更新日:2024/11/06
デューデリジェンスとは? M&Aの意味・目的や種類を分かりやすく解説
【監修】株式会社ジオコード マーケティング責任者
渡辺 友馬
「デューデリジェンス」は、企業の買収や合併(M&A)を検討する際に必ずと言っていいほど登場する言葉です。英語の「Due(当然の、正当な)」と「Diligence(精励、努力)」を組み合わせたもので、「DD(ディーディー)」と略して呼ばれるケースもあります。
本記事では、デューデリジェンスとは何か、M&Aにおける意味や目的、種類について分かりやすく解説します。デューデリジェンスを実行する際の手順や注意点にも触れるので、本記事で理解を深めてM&Aを成功させるための第一歩を踏み出しましょう。
この記事の目次はこちら
デューデリジェンスとは
デューデリジェンスとは、企業や投資対象となる事業の調査・検証を行うことです。日本語では「買収監査」とも呼ばれています。
具体的には、企業の財務状況や事業の競争力、将来性などの評価、法的なリスクなどを調査しまとめます。投資家や企業は調査結果を分析し、買収対象の価値や潜在的なリスクを正確に把握することでより適切な意思決定に役立てます。
M&A(合併・買収)や組織再編など、企業の重要な意思決定を行う際には、必ずと言っていいほど行われるプロセスです。一般的には、基本合意書を締結した後に行われます。
M&Aにおけるデューデリジェンスの意味
デューデリジェンスは、M&Aにおいて重要なプロセスです。M&Aとは「Mergers and Acquisitions」の略で、合併と買収を指す言葉です。企業同士が合併したり、ある企業が別の企業を買収したりするなど企業間の再編を意味します。
M&Aは企業が事業を拡大したり、新たな市場に進出したり、競争力を強化したりするための手段として利用されるケースが一般的です。例えば「知的財産を持ちながらも業績が上がらない」「収益性は高いが後継者がいない」などの課題をM&Aによって解決します。
デューデリジェンスは、買収する企業の資産・財務状況を調査して買収価格を決定する他、職場環境や従業員問題など買収後に発生する可能性のあるリスクを事前に把握します。スムーズに統合するための計画を策定する要素にもなるものです。
売却側の役割とは?
デューデリジェンスは、買収を検討する買主側が投資判断を目的に実施されるので、対象となる企業を詳細に調査する必要があります。そのため売却側企業はさまざまな情報や資料を要求されることになります。売却側企業にとっては、自社のメリットだけでなく悪い部分も含め内部情報を開示しなければならず、必ずしも気分の良いものとは言えないでしょう。
しかし、デューデリジェンスに協力するのは買主側に信用を与える上で非常に重要です。隠ぺいや虚偽の報告をしてしまうと、後に大きな問題となる可能性があるだけでなく、交渉が難航したり最悪の場合買収が中止になったりすることもあるからです。
より良い条件でのM&Aを達成するためにも、買主側との信頼関係を築き協力的な姿勢を示すことが大切です。
デューデリジェンスを行う理由
デューデリジェンスは組織の現状を調査・分析するM&Aのプロセスの一つです。M&Aにおいてデューデリジェンスが必要な理由を3つ紹介します。
- 企業や物件状態の調査
- 取引価格が適正かどうかを評価する
- 経営承継を円滑に行う
企業や物件状態の調査
デューデリジェンスを実施する理由の一つは、企業や物件の状況を詳細に調査するためです。
企業買収の場合、買収後には買収対象企業の負債や法的問題も引き継ぐことになります。オフィスや工場、施設といった物件購入においても、隠れた欠陥や法的問題が存在する可能性が考えられるため調査が必要です。
リスクを最小限に抑えて適切な価格で取引を行うには、財務状況だけでなく法務面、市場での位置づけなど、企業のさまざまな側面を総合的に調べる必要があります。
デューデリジェンスはこのようなリスクを事前に把握し、適切な意思決定を行うための重要なプロセスです。詳細な調査を通じて、買収後のトラブルを未然に防ぎ、安定した事業基盤を構築できるようになります。
