ごす機会損失に繋がります。
では、どうすれば個人と向き合うことができるのか。その鍵となるのが、採用段階から雇用後まで一貫して行う「建設的対話」です。これは、企業と障害のある社員が対等なパートナーとして、課題解決に向けて継続的にコミュニケーションを取るプロセスを指します。 「どんな業務が得意ですか、どんなことに挑戦したいですか」 「働く上で、どのようなことに困りそうだと感じますか」 「その課題を解決するために、会社としてどんなサポートができそうですか」 こうした対話を重ねることで、企業は本人の能力や適性を深く理解でき、本人は安心して働くための具体的な配慮を求めることができます。このプロセスを通じて、お互いの期待値をすり合わせ、ミスマッチを未然に防ぐことができるのです。等級という情報に頼るのではなく、この地道な対話こそが、障害のある社員が定着し、その能力を最大限に発揮して活躍するための王道と言えるでしょう。
まとめ:障害等級を正しく理解し、本質的な雇用管理を目指す
本記事では、障害者雇用における「等級」の正しい知識と、企業が取るべき実務対応について網羅的に解説しました。最後に、最も重要なポイントを改めて確認します。
障害者手帳の「等級」は、あくまで医療や福祉の観点から日常生活の困難度を示すものであり、仕事の能力や、法定雇用率制度上のカウント方法と直接結びつくものではありません。この二つを混同し、等級を理由に採用の可否や給与・評価を決定することは、重大な法的リスクを伴うだけでなく、企業の成長機会を損失させる行為に他なりません。
企業が目指すべきは、「等級」というラベルに基づいた画一的な管理ではなく、一人ひとりの社員と真摯に向き合う「対話」をベースとした個別最適な雇用管理です。本人の能力や意欲を正しく評価し、必要な合理的配慮を共に考え、実行していく。このプロセスこそが、法的リスクを回避し、障害のある社員が定着・活躍できる職場環境を実現する唯一の道です。
とはいえ、公正な評価制度の構築や、複雑な制度への対応、そして社員一人ひとりとの丁寧なコミュニケーションには、専門的な知識とノウハウが不可欠です。自社だけで全てを抱え込まず、障害者雇用支援の専門家や外部サービスを積極的に活用することが、成功への最も確実な近道となるでしょう。