取引価格が適正かどうかを評価する
デューデリジェンスを行うのは、取引価格の適正性を評価するためという理由も挙げられます。M&Aにおける買収価格は対象企業の価値に基づいて決定されますが、価値を正確に算出するのは非常に複雑かつ困難な作業です。
企業の価値は、将来の収益力、市場での競争力、成長性、そして潜在的なリスクなど多くの要素によって形成されます。デューデリジェンスでこれらを明らかにすることで取引価格の適正化を図ります。
対象企業の実態が十分に把握できなければ、価値を正確に評価するのは難しいでしょう。財務データに隠された問題や、未公開の負債が存在するリスクが発覚する可能性もあります。
デューデリジェンスは企業を知るための単なる調査という位置付けではなく、買収の成否を左右する重要なプロセスと言えます。
経営承継を円滑に行う
デューデリジェンスは経営の引き継ぎをスムーズにする上でも重要です。M&Aでは買収後に対象企業の経営を引き継ぐため、その際に対象企業の実態が十分に把握されていない状態では円滑な引継ぎが難しいでしょう。
例えば組織構造が複雑であったり、業務フローが非効率であったりする場合は、統合に時間がかかり生産性が低下しやすくなります。また従業員のモチベーション低下や顧客離れといった問題にもつながりかねません。
デューデリジェンスで内部を調査し、対象企業の組織や人事、業務内容、IT環境などを詳細に把握することで、スムーズな経営継承が可能になります。
デューデリジェンスは主に7種類
デューデリジェンスは調査・分析する範囲や内容によっていくつかの種類があります。以下では、M&Aで行われる主なデューデリジェンスを7種類挙げて、それぞれ説明します。
- セルサイドデューデリジェンス
- ビジネスデューデリジェンス
- 財務デューデリジェンス
- 人事デューデリジェンス
- 法務デューデリジェンス
- ITデューデリジェンス
- 環境デューデリジェンス
1.セルサイドデューデリジェンス
セルサイドデューデリジェンスとは、M&Aの売却側が自社の情報を事前に整理し買い手に開示することです。一般的なデューデリジェンスは買い手側から調査に乗り出すのに対し、セルサイドデューデリジェンスは売り手から積極的な情報提供がされます。
買い手が懸念する情報を売り手側から開示することによって、M&Aの交渉や契約締結の過程をスムーズに進められ、最終的な取引条件の最適化にもつながります。具体的には以下のようなメリットが得られます。
- 買い手側の調査コストと時間を削減できる
- 買い手側の調査範囲を絞り込める
- 売り手側の情報開示の透明性を高められる
- 買い手側からの信頼を得やすくなる
セルサイドデューデリジェンスは情報分析の効率化や信頼性の担保など、M&Aを成功させるための重要な戦略の一つとしても注目されています。
2.ビジネスデューデリジェンス
ビジネスデューデリジェンスとは、企業の買収や投資を検討する際、対象となる企業の事業内容や財務状況、法的リスクなどを総合的に調査・分析するプロセスです。企業の価値を正確に評価し、投資リスクを最小限に抑えるために不可欠です。
ビジネスデューデリジェンスの調査内容は、大きく分けて「外部環境分析」と「内部環境分析」の2つに分けられます。
調査項目 | 調査目的 | |
外部環境分析 | 対象企業が置かれている市場環境を把握し、その成長性やリスクを評価する(市場規模、競争力、成長率、トレンドなど) | 企業が置かれている現状を理解し、今後の事業展開の予測・分析を行う |
内部環境分析 | 対象企業の経営状況、事業内容、競争力を評価し、その持続可能性を検証する(財務状況、企業のリスク、人事、知的財産など) | 企業の強み・弱みなどの評価、またリスクなど問題点の特定 |
上記2つの分析に加えて、経営者や事業のキーマンへのヒアリングを行い、事業の安定性や今後の成長性を見定めます。
3.財務デューデリジェンス
財務デューデリジェンスとは、企業の買収や投資を検討する際に、その企業の財務状況を詳細に分析・評価し企業の健全性や投資価値を判断するプロセスです。
企業の財務状況は、企業の資金の流れを調べる「キャッシュフロー計算書分析」、資産状況を把握する「貸借対照表分析」、収益性や採算性を評価する「損益計算書分析」などがあります。
過去の財務実績の分析などを通じて、企業の収益力、財務健全性、成長性などを総合的に評価し投資の判断材料とします。
4.人事デューデリジェンス
人事デューデリジェンスは企業の買収や合併などを検討する際に、その企業の人的資源に関する情報を詳細に調査・分析することで、企業の人的リスクや人材の強みを把握するプロセスです。
組織構造の合理性や人員配置のバランスなどを調べる「組織・人員構造の分析」、従業員のスキル・経験を基盤として調査する「人材の質的評価」、賃金、昇進、福利厚生などの在り方を明らかにする「人事制度の分析」、従業員の労務管理を評価する「人材リスクの把握」など多角的な視点から分析を行います。
企業の人材は重要な資産であり、買収後の経営統合において重要な調査内容となります。
5.法務デューデリジェンス
法務デューデリジェンスとは、M&Aや事業提携などの際、対象企業の法的リスクを事前に詳細に調査・分析することです。
定款、株主総会議事録、取締役会決議など設立から現在までの法的な経緯、保有資産、契約関係、訴訟・紛争の有無、労働問題、潜在的な訴訟リスクなどを特定し対策を講じます。
対象企業の法的問題を把握し、取引に伴うリスクを最小限に抑えて円滑な取引を実現するためにも大切な調査です。
6.ITデューデリジェンス
ITデューデリジェンスとはM&Aにおいて、買収対象となる企業のITシステムの調査および評価を指します。具体的には、対象企業が使用している営業、管理、会計などの業務システムが事業に果たす役割・価値の詳細な調査です。
ITシステムは企業の無形資産の重要な一部です。ITデューデリジェンスでは、買収対象企業のシステムと自社のシステムとの整合性、および統合に伴う潜在的な課題を事前に洗い出します。
システム改修、データ移行、人員育成など、統合に必要となる費用を事前に見積もり、統合プロセスにおけるリスクを最小化してスムーズな移行を実現するのが目的です。これによりM&A後の投資計画をより正確に策定できます。
7.環境デューデリジェンス
環境デューデリジェンスは不動産購入や合併などの取引において、対象となる不動産に関連する環境リスクを事前に詳しく調査・特定し、評価する重要なプロセスです。
土壌汚染、有害物質の存在、法令遵守状況、周辺環境との関係など、多岐にわたる環境問題が調査対象となります。これらの環境リスクは、取引後の責任の所在や将来発生する可能性のある環境修復費用など、取引条件に大きな影響を与えるだけでなく、最終的な契約内容や取引価額の調整要因となります。
買収側・売却側ともに、明確な情報開示により透明性が高まり、結果として取引の安全性向上につながります。近年の環境問題により環境デューデリジェンスも重要視されています。
デューデリジェンスのフロー
デューデリジェンスのフローは案件によって多少異なりますが、ここでは一例として一般的に行われる流れを説明します。
チームを組成する
デューデリジェンスを開始するには、まず調査チームを組成します。チームを組成するには調査範囲を明確に定めることが必要です。M&Aの目的、対象企業の事業内容、買収金額などさまざまな要素を考慮し調査すべき範囲を絞り込みます。
デューデリジェンスには専門の知識が必要となるため、チームには財務、法務、事業、人事、技術などの専門家を揃え、多角的な視点で対象企業を評価できるようにしましょう。
チーム組成後は限られた時間内で効率的に調査するため、各メンバーの役割分担、調査期間、進捗状況などの管理が必要です。重点的に調査すべき項目を特定し、詳細なスケジュールを策定します。
並行して、売り手企業に対して必要な書類や情報の請求準備を進めるため情報請求リストを作成しましょう。
資料の分析と現地調査
チームを組成し調査項目やスケジュールが決まったら、資料の収集・分析と現地調査です。公開されている情報だけでは得られない法的リスクや環境問題、労務問題など企業の深層部にあるリスクや課題を明らかにしていきます。
売り手企業から財務諸表、事業計画、契約書などの必要資料を提示してもらい、詳細な分析を行います。それでも不十分な場合は、経営者や役員などへのインタビューが必要となるでしょう。
インタビューは現地調査を踏まえて対象会社で実施するのが一般的です。M&Aに向けた動きであることを従業員に察知されないように土日に行うケースが多いです。
調査結果の検討
資料の分析と現地調査、インタビューが完了したら、調査チームが結果をまとめて買い手企業へ報告します。調査チームから提出された調査結果を丁寧に分析し、矛盾点や疑問点を洗い出した上で総合的に評価します。
さまざまな角度から情報を照らし合わせ、取引条件の妥当性や収支見通しの合理性を再度検証し最終的な条件を決定します。結果によっては取引価格や契約内容の見直しや、取引自体の中止を検討する可能性もあるでしょう。
デューデリジェンスはM&Aの成否を左右する重要なプロセスです。M&Aの進め方を詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。
>>M&Aはどうやって進める? 準備からクロージング、統合後までの流れを徹底解説!
デューデリジェンスを行う際の注意点
デューデリジェンスをスムーズに進めるためにも、事前に注意点を確認しておきましょう。費用や期間、スケジュールなど注意したい3つのポイントを押さえることが大切です。
- 費用や期間の目安を把握しておく
- タイミングを逃さない
- 専門家の協力が必要
費用や期間の目安を把握しておく
デューデリジェンスを実施する前に、費用や期間の目安を把握しておきましょう。
デューデリジェンスの費用は、すべてM&Aの買い手企業が負担します。費用相場はデューデリジェンスの種類や規模によって大きく異なりますが、数十万円から数百万円と調査する範囲が広いほど費用は高くなります。一般的に財務と税務のデューデリジェンスの場合であれば100万円程度が相場です。
デューデリジェンスにかかる期間は小規模事業者・中小企業なら数日から数週間、中堅企業・大企業で1~2カ月が目安とされています。
なおM&Aにおける費用や算定方法などについて知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。
タイミングを逃さない
デューデリジェンスは、実施するタイミングを逃さないように注意しましょう。デューデリジェンスはM&Aの基本合意書に署名した後から、最終条件の交渉に入る前までに行うのが一般的です。
基本合意書締結後にスムーズに実施すれば円滑に調査が進み、より適切な評価が可能になる他、交渉力も維持できるため、M&Aの成功へとつながるでしょう。
早すぎる段階で実施してしまうと、合併の噂が流れて従業員や取引先が動揺し事業に悪影響を及ぼす可能性があり、反対に遅すぎると別の買い手と取引されてしまう可能性があります。
専門家の協力が必要
デューデリジェンスは、多岐にわたる専門知識が必要なため専門家の協力が欠かせません。専門家を選ぶ際には、調査対象の業界や分野に精通し実績のある担当者を選ぶことが大切です。
経験が豊富な担当者なら過去の経験から必要な要点を押さえており、効率的に調査を進められるからです。専門家へ依頼する際はM&A仲介会社へ相談するとよいでしょう。
おすすめのM&A仲介会社はこちらの記事で紹介していますので参考にしてください。
>>【2024年最新】おすすめのM&A仲介会社比較50選! 手数料や会社選びのポイントを解説
デューデリジェンスを活用して合併や買収を成功させよう
デューデリジェンスは、M&Aにおいて欠かせないプロセスです。デューデリジェンスを円滑に行い、質の高い調査結果を得ることが重要です。それを基に企業の価値を評価し、潜在的なリスクを把握することで、より適切な契約条件で取引ができるでしょう。またM&A後のトラブルを回避し、シナジー効果を最大限に引き出すことも期待できます。
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